1. トップ
  2. エピソード
  3. 「アプリどれだっけ」レジ前でモタモタしている客。会計後に気づいた奇妙な感覚とは

「アプリどれだっけ」レジ前でモタモタしている客。会計後に気づいた奇妙な感覚とは

  • 2026.5.29
「アプリどれだっけ」レジ前でモタモタしている客。会計後に気づいた奇妙な感覚とは

雨と靴下と、伸びていく列

仕事帰りに冷たい雨が降り出したのは、駅を出た直後のことだった。

傘を広げながら小走りでコンビニへ飛び込み、温かい飲み物を1本だけ手に取ってレジへ向かった。

たったそれだけのことのはずだったのに、前に立った客の動きで空気が変わった。

財布を出しかけて、いったん止まる。スマートフォンを取り出して、画面をスクロールする。

「少々お待ちください」

店員が穏やかに声をかけた。

前の客はつぶやきながらアプリを次々に開いていく。

「アプリどれだっけ」

1つ目を閉じて2つ目を開き、また閉じて3つ目へ。

後ろに並ぶ人の列が静かに伸びていった。

傘から滴が落ちて、足元に小さな水たまりができていた。

靴下がじわりと冷たくなっていくのを感じながら、「早く終わってくれ」と心の中で繰り返した。

後ろを振り返るわけにもいかず、ただ自分の番が来るのを待っていた。

店員はずっと笑顔だった。声が少し小さいのか、レジの機械音に混じってよく聞こえない。

こちらの番になったとき、店員が何か言ったのだが聞き取れず、思わず「え?」と返してしまった。

「ポイントカードはお持ちですか?」と店員は少し大きな声で繰り返してくれた。

持っていない。そう答えてやっと会計が進む。たった1本の飲み物を買うのに、ずいぶん時間がかかった気がした。

焦りだけが胸に残った

ようやく会計が済んで、店の外へ出た。

雨が止んでいた。

空を見上げると、さっきまで霧のように漂っていた雨粒が消えている。

道路の濡れた路面だけが、雨が確かにあったことを伝えていた。

傘をたたみ、冷えた飲み物の袋を持ち直す。急ぎ足で来て、列に並んで、靴下を濡らして。

それなのに外に出た瞬間には、もうどこにも急ぐ理由がなかった。

何に急かされていたのだろう、という気持ちが静かに湧いてくる。

前の客が悪いわけでも、店員が悪いわけでもない。ただ自分だけが焦っていて、焦ったまま全部が終わってしまったような、奇妙な取り残された感覚だった。

やけに眩しい街灯の下を歩きながら、冷たい靴下の感触がどうにも気になった。

急ぐつもりだったのに、急いだ意味が消えてしまった夜だった。

コンビニの自動ドアが閉まる音を背に、濡れた靴下のまま家路についた。

※GLAMが独自に実施したアンケートで集めた、40代・女性読者様の体験談をもとに記事化しています

※本コンテンツ内の画像は、生成AIを利用して作成しています。

元記事で読む
の記事をもっとみる