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「49歳女性の無子比率3割」世界で一番、子どもを産まない国で「子がほしい」という若者の全く喜べない理由

  • 2026.7.30

厚生労働省の統計によると、2025年の出生数は67.1万人で過去最低に。少子化について研究、政策提言を行う前田正子さんは「人口推計より15年早く少子化が進んでいる。1975年生まれの女性の28.3%が生涯子を産まないというデータもある」という――。

日本女性は世界で一番「子を産まない」

2024年のOECD(経済協力開発機構)報告書では、「日本の女性が世界でいちばん子どもを産んでいない」という衝撃の事実が明らかになりました。その年に49歳だった女性(1975年生まれ)の「無子比率」は日本が世界一高く、28.3%にも上っていたのです(2位はスペインで23.9%、3位は22.5%でイタリア)。

なぜ49歳で無子比率を計るかというと、50代になってから子どもを産むケースはほとんどなく(2023年の日本のデータで100人ほど)、49歳時点で無子の人はおそらく一生子どもを持たないと判断できるからです。

つまり、この世代に当たる日本女性の3割近くは子どもを産んでいない。もはや日本は「少子化」ではなく「無子化」の時代に突入しているのです。

【図表1】OECD諸国の子どもを持たない女性の割合(1975年・1955年生まれ)
出典=『子どもの消えゆく国で』(岩波書店)
想定より15年早く少子化が進んでいる

ことし6月に厚労省が発表した統計でも、25年の合計特殊出生率(1人の女性が生涯で産む子どもの数)は過去最低の1.14、出生数も過去最少の67.1万人でした。出生数は前年の推計(66.5~66.7万人)よりはわずかに上回りましたが、2016年に100万人割れをして以来、急速に減っていく一方です。

2023年時点での予想では、出生数が70万人を切るのは2038年で、66万人になるのは2039年のはずだったので(国立社会保障・人口問題研究所の推計)、想定より13~15年も速いペースで少子化が進行しているのです。いったいなぜなのでしょうか。

これまで、少子化の一因は「女性の高学歴化」や「社会進出」だと言われてきました。しかし近年、男性に限らず女性でも、結婚確率が高いのは正規雇用で働いている人だという実態が明らかになっています。ここからは、安定した職を得て支援制度を活用しながら結婚・出産までの道筋を描ける人と、そうでない人との格差が広がっている現状がうかがえます。

【図表2】出生数及び合計特殊出生率の年次推移(1947~2025年)
出典=厚生労働省「令和7(2025)年人口動態統計月報年計(概数)の概況」を編集部で一部加工
30年間、少子化に取り組んできた

私は30年近くにわたって少子化問題や保育政策を研究してきました。きっかけは、自分がそうした課題に直面したからです。

30歳で妊娠したとき、当時の環境では仕事を辞めざるを得なくて本当に悔しい思いをしました。周囲は「おめでとう、いいお母さんになってね」と祝福してくれましたが、私自身は「仕事を辞めたくなんかない」「ここで家庭に入ったら次のキャリアはない」という思いでいっぱいでした。

第1子出産直後、アメリカに留学

そこで夫と話し合い、夫婦でアメリカのビジネススクール(MBA取得のための経営学部大学院)に入学することにしました。息子を連れて渡米したのは出産の半年後ぐらい。授業に出ながらの育児には苦労もありましたが、当時は今ここでがんばらないと私の一生が変わってしまうと思っていましたから。

前田正子さん
前田正子さん(撮影=プレジデントオンライン編集部)

実際、留学では大きな収穫を得ることができました。スクールには世界中からいろいろなバックボーンを持った学生が来ていて、ときには各国の子育て事情や支援制度、女性のライフデザインなどについて話し合うこともありました。

その中で私が日本の現状を話したら、「世界で一番不幸なのは日本の女性だね」って言われたんです。「勉強して能力を磨いて仕事に就いても、家事育児は全部妻がやらなきゃいけないんでしょ? マサコ、日本に帰るのやめなよ」って(笑)。

