1. トップ
  2. エンタメ
  3. 「素?わざと?」「あえて使われたのかな」ひとりの女性の“手元”に注目→朝ドラ視聴者をざわつかせた“一瞬”の仕草

「素?わざと?」「あえて使われたのかな」ひとりの女性の“手元”に注目→朝ドラ視聴者をざわつかせた“一瞬”の仕草

  • 2026.6.26
undefined
『風、薫る』第12週(C)NHK

朝ドラ『風、薫る』第59話で描かれた看護婦養成所の卒業式。卒業証書が一人ひとりに手渡される場面で、視聴者の注目を集めたのが、柳田しのぶを演じる木越明の一瞬のしぐさだった。名前を呼ばれたしのぶは、証書を受け取ろうと少し早く手を差し出してしまい、気まずそうにサッと引っ込める。SNS上では「これって素?わざと?」「あえて使われたのかな」と話題に。素にも演技にも見えるその自然さこそ、木越明という女優の魅力を物語っていた。

※以下本文には放送内容が含まれます。

卒業証書の“フライング”に宿ったしのぶらしさ

『風、薫る』第59話では、りん(見上愛)たち看護婦見習いがついに養成所を卒業する。厳しい実習、恩師との別れを経て迎えた卒業式。卒業証書が一人ひとりに手渡される場面は、彼女たちが2年間の修業を終え、次の人生へ踏み出す節目として描かれた。

その厳かな空気のなか、ふっと視聴者の目を奪ったのが、しのぶの挙動だった。名前を呼ばれたしのぶは、すぐに右手を差し出す。ところが、証書を渡す側はまだ持ち替える前。タイミングが少し早すぎたことに気づいたしのぶは、一瞬気まずそうな表情を浮かべ、サッと手を引っ込める。そしてあらためて、右手、左手と丁寧に差し出して証書を受け取る。

決して笑いを狙ったシーンではない。そこには大げさなリアクションも、分かりやすい照れ笑いもなかった。少し先走ってしまう感じ、しまったと思って引っ込める感じ、その後にきちんと受け取り直す感じ。そのすべてが、しのぶという人物の日常の反応として画面に溶け込んでいた。

しのぶは日本橋の呉服屋の四女で、もともとは看護服への憧れから養成所に入った人物である。最初から看護の覚悟を背負っていたわけではない。しかし、仲間たちと学び、実習を経験し、卒業式までたどり着いた。そんな彼女が、晴れの場で少しだけ前のめりになってしまう。その一瞬に、しのぶの可愛らしさと人間味がにじんでいた。

木越明の芝居にある“嘘のなさ”

undefined
『風、薫る』第12週(C)NHK

木越明の演技の魅力は、一言でいえば嘘のない生々しさにある。台詞をきれいに言うことや、感情を分かりやすく爆発させることよりも、その人物が本当にその場にいるような間合いや佇まいを作る力に長けている俳優だ。

卒業証書の“フライング”も、その延長線上にある。あの場面が印象的だったのは、しのぶが芝居をしているように見えなかったからだ。名前を呼ばれ、緊張して、少し早く手が出てしまう。気まずさに気づき、反射的に引っ込める。その反応の速度や目線の揺れが、あまりにも日常の人間の動きに近かった。

木越は女優であると同時に、作詞・作曲、絵画、アニメーション制作、漫画執筆なども手がけるマルチアーティストでもある。身体表現や独特の空気感には、そうした表現者としての感性も深く反映されているように見える。

インディーズ映画から“朝ドラ”へ

undefined
『風、薫る』第12週(C)NHK

木越明は、作家性の強い映画で真価を発揮してきた女優でもある。映画『逆光』では、みーこ役として映画初出演ながら強烈な印象を残し、出演だけでなくパンフレット制作や作中のダンスの振り付けにも関わった。

映画『明日を夜に捨てて』では、東京の夜の街を彷徨う風俗嬢・アスカを演じ、虚無と哀しみをたたえた眼差しで高く評価された。オルデンバーグ国際映画祭では、アジア人初となる最優秀主演女優賞を受賞している。

そのほか、映画『若武者』『ナミビアの砂漠』『太陽とボレロ』、ドラマ『初恋の悪魔』『ホットスポット』など、映画・ドラマを問わず印象的な足跡を残してきた。さらに、ギリシャ人監督コンスタンティナ・コヅァマーニによる映画『タイタニック・オーシャン』など、国際的な作品への参加も注目される。

こうしたキャリアを踏まえると、『風、薫る』のしのぶ役は、木越の魅力が“朝ドラ”という広い場所へ届いた役とも言える。インディーズ映画で磨かれた生々しい間合い。作家性の強い作品で培われた、言葉にしきれない感情を佇まいで伝える力。アーティストとしての感性。それらが、しのぶの何気ない動きや表情に反映されている。

インディーズ映画から朝ドラへと活躍の場を広げる彼女の存在感は、今後さらに多くの視聴者に見つかっていくはずだ。


連続テレビ小説『風、薫る』毎週月曜〜土曜あさ8時放送
NHK ONE(新NHKプラス)同時見逃し配信中・過去回はNHKオンデマンドで配信

ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。X:@yuu_uu_

の記事をもっとみる