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教室で私の絵にだけ「描き直してきてください」が続き、才能がないのだと思った日

  • 2026.9.26
ハウコレ

洗い場で筆をすすぎながら口にした質問に、先生は短く答え、先に教室を出ていきました。その言葉の意味を、私は次の回まで持ち帰ることになります。

乾ききらない画用紙の端を、指の腹で押さえていました。教室に通い始めて2年、家で描き直して持っていく絵はこれで何枚目になるのか、すぐに数えるのをやめました。今回も、先生が私の絵の前で足を止めるのは、ほめるためではない気がしていました。

先生が足を止める席

駅前のビルの3階にある水彩画教室に、私は月に2回通っています。生徒は10人ほどで、ほとんどが私より年上の方でした。先生は70代の女性で、長机の間をゆっくり回りながら、1人ずつ絵をのぞき込んでいきます。

隣の席の方の紙の前では「いいですね。このまま仕上げましょう」と声を掛け、その次の席でも同じようにうなずいていました。私の番になると、先生は身をかがめて空の部分を指さしました。

「ここ、描き直してきてください」

この2年で、私が言われた言葉はほとんどそれだけです。持っていった八百屋の店先の絵は、これで4度目の描き直しでした。

隣の席の笑い声

休憩のとき、隣の方が自分の絵を見せながら「先生に初めてほめられた」と笑っていました。入って3か月の人でした。

私は水入れの水を替えようと立ち上がり、自分の紙を見下ろしました。空の色は、前回言われたとおりに薄くしたつもりです。何が違うのか、先生は一度も説明してくれませんでした。

帰りの電車で、教室の申込書に書いた、趣味として長く続けたいという自分の字を思い出しました。長く続けるほど、直される回数だけが増えていく気がしていました。

洗い場で聞いたこと

ある回の終わり、ほかの生徒が帰ったあとも私は洗い場で筆をすすいでいました。先生が隣に立って、自分のパレットを水につけました。聞くなら今しかないと思って、私は蛇口を止めました。

「私、向いてないんでしょうか」

先生は何も言わずパレットを洗う手も止めません。しばらく経って、先生は私より早く洗い場を離れました。

「向いていない人に、描き直せとは言いません」

それだけ言って、先生は先に教室を出ていきました。私は呆然と洗い場の前に立ったまま、色がにじみ出続けている筆を眺めました。ほめられたわけではありません。それでも、その日出すつもりで鞄に入れていた退会の用紙を、私は出しませんでした。

そして...

次の回、先生は私の絵の前で足を止め、いつもより長く紙を見ていました。

「秋の展示に、1枚出してみませんか」

私は返事の前に、空の部分を指でなぞりました。4度描き直したあの八百屋の絵を家の壁に貼ったまま、今は新しい紙を広げています。

(30代女性・事務職)

本記事は、ハウコレ読者への独自アンケートに寄せられた実体験をもとに制作していますが、個人が特定されないよう、一部設定を変更しています。

(ハウコレ編集部)

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