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【石黒賢さん】キャリア40年を超え、あえてシェイクスピア作品に挑む理由とは?

  • 2026.4.30

【石黒賢さん】キャリア40年を超え、あえてシェイクスピア作品に挑む理由とは?

5月9日に開幕する舞台『ハムレット』に出演する石黒賢さん。俳優として長くキャリアを重さねるなか、初出演となる“シェイクスピア作品”に挑む思いとは?

今、やらなければ俳優としてダメになってしまう

5月9日に幕を開ける舞台『ハムレット』の製作発表記者会見。主人公ハムレットの叔父・クローディアスを演じる石黒賢さんは、意気込みを問われると、少し息を整えてからこう言った。

「死ぬ気でがんばります」

キャリア40年を超える俳優の口から出た、まっすぐで泥臭い言葉。会場がわずかにざわついたのを、本人も感じていたのだろう。会見後、その真意を尋ねると、石黒さんは照れたように笑いながら、心の内を明かしてくれた。

「シェイクスピア作品は難しいし、目指す頂が高ければ高いほど挑戦のしがいがある。その高い頂を目指して、過去の自分を超えていこうと向かっていくわけですから、死ぬ気でやらずにどうするんだ、と思うんです」

長く映像の世界で活躍してきた彼が、今あえて過酷な挑戦を選ぶのはなぜか。水を向けると、少しだけ苦笑いを浮かべる。

「若いころは本当に舞台が怖くて。映像でも舞台でも体調管理は大事です。風邪もひけないし、ケガもできないですから」

そんな石黒さんを舞台へと引き戻したのは、長年身を置いてきたドラマの現場で感じた、ある危機感だった。

「俳優って、台本に水を飲むシーンがあったら、『この人はペットボトルからそのまま飲む? コップに移す?』って考えるんです。その人がどういう人なのか、それだけでたくさんのことが表現できるので。でも最近、そういうオプションをいっぱい携えて現場に行っても、時間などの制約で、監督とディスカッションする場がもてないことが増えてきて。年齢のせいか、『石黒さん、こう演じてください』と指示されることもほとんどなくなった。ある意味、お任せされることが増えたんです」

効率化が進むドラマの現場は、規制もまた多い。「製作陣も、もどかしい思いをしているはず」と慮りながらも、その“お任せ”の空気の中で、石黒さんは自分自身に対する不安を募らせていく。

「自分のことは、自分が一番わからない。だから演じていて、『これでいいのかな』と非常に不安になるわけです。一方で舞台は、稽古時間も長いし、ディスカッションしながら芝居を積み重ねていく。そういう場所でガッツリやっていかないと、俳優として俺はダメになってしまうんじゃないか。年を重ねるほどに、そういった危機感が強くなっていきました」

こうしてあえて厳しい環境へ飛び込むことを決めた石黒さんは、2025年に朗読劇を含む3本の舞台に出演。そして2026年、『ハムレット』へ挑む。

極限の緊張感の先に待つ“生”の実感

石黒さんが演じるのは、主人公ハムレットの敵、クローディアスという大役だ。

「舞台に出る前はいつも、『お客さんに観てもらいたい!』という強気と、『どうしようもない緊張感』という弱気が入り乱れて、どうしようもなくなります。でも、その心の揺れを経験したとき、強烈に感じるんです。大げさかもしれませんが、『俺は今を生きているんだ!』って」

やり直しのきかない舞台。毎日違う空気の中で、極度の緊張が生む共演者との化学反応。その“生々しさ”こそが、石黒さんにとっての快感だと顔をほころばせる。

「舞台は唯一無二。今この瞬間という刹那的なものを、みんなでシェアしましょう、という空間なんです。本当に高度に緊張しているからこそ生まれるものがある。それが舞台の醍醐味だと思います」

残りの人生で自分に何ができるのか。全力で挑んだ先に目指す場所

刹那の中で「今、ここ」を強烈に実感する。その感覚は、今回挑む『ハムレット』に流れるテーマとも重なるという。

「2026年、この混沌とした世界で『ハムレット』を上演する意味。個人的には、『メメント・モリ(死を思え)』という言葉が根底にあると思うんです。それはつまり、『生を感じろ』ということ。今も戦争が続く国があり、いつ死ぬかもわからない人たちがいる。そんな不穏な時代に、僕らは生きることに鈍感でいていいのか。僕自身、そのテーマを大事にして舞台に立ちたいと思っています」

『ハムレット』が突きつける「死を思え、生を感じろ」というメッセージ。それは、俳優として、そして一人の人間として節目を迎えた彼自身の心境とも重なる。

「残りの人生で自分に何ができるのかを最近よく考えるんです。今回大きなチャンスをいただいて、何年か経って振り返ったときに、『あのときハムレットをやれてよかった』『全力でやれた』と思えたら。今はそんなふうに強く思っています」

プロフィール
石黒賢さん 俳優

いしぐろ・けん●1966年、東京都生まれ。
83年、ドラマ「青が散る」で俳優デビュー。以降、数多くのドラマ、映画で活躍。
近年の出演作に、ドラマ「半沢直樹 第2部」「アイシー〜瞬間記憶捜査・柊班〜」、映画『マスカレード・ナイト』『劇場版 おいしい給食 Road to イカメシ』他多数。
2008年からWOWOW「ウィンブルドンテニス」でスペシャルナビゲーターを務め、現地取材や中継で大会の魅力を伝える。
また、海外の子ども向け絵本の翻訳も手がける。

【Information】『ハムレット』

デンマークの王子・ハムレットは、父王の急死と、その直後に母ガートルードが叔父クローディアスと再婚し、彼が王位についたという現実を前に、深い喪失と混乱の中にいた。そんなある夜、父の亡霊が現れ、自分はクローディアスに毒殺されたのだと告げる。衝撃の真実を突きつけられたハムレットは復讐を誓い、狂気を装いながら宮廷の人々の反応を探り始める。疑いと孤独が彼をむしばみ、恋人オフィーリアや友人たちとの関係も次第にねじれていく。やがてハムレットは、芝居を使って叔父の罪を暴こうと試みるが、その一手が思いもよらぬ悲劇の連鎖を呼び起こし……。

作/ウィリアム・シェイクスピア
演出/デヴィッド・ルヴォー
翻訳/松岡和子
出演/市川染五郎、當真あみ、石川凌雅、横山賀三、梶原 善、柚香 光、石黒 賢 他

【東京公演】 2026年5月9日~30日 日生劇場
S席1万4000 円、A席9000 円(いずれも税込)

【大阪公演】 2026年6月5日~14日 SkyシアターMBS
S席1万4000円、A席9000円(いずれも税込)

【愛知公演】2026年6月20日~21日 名古屋文理大学文化フォーラム(稲沢市民会館)大ホール
1万4000円(税込)

舞台『ハムレット』公式サイト https://hamlet2026.jp/

撮影/園田昭彦

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