1. トップ
  2. 恋愛
  3. 「かつてこの本を勝海舟が手にしていたのか…」作家・林望が勧める"お宝本"が必ず見つかる場所

「かつてこの本を勝海舟が手にしていたのか…」作家・林望が勧める"お宝本"が必ず見つかる場所

  • 2026.4.15

古書には通常の読書にはない楽しみがある。『書物を楽しむ あえて今、紙の本を読む理由』(朝日新書)を出した作家の林望さんは「ヤフーオークションには、江戸時代以前の古い本があれこれと出てくる。しかも多くの場合、古書店で買うよりもかなり安く手に入る」という――。

林望氏
古書探しはヤフオクがいいワケ

私が本を購入する際、今はほとんどがアマゾンとか、あるいは「日本の古本屋」とかの、ネット上の仮想的書店で通販として買うことになってしまいました。

なんといってもそれが便利だからですが、反面、昔本屋さんの棚を逍遥しながら、「思いがけぬ脇道の本ども」を発見して立ち読みするということができなくなったのが少々残念ではあります。

また、最近はヤフーオークションで古書を探すということも多くなりました。

ヤフオクに出品されている本を見ていると、私が探しているのと類似の本、あるいは似たコンセプトの本など「おすすめの本一覧」がスーッと出てくる。これはAIが適切に推量して選書してくれているのでしょう。そんな契機で、「ははあ、こんな本があるのか」と知り、取りあえずオークションに入札することもけっこうあります。それは古本屋に行くのと同じ楽しみです。

この、ヤフオクの場合は、必ずその書物の写真が載せられていて、表紙や目次、本文巻頭などが写真で仔細に見られる、中には拡大して詳しく見られるようになっている物もあるので、これは古本屋で実際に手に取って見るのを、ネット上でヴァーチャルに見せているという形となり、それはそれで楽しいものです。

ところが、神保町の古書店のネットサイト「BOOK TOWN じんぼう」では情報がごく少なく、ほとんどは書影が見られないので、あまり面白くありません。

書影写真があれば、その本の摺りの善し悪し、保存状態として汚れているかどうか、虫食いなどの有無なども確認できるのに、タイトルだけなので面白くないし、いい本か悪い本かもわかりません。

古書との出合いが楽しいワケ

古書は、目録やネット上で探して買ってみた場合に、いざ送られてきた実物を見たら、思っていたのと違っていたりして、一向に心に沁み込んでこないこともあります。

以前に古書店発行の目録で買い入れて「さあ読もう」と本を開いたら、もとの所蔵者がよほどヘビースモーカーであったと見えて、本のどのページからも、タバコの臭いがものすごかったりしたこともありました。そんな本は、まことに不愉快で読書どころではないので、直ちに閉じて返品しました。

古書でも、基本は書き込みも何もない方がいい、とこれは一般論として言えますが、でも、なかにはしかるべき学者や研究者が、真摯しんしな勉強をして書き入れをした本もあって、そういうのにはまた別の価値があります。

結局のところ、古本屋の楽しさは、思いもかけなかった本に遭遇する楽しさ、ということもあるかもしれません。

予あらかじめ目的のものを探す傍らで、あれこれ眺めているうちにひょっこり出合った本を買って、読んでみたら面白かった。そういうのもまた、本探しと読書の楽しみに違いありません。

そうやって、思いがけぬ良書に巡りあったり、いざ届いたのを見れば、がっかりするような本であったり、結果はいろいろですけれど、いずれにしてもなかなか面白いものです。

ヤフオクで1万円で落札した江戸時代の本

ヤフーオークションには江戸時代以前の古い本があれこれと出てきます。

つい最近も、元禄6年に京都で出版された、『宝物集』(平康頼著)という説話集が出ました。私は何気なく1万円くらいで入札しておいたら、幸いに落札できました。

届いてみると、元禄6年の原装のまま、非常にきれいな刷りで、保存状態も万全な善本でした。そんな本が私の手許に落ちてきたのは、一種の巡り合わせで、なぜかその本はオークション出品期限が短く設定してあって、あっと言う間に終わったので、古書店との競合もほとんどなかったかと思います。

到着して実際に見たらとてもよい本で、こういうのはオークションの大いなる楽しみです。

近頃はまた、江戸後期の『日本名山図会ずえ』という本を落札しました。古書市や古書店店頭で買うと10万円以上する本が、その何分の一かの価格でスポッと落ちて、私のところに来たのは大変ありがたいことでした。

