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三池崇史の最狂ホラー映画「オーディション」の原作が怖すぎる! 村上龍が描く、音楽とダンスを嗜む理想の女性が狂暴化する話を今読んでほしい理由【書評】

  • 2026.4.4
オーディション 村上龍 / 幻冬舎
オーディション 村上龍 / 幻冬舎

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日本国内のマッチングアプリ市場規模は、2026年には1094億円になる見通しで、これは昨年比で7%増加。趣味などのニーズに特化したものなど、多角的に増えており、アプリ数は100を超えている。(※)しかしこういったマッチングアプリを通じた詐欺被害などの問題も多い。会ったことのない人間を、写真やプロフィールだけで判断するには限界があるからだ。

※出典元:株式会社トゥエンティトゥ

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表面的な情報だけで人を判断して恐ろしい目に遭ってしまう……その恐怖を最も冷酷な形で小説化したのが村上龍『オーディション』(幻冬舎)だ。三池崇史監督がこの原作を映画化し「恐ろしすぎる」と当時話題になった。

主人公は、7年前に妻を癌で亡くし、男手ひとつで息子を育ててきたビデオ制作会社社長・青山重治。15歳になった息子に「最近ちょっとショボクレた感じがするよ、地味っていうか、だから再婚でもすれば?」と再婚を勧められた彼は、友人の提案で、映画のオーディションという名目で集めた女性から秘密裡に再婚相手を選ぶ「オーディション」を開催。そして24歳の山崎麻美という女性に一目で惹かれてしまう。

身長161センチ、体重?キロ、B・82、W・54、H・86。東京都中野区出身。二年勤めた貿易会社を辞めて、現在無職。両親は健在。趣味は音楽とダンス。クラシック・バレエ歴十二年。特技はダンスとピアノとお菓子作り――。

スリーサイズが記されているところにどこか平成の香りを感じてしまうが、これらの情報から浮かび上がってくるのは、いかにも「理想の妻」にふさわしい資質を備えた女性像ではなかろうか。

力の強い目と、ショート・ヘアと、ツンと尖った鼻と、官能的な唇。青山は彼女の顔つきに、7年前に亡くした妻の面影を見る。声を聞けば、「耳から入ってきてうなじから首筋にかけての神経にねっとり絡みついてくるような声」だと感じてしまう。寂しさを含んだ表情や、不思議な雰囲気も相まって、青山はどんどん彼女にのめり込んでいく。

しかし中年男性のそんなラブロマンスは、突如牙を剥き、物語はサイコスリラーの様相を呈していく。そう。麻美の実態は、そのスペックからは想像もつかない「ヤバい女」だったのだ――。

詳しくは触れないが、本書の結末はあまりにグロテスクなスプラッターに仕上がっている。読者自身に襲いかかるようなスリリングな描写はもはや地獄か悪夢と言っていい。村上龍自身が「山崎麻美のような女を、わたしは今まで書いたことがなかった」とあとがきで語っているように、他の村上龍作品とは異なる印象を抱く。愛にまつわる強烈なトラウマを抱えている山崎麻美は、最終的に容赦のない残虐な牙を見せることになる。

山崎麻美はたしかにヤバい女ではあるが、この小説の怖いところはそれだけではない。過去に植えつけられた強烈なトラウマを抱えていて、それが何かの拍子に爆発し、狂暴化してしまう人間は、男女に限らず実際にも存在するのではないかと思わせる点である。その暴走のきっかけが、相手の直接的な過失がなかったとしてもだ。

当然マッチングアプリの自己紹介欄に、自分の強烈なトラウマを丁寧に書き記してくれる人はいない。「地雷」といった言い方をしてもいいかもしれない。何気ない発言や行動、それによって「地雷を踏んで」しまい、突如豹変して狂暴化してしまう危険性もある。

他人を評価し、選択し、恋するとはどういうものなのか。どれだけの情報があれば、相手を理解することができるのか。信頼を裏切られてしまうとはどういうことなのか……。村上龍が1997年に書いた『オーディション』は、その怖さを現代人に教えてくれる一冊かもしれない。

文=奥井雄義

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