もちろんどの国の制度にもそれぞれ長所短所があって、デンマークとアメリカの学生がどちらの制度がベストかで論争していたこともありました。私はそれを見ながら、ふと「じゃあ日本はこれからどうなっていくんだろう」と思ったんです。そして、帰国したらこれを自身の研究テーマにしようと決めました。

少子化対策の現場でも母親に負担が

帰国後は運よくシンクタンクに就職することができ、そこで少子化や子育て支援に関する研究を始めました。当時は合計特殊出生率が過去最低の1.57を記録し、国が初めて少子化対策に乗り出そうとしていた時期でした。厚生省では仕事と子育ての両立支援や保育サービスの拡充などを含めた「エンゼルプラン」をつくろうとしていて、私も政府の委員会に呼ばれてアメリカの保育制度の話や、日本でも保育園探しで苦労したことなどをさせてもらいました。

しかし、私自身の勤め先でも、まだ育児をしながら働く女性は圧倒的に少数。職場でも厚労省の会議でも周りはおじさんばかり。しばらくは子どもがいるから、早く帰らないといけないと言い出しにくくて、保育園にお迎えに行くために嘘をついて早く帰ったり、黙って長引く会議を抜け出してしまい、叱責されたりしたこともあります。

毎日切羽詰まっていて、どうすれば良いのかまともな判断もできなかったんですね。

雇用機会均等法施行から40年

日本で男女雇用機会均等法が施行されたのは86年。この頃はまだ女性が「仕事か家庭か」の選択を迫られる状況でした。90年代になると女性の4年制大学への進学率が急伸したものの、その後すぐ「就職氷河期」がやってきます。

この頃、特に女性は非正規職に就かざるを得ない場合が多く、育児休業制度や時短勤務制度などもまだ整備されてはいませんでした。この時期に就職活動をした年代の女性には、経済的に不安、あるいは結婚や子育てを経ても仕事を続けられる制度がないといった状況から結婚や出産を先送りする人も多く、未婚率・無子率ともに高い水準となっています。

氷河期世代の女性が「無子化」

氷河期が終息した2000年代半ばには「仕事も家庭も」の女性が出始め、10年代以降は育児休業制度や時短勤務制度の利用が比較的容易になって、子育てしながら仕事を続ける母親も増えました。

ですが、このタイミングは、60〜70年代生まれの女性が結婚・出産するには遅すぎたのかもしれません。その結果のひとつが「75年生まれの女性の無子比率世界一」だと思います。この世代はベビーブームの中で誕生し、出生数が約190万人、女性の数も92万人いるのに、その大勢の彼女たちが子どもを産むチャンスを逃したのです。

働く母親が娘たちと手をつないで一緒に通りを歩いている
※写真はイメージです

では、そのさらに子ども世代に当たる女性はどうでしょうか。先にお話しした6月の厚労省の発表では、2025年の婚姻数は前年から下がっていません。今の若い女性の多くは両立支援制度が整っている企業を選びますし、大卒者を中心に正社員になる女性も増えて保育園にも入りやすくなっています。結婚・出産も選択しやすくはなりました。

氷河期ジュニアの母数は増えない

とはいえ、少子化がずっとつづいてきたわけですからそ、これから子を産む世代は母数自体がすでに少ない。少なくとも今後30年間、少子化が止まることはあり得ません。

その一方、団塊の世代などシニアは寿命を迎え、どんどん減っていくので、日本の人口も減り続けます。

企業の両立支援制度も、充実させたがゆえの問題が顕在化し始めています。この制度は本来、子育てをしながら職業能力を高め、ゆくゆくは責任あるポジションに就いて、会社や次に出産する人を支えてもらおうというものです。

なぜ「子持ち様」と呼ばれるのか

それが今、制度利用者の中に、育児中も生産性を上げて後々管理職になり、会社に貢献しようという人と、“ゆるい”働き方を続けたいからと責任ある仕事を敬遠する人とが出始めているのです。もし後者が大多数を占めるようになったら、会社は沈没してしまうでしょう。これでは制度自体が維持できなくなります。