『日本名山図会』
『日本名山図会』(谷文晁・画/1812年刊)(画像= Bibliothèque nationale de France/CC-PD-Mark/Wikimedia Commons)
ヤフオクで“お宝本”が見つかるワケ

こうしたヤフオクに出ている本は、親の家の本棚に遺されていたとか、たまたまお蔵に入っていたとか、そういうものが多いのだと思います。

地方であれば、古本屋などが近所にないから、ヤフオクに出した方が便利だというわけで、ヤフオクに出して、たまたま何人もの人が目を付けて競合すれば高くなるけれど、そうではない場合は安いまま落ちる。

ヤフオクでは勝手にAIが私の落札傾向などを勘案して、「この人であればこういう本を買うだろう」というものを追って表示してきます。そういうところから、私の目には入ったけれど、たまたまそれが古書店の人たちの目には留まらなかったのだろうなと思っています。

そういう意味では、本を集めるにはヤフオクはなかなかおもしろい世界です。

ヤフオクで古本屋よりも安く買えるワケ

とはいっても、実際になると、ヤフオクはちょっととっつきにくいなあという感じがするかもしれません。

現に私自身も、最初に入札したときには「はたして、大丈夫かな」とおそるおそるやってみた、というのがほんとのところでした。

けれども、入札の結果、「落札しました」という連絡が来て、あとは「Yahoo!かんたん決済」というシステムで支払をするのが原則です。振込票を書いて銀行振込をする手間も、口座振込に郵便局へ出向く手間も要りません。

すなわち、ヤフオク自体が仲立ちをしてお金のやり取りまで、すっかり世話してくれる。取引の際、いちいちこちらの個人情報などを入れたりはしなくていいのです。事前に所要のデータをヤフオクに登録してあれば、そこから自動的に落ちるようになっているのです。

だから、本当に簡単で、しかも多くの場合、古書店で買うよりもかなり低い金額で落ちます。

なぜかと言うと、応札する人たちも、多くは古本屋さんたちのようですが、彼らは時価で買ったら儲からないので、それほど高い値段での札は入れません。本の市価相場が10万円くらいだなと思ったら、5万円前後がその鍔迫つばぜり合いのところ。もう時間切れ近くともなると、最後の人が10円高く入れたなんていうところで落ちている。

古書にある読書とは別の愉しみ

ヤフオクを始めたのはここ2、3年ですが、その分、古書店から買わなくなりました。

林望『書物を楽しむ あえて今、紙の本を読む理由』(朝日新書)
林望『書物を楽しむ あえて今、紙の本を読む理由』(朝日新書)

で、結局は蔵書が増えてしまって置き場にも困っていますが、とはいえ、ほんとうに善い本が思いがけず手に入ったときに、それを愛玩するのはとても楽しいものです。

同じ本でも木版印刷された原本で読むと、活字本や写真で複製した影印本えいいんぼんで見るのに比べると、不思議に心に沁み込んできます。そうしたことは、やはり読書ということの、大いなる楽しみの一つです。

たとえばまた、「勝安房」という朱印が捺おしてあると、この本はもともと勝海舟が持っていた本だな、とわかる。そういう書物をたまたま手に入れ、読みながら「昔この本に向かい合って勝海舟が座っていたんだな」などと思うのも、また楽しいもの。そうした来歴はだいたい蔵書印や識語の有無でわかります。

幕末に「勝安房」として知られた勝海舟
幕末に「勝安房」として知られた勝海舟(1823~1899)(画像=東洋文化協會/CC-PD-Mark/Wikimedia Commons)

だから、有名な蔵書印や識語のある本の愉しさは格別、また無名な蔵書印であっても、これは誰の印だったのかなあと、あれこれ探索するのもまた、なかなかおもしろい。それは読書の楽しみとはまた別の愉しさでもあります。

林 望(はやし・のぞむ)
作家・書誌学者
1949年、東京生まれ。作家。国文学者。慶應義塾大学大学院博士課程修了。ケンブリッジ大学客員教授、東京藝術大学助教授等を歴任。専門は日本書誌学、国文学。著書に『イギリスはおいしい』『節約の王道』『「時間」の作法』など多数。『謹訳 源氏物語』は源氏物語の完全現代語訳、全10巻既刊9巻。

元記事で読む
の記事をもっとみる