1. トップ
  2. エンタメ
  3. 31年前の残酷な真実…“安易な”結末を選ばなかった今期のTBS金曜ドラマ、“重たい”ドラマに見えたわずかな希望

31年前の残酷な真実…“安易な”結末を選ばなかった今期のTBS金曜ドラマ、“重たい”ドラマに見えたわずかな希望

  • 2026.6.26
undefined
金曜ドラマ『田鎖ブラザーズ』最終話より(C)TBSスパークル/TBS

なんとも重たいドラマだった。復讐は何も生まないとはいうけれど、それでも復讐に決着をつけないと、先に進めないということもある。

TBS系 金曜ドラマ『田鎖ブラザーズ』は、タイトルに“鎖”とあるように、31年前に起きた両親殺害事件という重たい鎖に心を繋がれた兄弟が、なんとかこれからの人生を前向きに生きていくために、復讐を遂げようとする物語だった。
そして最終話、突きつけられた真実は最も残酷なものだった。はたして兄弟は、そこから何を得たのだろうか。最終話を迎えた今、改めてこのドラマの魅力を振り返ってみたい。

※以下、本文には放送内容が含まれます。

事件を映し鏡にして問い続けた“復讐の正しさ”

物語は、神奈川県警の刑事として働く田鎖真(岡田将生)と検視官の稔(染谷将太)の兄弟が、31年前に起きた両親殺害事件の真犯人を追う様を描く。普段はさまざまな事件を解決しながら、その裏で独自に過去の真相を探っていくという二層構造のサスペンスだ。

ドラマ序盤、兄弟は長年にわたって犯人であると信じつづけてきたノンフィクション作家の津田(飯尾和樹)の居場所を見つけだす。しかし彼は末期癌に侵され昏睡状態であり、結局事件について聞き出すこともできぬまま亡くなってしまう。このまま彼らの復讐譚は宙ぶらりんのまま終わってしまうのかと思いきや、実は津田は犯人ではないことが判明し、物語はより複雑に、残酷な方向へと転じていく。

本作は、両親殺害事件の真相だけでなく、毎週個別の事件に兄弟が向き合うのだが、それらの事件は彼ら自身を映す鏡になっている点がユニークだった。兄弟はその度に、まるで自分たち自身の行いの正しさを問われているかのような感覚に陥り、自問自答し続ける。復讐行為そのものよりも、この逡巡こそが本作の描こうとしていたことかもしれない。

そのように葛藤を抱えながらも追いかけた両親殺害の真相は大変に残酷なものだった。第9話で発覚した犯人は、町中華『もっちゃん』の店主、もっちゃんこと茂木(山中崇)。もっちゃんは、自分の母親を守るためにそうせざるを得なかった。さらに第9話では、その背景にあった辛島ふみ(仙道敦子)の事故と、家族を守るために銃密造に手を染めた工場長・貞夫(長江英和)の罪が明かされた。立派な人間ではなくても、間違った父親にはなりたくないと言い、彼らの犯罪を見逃さなかった父・田鎖朔太郎(和田正人)の倫理観が、皮肉にも事件の引き金となってしまう。この真相で描かれたのは、みな大切な家族を守るために行動した結果、殺人が引き起こされたということだ。

undefined
金曜ドラマ『田鎖ブラザーズ』最終話より(C)TBSスパークル/TBS

そして最終話、真と稔の前に現れた本当の真相は、さらに残酷なものだった。本当の真犯人は、年上の幼馴染としてずっと兄弟に寄り添ってきた足利晴子(井川遥)だったのだ。晴子もまた田鎖父の倫理観によって大切な家族を失っていたのだ。
晴子は2人を騙していたが、注いでくれた愛情まで嘘だったかというと、そうではない。だからこそ、この復讐は兄弟にとって最も苦しいものとなった。

真は稔に問いかける。「大きくなったら、何になりたい?」
事件の日から止まっていた時計が、最後になってようやく動き出したことを示唆して物語は幕を閉じた。

理不尽さを一身に背負った、岡田将生・染谷将太・井川遥・山中崇

岡田将生と染谷将太の兄弟役は、反目する瞬間こそあれど、その奥には決して切れない固い絆で結ばれていた。

岡田演じる真は、人より優れた洞察力ゆえに、街なかでも誰かの危機を察知してしまう。一方で、わずか7歳で両親の惨殺を目の当たりにした少年の心を、今も内側に閉じ込めたままだった。対する染谷の稔は、「真実にしか興味がない」と言い切る冷静さの裏に、5歳で両親を奪われた幼さを抱えていた。直観的な兄と科学的な弟の対比的なキャラクター設定が本作の面白さの核となっていた。

undefined
金曜ドラマ『田鎖ブラザーズ』最終話より(C)TBSスパークル/TBS

井川遥は、姉のような穏やかさで兄弟に寄り添う一方、その微笑みの奥にはいつもどこか諦めにも似た翳りが滲んでいて、最初から最後まで彼女の“距離感”が物語の温度を決めていたように思う。すべての真相が明かされたあとの彼女の佇まいには、兄弟への確かな情愛と、罪を背負った人間の諦念が同居していて、観る者の胸を強く締めつけた。

そして山中崇は、本作のキーパーソンだった。要領が悪そうで、いい人だからこそ、人生を損するような佇まい。このドラマの理不尽さを一身に背負わされた、まさにドラマの象徴と言える存在だった。

復讐の鎖から呪縛を解いて、2人はこれからどこに行くのだろうか。復讐で得たものよりも、失ったもののほうがきっと大きい。それでも、呪縛は確かに解けたのだと思う。

犯罪被害者の救済という重たい題材に挑んだ本作は、安易なハッピーエンドを選ばなかった。物語の中で救いを作るのは簡単だが、被害者の苦しみはそう簡単に消えるものではない。事件の日から止まっていた兄弟の時計が、一応は動き出した。その小さな一歩の重みを噛みしめるような苦味と、わずかな希望が胸に突き刺さる作品だった。


TBS系 金曜ドラマ『田鎖ブラザーズ』

ライター:杉本穂高
映画ライター。実写とアニメーションを横断する映画批評『映像表現革命時代の映画論』著者。様々なウェブ媒体で、映画とアニメーションについて取材・執筆を行う。X(旧Twitter):@Hotakasugi

の記事をもっとみる