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彼女に合鍵を渡せなかった俺の部屋は、2年間ずっと妹の名義でした

  • 2026.9.29
ハウコレ

「もう少し待って」と言うたび、彼女の顔から表情が消えるのは分かっていました。自分名義で契約し直せる状態になった去年も、書類は引き出しに入ったままでした。

テーブルの真ん中に、妹あての封筒が置いてありました。差出人は、この部屋の管理会社です。飲み物の袋を提げたまま、俺は玄関で靴を脱ぐのを忘れていました。彼女は椅子に座ったまま、こちらを見ていました。

審査に落ちた2年前、妹の名前で借りた部屋

2年前、今の会社に転職したばかりの俺は、部屋の契約審査に通りませんでした。契約社員になったばかりで、収入の証明も十分に出せない時期でした。管理会社に相談すると、親族を契約者にする形なら申し込めると言われ、妹に契約者になってもらいました。実際に住むのは俺だと届け出たうえでの契約です。鍵は2本。契約者の妹が1本を持ち、俺は残りの1本で暮らし始めました。

その直後に付き合い始めた彼女は、すぐに部屋に泊まるようになり、歯ブラシも部屋着も増えていきました。合鍵の話が出るたび、俺は同じ言葉を返しました。

「もう少し待って」

鍵を1本増やすには、契約者である妹から管理会社に申請してもらう必要がありました。ただ、頼めば、この部屋が自分の名義ではないことを彼女に話す流れになる。彼女の前では、ちゃんとした大人に見せておきたい。それだけの理由で、俺は2年間、待ってと言い続けました。

正社員になっても、引き出しにしまったままの紙

去年、俺は正社員になりました。自分の名義で契約し直せる条件は、その時点でそろっていました。管理会社から取り寄せた申込書類は、今も机の引き出しに入っています。

書けば、妹に名前を貸させ続けずに済み、彼女には鍵を渡せる。分かっていて、俺は書類を出しませんでした。名義を変えるには、彼女に今まで妹の名前だったと説明することになる。しかも去年から動けたのに、1年放置したことまで話さなければならない。黙っていたぶんだけ、切り出す言葉は重くなりました。

「もう少し待って」と言うたび、彼女の顔から表情が消えるのは分かっていました。それでも次に会えば笑ってくれる彼女に、俺は毎回甘えていました。

「言ったら、頼りない男だと思われると思ってた」

妹が来ていた日、俺は飲み物を買いに出ていました。妹からの「更新の通知、テーブルに置いた。名義のこと、彼女さんに話したよ」というメッセージを読んだのは、部屋の前まで戻ってからです。立ち尽くす俺に、彼女は座ったまま、向かいの椅子を目で示しました。

「この部屋の名義のこと、妹さんから聞いたよ」

「言ったら、頼りない男だと思われると思ってた」

「頼りないのは、黙ってたことのほうだよ」

俺は袋を床に置き、順に話しました。妹名義で借りたこと、鍵を増やすには妹の申請が要ること、今は自分名義に変えられるのにそのままにしていたこと。去年から書類を引き出しに入れていたことだけは、言えませんでした。

彼女は途中で口を挟まず、最後に「名義、ちゃんと戻して」とだけ言いました。妹に頼めば済んだ話を、俺は見栄で2年引き延ばしていたのです。

そして...

翌月、俺は妹と一緒に管理会社へ行き、必要な手続きを済ませました。そのあと追加した鍵を彼女に渡すと、「今度は待たせないでね」と言われました。俺は「うん」と答えました。

(20代男性・システムエンジニア)

本記事は、読者アンケートに寄せられた実体験をもとにした本人視点の記事を参考に、相手側の心情を想定して制作しています。実際の相手本人への取材ではなく、編集部による解釈を含みます。

(ハウコレ編集部)

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