最近は「子持ち様」なんて言葉もありますが、出産した女性の大多数が前者だったら誰もそんなことは言わないはずです。その意味では、改善策を打たないまま子育て中の社員の能力向上や管理職への登用など、子育てしながら能力を最大限発揮できるようにしてこなかった企業も、また「子持ち様」の共犯と言えるのではないでしょうか。

少子化対策などについての会談前に東京都の小池百合子知事(左)と握手する高市早苗首相=2026年1月22日、首相官邸
少子化対策などについての会談前に東京都の小池百合子知事(左)と握手する高市早苗首相=2026年1月22日、首相官邸
東京都だけは出生数がプラスに

先の厚労省の発表では、2025年の東京都の出生数がプラスに転じたことも報告されました。私としては、これは2015年ぐらいから東京で大卒正社員かつ既婚の女性の労働力率が上昇していることと関連しているのではないかと思っています。つまり、東京都では保育所や勤め先の両立支援制度を活用できる、恵まれた条件下にある女性が増えたということです。

赤ん坊を腕に抱いている女性
※写真はイメージです

子ども向け給付金や保育料の無償化拡大といった施策も功を奏したのかもしれませんが、財源が潤沢だからこそできる施策と、地方から人を吸い上げてきた結果の出生数プラスだとしたら手放しでは喜べません。これでは地方はやせ細るばかり。東京の一人勝ちは決していいこととは言えないと思います。

2月に出版した『子どもの消えゆく国で』(岩波書店)を読んでくれた人の中には、「少子化で何が困るんだ」という人もいました。「人口が増えすぎると地球によくないから、減るのは逆にいいんじゃないか」と。

地方のシステムが少子化で崩壊

そういう人は、地方のすさまじい状況を知らないんだろうと思います。このまま行けば、いずれ地方から若い人がいなくなって医療や介護、インフラなどのサービス基盤は崩壊するでしょう。

実際、東北地方では山火事の際に消防士が足りなくて延焼してしまう事件が起きています。病気の人や高齢者がいてもケアする人がいない、そんな日も来るかもしれません。都会に住んでいると、なかなかそこまで想像できないですよね。

一方で、今の若者の中には家族を持ちたいと望んでいる人もいます。私が大学で教えているゼミでは、結婚しない・子どももいらないという学生は男女ともにごく少数です。

なぜ若者は結婚したいのか?

幸せな家族を持ちたいと願う一方で、昔とは違う理由の学生もいます。ゼミで社会保障を教えていることもあって、彼らは皆、子どもが産まれないと今の制度は維持できないと知っています。そして、今のこの状況から、自分たちが年をとるころには社会保障はものすごく手薄になっているだろうと考えています。

前田 正子『子どもの消えゆく国で』(岩波書店)
前田 正子『子どもの消えゆく国で』(岩波書店)

そうなれば最後は1人じゃ生きていけなくなる。互いに助け合う家族がいないと生活が立ち行かなくなる。それが怖いから家族を持ちたいんだと、そう述べる学生もいます。

今後30年間、日本の少子化は止められません。ですから国は、せめてその後の世代が安心して結婚・出産を選択できるようにしていかなければならないでしょう。人は、自分と社会の将来がともに明るくないと、結婚して子育てしようとは思わないものです。

残念ながら、こども家庭庁の23年の調査によれば、日本の若者の6割強は「日本の将来は暗い」と感じています。産みさえすれば育てられる、社会が若い世代と子育てを応援してくれる――。若者が将来にそうした信頼感や安心感を持てるよう、日本は変わっていかなければいけないと強く思います。

取材・構成=辻村洋子

前田 正子(まえだ・まさこ)
甲南大学マネジメント創造学部教授
こども家庭庁審議会委員。専門分野は少子化・社会保障・保育政策。早稲田大学教育学部卒業。松下政経塾を経てノースウエスタン大学にてMBA取得。慶應義塾大学大学院商学博士。第一生命経済研究所ライフデザイン研究本部主任研究員、横浜市副市長等を経て現職。主な著作に『無子高齢化 出生数ゼロの恐怖』『母の壁 子育てを追いつめる重荷の正体』『子どもの消えゆく国で 「無子高齢化」と地域の子育て』(岩波書店)。

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