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「な、なんで勝手に動いてるんだ…?」長時間勤務明けの駅員が直面した“車内の光景”…思わず呆気に取られたワケ

  • 2026.6.12
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出典:photoAC ※画像はイメージです。

こんにちは。元鉄道駅員の川里です。

今回は、私が駅員時代に体験した「お客さま同士の助け合い」をご紹介します。疲れと驚きのせいで何もできず、心の中でお客さまに感謝したエピソードです。

社員ならではの制度

私が鉄道会社に入社してから知ったことのひとつに、この会社の社員は自社の普通列車には無料で乗車できるというものがありました。指定席券や特急券が別に必要な列車は、完全無料ではないものの運賃分は差し引かれました。

この福利厚生をよく使うかどうかは、自宅周辺の交通機関として自社の路線が便利かどうかに大きく左右されます。他社の路線バスのほうが便利なら、当然そちらに正規のお金を払って乗車していました。

最近、退職して以来久しぶりにかつての自社の列車を利用したのですが、改札口でICカードをタッチして

「おお、運賃が差し引かれた」

と奇妙な感覚を覚えました。

泊まり明けの思いつき

駅員時代、最も多く自社の列車に乗っていたのは、恐らくターミナル駅に勤めていた頃だったと思います。理由は単純で、周囲へのアクセスが良く、また列車本数も他の駅より多くて便利だったためです。

ある泊まり勤務明けの日。私は長時間に及ぶ仕事終わりの働いていない頭で
「どうせこのまま家に帰っても寝るだけだし、前から気になっていた美術館に寄ってみるか」

と、改札を通ってホームへ上がりました。普段お客さまに案内している立場なので、どこのホームにいればいつごろ列車が来るかはおおよそわかります。

ほどなくして、美術館の最寄り駅へ向かう普通列車が到着しました。私は「運転士や車掌がもし知り合いだったら、ちょっと嫌だなあ」と感じ、中間車両に乗車。座席は埋まっていたのでドア横の少し広いスペースにもたれかかりました。

衝撃の光景

身体と頭は疲れているはずなのに、このときは瞼を閉じても不思議と眠れませんでした。そもそも立ったまま眠るのが不可能なのか、眠るのにも体力が必要ということなのか、とにかくまったく眠れなかったのです。

「移動中に少しでも眠りたかったのに」

睡眠をあきらめた私が細く目を開けると、視線の先にそれまでなかったはずの何かがあるのを見つけました。「なんだ?」とよく見てみると、それは赤いキャリーバッグ。

誰も持ち手を持っていないキャリーバッグが、列車の揺れに合わせて前後左右に漂っていたのです。

完全に想定外

「な…なんでキャリーバッグが勝手に動いているんだ?」

私の目は釘付けになりました。

本来、勤務時間外であっても乗車中は列車の安全運転や定時運行、サービスの提供に協力しなければいけません。しかしこのときの私は疲れもあってか、すぐに状況を理解できず、船のようにゆらゆらと動いていくそれを前に思わずあっけにとられてしまいました。

ちなみに、駅員たちは列車内の異常時を想定した訓練を受けます。異常時の具体例としては車両火災や急病人対応などです。

「自身が疲労しているときに持ち主不明のキャリーバッグが通路を通っていく」という想定は、さすがにありません。

「想定外の事態に直面すると、人は何もできなくなってしまう」と聞きますが、まさにこのことかと感じました。ことの大小にかかわらず、接客や異常時対応にはある種の「アドリブ力」が必要なのかもしれません。

別のお客さまがキャッチ

やがて列車は緩やかな上り勾配に差し掛かりました。それにあわせ、キャリーバッグは私より車両の後ろへゆっくりと動いていきます。

「ああ、離れていく…早くなんとかしないと…」

そう思い、キャリーバッグを追いかけるためその場を離れ、動きました。

そのとき、車両後方のドア近くに立っていたお客さまがキャリーバッグをつかまえました。

それとほぼ同時に、車両前方から持ち主と思われるお客さまが恥ずかしそうに「すみません!」と受け取りにきました。座席に座っていたところ眠ってしまい、キャリーバッグが手から離れたようです。

中間車両での出来事だったので、運転士も車掌もきっと見えていなかったと思います。

全列車の全車両に鉄道会社の社員がいるとは限りません。私の本来行うべき行動ができなかったとはいえ、お客様同士が支え合う姿を見られたのは、ありがたい気持ちにさせてもらえる体験でした。


ライター:川里隼生

鉄道会社の駅係員として8年間、4つの駅を経験しました。コロナ禍やデジタル化を通して移り変わってきた、会社としての鉄道サービスの未来像と、お客様それぞれが求めている鉄道サービスのあり方の両方から学んだことを記事にしていきます。


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