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『これ捨てとくね』母のメッセージに気づいた時には、20年一緒だったぬいぐるみはもうなかった

  • 2026.9.29
ハウコレ

会議を終えてスマホを開くと、母からのメッセージが1件届いていました。添えられた写真には、実家の床に置かれたうさぎのぬいぐるみ。先週帰省した時に、うっかり枕元に置いてきたものでした。

「これ捨てとくね」の一言

母は断捨離の最中で、少し前から「いらないものは言ってね」というメッセージが何度か届いていました。私は自分の物は全部持ち帰ったつもりでいたので、どれも既読だけつけて流していました。

今回の文面は「これ捨てとくね」。写真のうさぎは耳の先がほつれて、綿がのぞいていました。会議が長引いた分だけ、既読が遅れていました。

私は廊下を歩きながら返信を打ちました。

「待って、それ捨てないで」

「先週忘れていっただけなの」

あのうさぎは、幼稚園の頃から20年ずっと枕元にいました。1人暮らしを始めた時も、その後の引っ越しでも、段ボールの一番上に入れて運んだものです。母はそれを知りません。私が話したことがなかったからです。

返信はすぐに既読になりました。

「ごめん、もう出しちゃった」

「ボロボロだから捨てていいのかと思った」

「ぬいぐるみくらい」と返された

母からは続けて、こう届きました。

「もう大人なんだし、ぬいぐるみくらいいいでしょ」

私は打ち込んだ文字を一度消して、もう一度打ちました。

「くらい、じゃないよ。ずっと一緒だったの」

「それ、私の何よりも大切なものなんだよ」

送信してから、画面の上に入力中の表示が出ては消えるのを、何度か見ました。母は今頃、何を書いては消しているのだろうと思いました。そのうち表示は出なくなり、画面は暗くなりました。

自分の席に戻っても、私は写真を拡大しては、ほつれた耳のところを眺めていました。捨てられたのはうさぎなのに、責める相手が見つかりませんでした。私は母に、あれが大事なものだと一度も伝えていなかったのです。

届いた収集所の写真

返信が来たのは、机の上の書類がひと山減った頃でした。

写真は、実家の近くの集積所でした。袋は1つもなく、コンクリートの地面だけが写っていました。

「収集所まで行ったけど、もう持っていかれてたよ」

「ごめんね。聞いてから捨てればよかった」

母がそこまで歩いたのだと思うと、写真の地面が別のものに見えました。私は短く返しました。

「わかった。行ってくれてありがとう」

知らなかったのではなく、私が言わなかった。それだけのことでした。

そして...

「これ捨てとくね」に添えられていた写真を、私は印刷して本棚の端に立てています。床に置かれた、耳のほつれたうさぎ。最後の1枚が母の手で撮られたものだったことを、今は悪くないと思っています。

(20代女性・会社員)

本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。

(ハウコレ編集部)

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