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貯金を理由に旅行を断った僕が、「俺が正しい」の後に受け取った1行

  • 2026.9.29
ハウコレ

正しさを盾にしたのは、同じ言葉で誰かに切り捨てられた直後だったからです。届いた返信は、僕が身構えていたどの言葉とも違いました。

会議室の隅で、スマホに打ち込んだ文字を3回消しました。4回目に残ったのは、彼女への長い言い訳と、最後に付け足した「俺が正しい」の1行。送信を押したのは、間違いなく僕の指でした。

「お前は正しいけど」と言われた日

その日の午後、僕は上司から呼ばれていました。担当先との段取りをめぐって、僕の主張が通り、代わりに同僚の案が流れた件でした。

「お前の言うことはいつも正しい。でも正しいだけじゃ誰もついてこないぞ」

上司はそれだけ言って席に戻りました。反論の余地はありませんでした。正しかったはずなのに、会議室に残った僕には、負けた側の空気しか残っていませんでした。

そのタイミングで、彼女からメッセージが届いたのです。

「連休、温泉行きたい。予約しちゃっていい?」

彼女に向けてしまった矛先

引っ越しのための貯金は、2人で決めたことでした。僕はそれを理由に、いつもより早く返しました。

「今は無理。引っ越し貯金優先って決めたよね」

「決めたけど、ずっと我慢はきついよ」

その一文を読んだ瞬間、僕の頭にあったのは温泉でも貯金でもなく、さっき言われたばかりの「正しいだけじゃ」という言葉でした。今日はもう、誰にも正しさを疑われたくなかった。だから理屈を並べました。

「去年も直前で予定崩れて無駄になっただろ。今回だって残業で行けるか分からない。無理して行って疲れて喧嘩するくらいなら、やめておく方がいい。俺が正しい」

最後の1行は、彼女に向けたものではなく、上司に言い返せなかった分でした。送ってから、それに気づきました。

届いた1行

既読はついたのに、返事は来ませんでした。僕は会議室を出て自分の席に戻り、何度もアプリを開いては閉じました。怒っているのか、呆れているのか。画面からは何も分かりません。今頃、洗い物でもしながら、僕の文面を読み返しているのだろうか。

ようやく届いた返信は、想像していた反論のどれでもありませんでした。

「うん、正しいよ」

正しさを認められたのに、少しも勝った気がしませんでした。彼女は僕の理屈と戦わず、理屈ごと受け取って、帰る場所だけを指さしていた。上司に言われたことを、彼女は1行で言い直していたのだと思います。

そして...

「今から帰る」

そう送って、僕は残っていた資料を明日に回しました。途中のコンビニでプリンを2つ買ったのは、手ぶらで玄関に立つ自信がなかったからです。

チャイムを鳴らし、靴を脱ぐ前に言いました。

「ごめん。正しいって書いた時点で、もう負けてた」

「知ってた」

温泉に行けるかは、まだ決まっていません。ただ、その相談を「俺が」ではなく「2人で」始められたことだけは、今日1日で唯一正しかったと思っています。

(20代男性・営業職)

本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。

(ハウコレ編集部)

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