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21年前、お茶の間を“恐怖”させた強烈な“いじめっ子”。映画賞を総なめした“朝ドラヒロイン”の軌跡

  • 2026.5.25

画面に現れるたび、独特なハスキーボイスと体温の通った演技で心を揺さぶる。冷徹ないじめっ子から、社会の理不尽に立ち向かうヒロインまで。

俳優、伊藤沙莉

日本のエンタメ界に欠かせない存在となった彼女の、表現者の産声から国民的俳優へ駆け上がった魂のキャリアに迫る。

キッズダンサーから鮮烈な子役へ

キャリアの幕開けは早い。わずか3歳でダンスを始めると、その才能はすぐに開花した。ダンスコンテストで優勝をするなど、卓越したリズム感を武器に、TRFや島谷ひとみといったトップアーティストのバックダンサーも務め、大舞台の空気を吸収した。

この身体表現の原点が、芝居の強固な骨組みとなる。2003年、9歳のときにフジテレビ系ドラマ『14ヶ月〜妻が子供に還っていく〜』で子役デビュー。身体が少女へ若返ったという難役をリアリティ溢れる演技でこなし、業界に衝撃を与えた。

さらに2005年、日本テレビ系ドラマ『女王の教室』でいじめっ子役を熱演。視聴者の記憶に恐怖とともに存在を焼き付け、子役としての足跡を残した。

名作の群れで放った異彩「主役の資質」

子役としての鮮烈な認知の後は、主役を引き立てるバイプレイヤーとしての戦いが続く。2011年のドラマ『大切なことは全て君が教えてくれた』や2014年の『GTO』(ともにフジテレビ系)、映画『悪の教典』といった話題作に相次いで出演。

しかし、彼女が放つセリフや表情には常に強烈な爪痕が残されていた。転換点は2015年だ。平田オリザ作、本広克行演出の舞台および映画『幕が上がる』に出演し、舞台『転校生』にも参加。

緻密な群像劇の中で周囲の空気を読み解き、自身の存在感を際立たせる高度なアンサンブル技術を叩き込まれた。この経験が主役の資質を呼び覚ます。

同年のドラマ『トランジットガールズ』で連続ドラマ初主演を飾り、女性同士の恋愛を瑞々しく体現。さらにNHK連続テレビ小説『ひよっこ』での米屋の娘役で見せた強烈なキャラクター造形により、お茶の間への浸透を確固たるものにした。

圧倒的な「受賞ラッシュ」の衝撃

地力を蓄えた彼女を、映画界が放っておくはずがなかった。ここから、賞レースを席巻する怒涛の快進撃が始まる。

2018年公開の映画『寝ても覚めても』などの演技が絶賛され、第10回TAMA映画賞最優秀新進女優賞や第40回ヨコハマ映画祭助演女優賞を獲得。2019年、世界配信されたNetflixシリーズ『全裸監督』では、男たちの熱量に満ちた制作現場を支えるヘアメイク・小瀬田順子役を好演。紅一点のポジションから物語のリアリティを担保し、強い印象を残した。

2020年には映画『タイトル、拒絶』で複雑な現実を生きる主人公を圧倒的な熱量で演じ、第32回東京国際映画祭「東京ジェムストーン賞」を受賞。勢いは加速し、2021年には映画『劇場』『ホテルローヤル』などの演技により第63回ブルーリボン賞助演女優賞を獲得した。第45回エランドール賞新人賞も受賞し、ブレイク女優ランキングで1位に選出される。

2022年には映画『ボクたちはみんな大人になれなかった』や『ちょっと思い出しただけ』で第45回山路ふみ子映画賞女優賞を受賞。映画界は彼女の「人間のリアルを写し取る高い技術」に最大級の賛辞を贈り続けた。

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2017年、映画『獣道』初日舞台挨拶に登壇した伊藤沙莉(C)SANKEI

声と身体を駆使する唯一無二の武器

映画での栄冠と並行し、テレビドラマの現場でも唯一無二の武器を研ぎ澄ましていた。

ドラマ『これは経費で落ちません!』(NHK)『ミステリと言う勿れ』(フジテレビ系)『シッコウ!!〜犬と私と執行官〜』(テレビ朝日系)など、主演をさせても脇を固めさせても、出演するたびに作品のクオリティを引き上げるハマり役を生み出した。

武器は芝居の枠さえも軽々と飛び越える。2021年のドラマ『大豆田とわ子と三人の元夫』では姿を現さないナレーションを担当。さらに、2020年のNHKアニメ『映像研には手を出すな!』や映画『えんとつ町のプペル』など、声優業でも活躍。

広告界でも、日本マクドナルドのCMで見せるキレのあるステップが、かつてのキッズダンサーとしての血脈を感じさせ、放映のたびにSNSを沸かせている。

朝ドラ主演で果たした国民的ブレイク

あらゆるジャンルで実力を証明し尽くした彼女が、満を持して大舞台の頂点へと呼び戻される。2024年に放送されたNHK連続テレビ小説『虎に翼』での主演だ。

演じたのは、日本初の女性弁護士であり裁判官となった三淵嘉子さんをモデルにした主人公・猪爪寅子。男性優位の司法の世界、理不尽な激動の中で、納得のいかない現実に「はて?」と真っ直ぐな疑問を投げかける姿は、現代を生きる視聴者の心を激しく揺さぶった。

毎朝、彼女が画面の中で見せる怒り、涙、そして弾けるような笑顔は、日本中の日常に溶け込み、圧倒的な活力となった。ネット上では連日トレンドを独占し、単なる番組の枠を超えた社会現象を巻き起こした。

等身大のリアリティで演じきった功績は、第121回ザテレビジョンドラマアカデミー賞主演女優賞、第51回放送文化基金賞演技賞、第33回橋田賞、VOGUE JAPAN THE ONES TO WATCH2024など主要な賞を総なめにする結果となった。

子役デビューから20年以上の歳月をかけて積み上げてきた技術と人間描写。それが時代の空気と完璧に合致し、実力派俳優から、日本を代表する「国民的俳優」へと完全に覚醒した瞬間であった。

配信の巨頭と再び組む新境地、そして銀幕へ

国民的俳優となった後も立ち止まらない。2025年公開の映画『風のマジム』での熱演により、2026年には第39回高崎映画祭最優秀主演俳優賞を受賞。さらに同年の映画『爆弾』での緊迫した演技など、銀幕での挑戦を続けている。

そんな彼女が2026年現在、再び挑んでいるのが世界配信の舞台だ。Netflixシリーズ『地獄に堕ちるわよ』への出演が、現在大きな話題を呼んでいる。本作で演じるのは、占術家・細木数子の自伝小説の執筆を依頼される、売れない作家・魚澄美乃里役だ。

かつて『全裸監督』で映像制作の現場を支えるヘアメイク役として存在感を示した彼女が、今度は売れない作家が抱える焦燥感や葛藤という、生々しい人間の深みを画面に滑り込ませる。頂点を極めたトップランナーでありながら、再び人間の泥臭い内面へと潜っていく役柄の往復。これこそが、彼女が時代に選ばれ続ける理由だ。

さらに2027年には、スクリーンで蘇る劇場版『虎に翼』の公開が控えている。NHKの連続テレビ小説からの映画化は1999年の『すずらん』以来27年ぶりというから、いかに期待が大きいかがわかる。

進化を止めない表現者の背中は、これからも日本のエンタメ界を力強く牽引していくに違いない。


※記事は執筆時点の情報です

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