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イモムシに齧られると「ハチを呼び寄せる」植物ーー特殊能力の仕組みを解明

  • 2026.5.28
Credit:Generated by OpenAI’s DALL·E,ナゾロジー編集部

インゲンマメの葉は、イモムシに齧られても、完全に無抵抗ではありません。

彼らはイモムシに齧られると、空気中に特殊な匂いを放ち、その匂いを頼りにイモムシを食べるハチが集まってくることがあるのです。

まるで植物が「ここに敵がいます」と、見えない狼煙を上げているような現象です。

もちろん植物が人間のように考えてハチを呼んでいるわけではありません。

しかし今回、米ワシントン大学(University of Washington)などの研究チームは、インゲンマメがイモムシの攻撃をどう見分け、どのような仕組みでハチを引き寄せる匂いを出すのかを明らかにしました。

研究の詳細は2026年5月27日付で科学誌『Science Advances』に掲載されています。

目次

  • イモムシの「唾液」を検知する植物のセンサー
  • 匂いのブレンドが、ハチに「食事の場所」を知らせる

イモムシの「唾液」を検知する植物のセンサー

今回の研究対象となったのは、インゲンマメの一種(Phaseolus vulgaris)です。

この植物は、キドニービーンズやブラックビーンズ、ピントビーンズなど、私たちの食卓にも関わりの深い豆の仲間です。

植物は動物のように敵から逃げることができません。

そのため葉を食べられたときには、傷を修復したり、苦味や毒性のある物質を作ったり、さまざまな防御反応を起こします。

ただし、すべての傷に同じように反応するわけではありません。

風で葉が破れたのか、虫に齧られたのかを区別できなければ、必要な防御を効率よく発動できないからです。

そこで重要になるのが、イモムシの口腔分泌物に含まれる「インセプチン」というペプチドです。

イモムシが葉を齧ると、その口から出た成分が植物の傷口に触れます。

インゲンマメの葉の細胞表面には、このインセプチンを検知する「インセプチン受容体」があります。

受容体とは、外から来た特定の分子を受け取り、細胞の中へ情報を伝えるタンパク質です。

つまりインゲンマメは、単に「葉が傷ついた」と感じているのではなく、「これはイモムシによる食害だ」と判断するための化学的な手がかりを持っているのです。

研究チームは、インセプチン受容体が正常に働くインゲンマメと、この受容体が機能しない変異型のインゲンマメを比較しました。

葉にイモムシの口腔分泌物をつけたり、インセプチンの一種(In11)を処理したりして、植物の反応を調べたのです。

その結果、インセプチン受容体が正常な植物では、防御に関わる免疫反応が強く活性化しました。

反対に、受容体を欠く植物では、その反応が大きく弱まっていました。

では、この受容体はハチの誘引にも本当に関わっているのでしょうか。

匂いのブレンドが、ハチに「食事の場所」を知らせる

植物がイモムシに襲われたとき、空気中にはさまざまな揮発性物質が放出されます。

これは植物にとっての「匂いのメッセージ」のようなものです。

今回の研究では、インセプチン受容体が正常なインゲンマメは、イモムシの口腔分泌物に反応して、捕食性のハチを引き寄せると考えられる特徴的な揮発性物質のブレンドを放出しました。

その中には、DMNT や TMTT と呼ばれるホモテルペン類の化合物も含まれていました。

これらの匂いは、ハチにとって「ここに獲物がいるかもしれない」という手がかりになります。

【匂いに呼び寄せられてきたハチの画像がこちら虫が苦手な方は閲覧にご注意ください

一方、インセプチン受容体が機能しない植物では、同じ処理をしても典型的な食害誘導性の匂いブレンドが十分に出ませんでした。

つまり、単に葉が傷ついたことだけではなく、イモムシ由来の化学信号を受容体が検知することが、ハチを誘う匂い作りの出発点になっていたのです。

チームはこの仕組みを、野外でも調べました。

メキシコ・オアハカ州の農地で、インゲンマメにツマジロクサヨトウの幼虫を取り付け、捕食性のハチがどれだけやって来るかを観察したのです。

すると、インセプチン受容体が機能しない植物では、通常の植物に比べてハチの訪問や攻撃が約40%少なくなりました。

周囲にハチがいなかったわけではありません。

植物側が出す匂いの信号が変わったことで、ハチにとって見つけにくい場所になっていたと考えられます。

この結果は、植物、イモムシ、ハチという三者の関係を、分子レベルのセンサーから野外の生態現象までつなげて示した点で重要です。

植物はただ葉を食べられているだけではありません。

イモムシの唾液に含まれる分子を読み取り、体内の免疫反応を立ち上げ、さらに天敵であるハチが反応しやすい匂いを放つことで、間接的な防御を行っていたのです。

もちろん、この仕組みをすぐ農業に応用できるわけではありません。

畑にはさまざまな昆虫がいて、作物の品種や環境によって匂いの働き方も変わります。

それでも、植物が本来持つ防御の仕組みを理解できれば、将来的には農薬だけに頼らない害虫対策につながる可能性があります。

イモムシに齧られた小さな葉の上では、私たちの目には見えない化学信号が飛び交い、植物と虫とハチの複雑な駆け引きが始まっています。

一枚の葉は、ただの食べられる側ではなく、周囲の生き物を巻き込んで身を守る「静かな司令塔」でもあるのです。

参考文献

This Plant Summons Wasps When Under Attack, And We Finally Know How
https://www.sciencealert.com/this-plant-summons-wasps-when-under-attack-and-we-finally-know-how

元論文

A plant immune receptor mediates tritrophic interactions by linking caterpillar detection to predator recruitment
https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.aec3229

ライター

千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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