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韓国で1500万人動員の話題沸騰中! 映画『王と生きる男』大ヒットの理由

  • 2026.4.4

2025年の韓国映画界は、大作と呼ばれる作品が相次いで興行不振となり、観客動員1000万人を超える作品は一本も出ていない。そんな従来の大作中心の興行構造が揺らぐ中、口コミで観客を増やし、2026年3月末時点で1500万人超えの動員を記録する異例の大ヒットとなっているのが、映画『王と生きる男』(原題:왕과 사는 남자/117分)だ。

幼い王が政治の権力闘争に翻弄され、忠臣たちが命を懸けて守ろうとした悲劇の歴史は、韓国では広く知られた題材で、これまで何度も映像化されてきた。そのため公開当初の動員数は伸び悩んだものの、その後口コミで観客が増え、リピーターも多く生まれ、大きな社会的話題となっている。よく知られた歴史でありながら、なぜ今これほどまでに韓国人の心を動かしているのか。現地での観客インタビューを通して、その理由を探った。

悲劇の王・端宗を描く歴史ドラマ

『王と生きる男』は、韓国史の中でも最も悲劇的だといわれる朝鮮第6代王・端宗(タンジョン)の流刑時代を描いた歴史物語だ。端宗は12歳で即位したが、1453年、叔父・首陽大君(スヤンテグン)によるクーデター「癸酉靖難(けいゆうせいなん)」を経て王位を奪われ、その後、江原道の山奥の村へ流刑となり、16歳で悲劇的な運命を迎える。

宮廷しか知らずに育った少年王は、流刑地の村で初めて庶民の生活に触れる。端宗を世話することになった村長オム・フンドは当初、彼を厄介者として扱うが、共に過ごすうちに関係は変化し、やがて父子のような絆が芽生えていく。一方で、端宗をめぐる政治の陰謀は水面下で進んでいく。

村長フンドを人間味豊かに演じたユ・ヘジン(56)、悲劇の王を繊細に表現したパク・ジフン(26)の演技は高く評価され、また、ユ・ジテ(49)が演じる、世祖側の策士ハン・ミョンフェは、これまでの温厚なイメージを覆す冷酷な悪役として強い印象を残した。ハン・ミョンフェと端宗との対立場面では、即興で加えた表情や声の変化が高い緊張感を生み、現場スタッフが「息が詰まるほどだった」と語るほどの迫力を見せたという。

また、『賢い医師生活』で知られるチョン・ミド(43)が、端宗に付き従う女官役として出演し、作品に厚みを加えている。

使い古された素材なのに、なぜ今響くのか

多くの韓国人が挙げるのは「よく知っている歴史なのに、視点がまったく違った」という点だ。端宗の物語は、幼い王が権力闘争に翻弄され、忠臣たちが命を懸けて守ろうとした悲劇として長く語り継がれてきた。しかし本作は、その歴史を宮廷政治ではなく人間の視点から描いている。王ではなく、流刑地で庶民と共に暮らす端宗を物語の中心に据えたことで、端宗は単なる歴史上の王ではなく「守られるべき少年」として浮かび上がる。本作では、王位を失った端宗が、村人たちと交流しながら一人の少年として過ごす束の間の時間が描かれているのだ。

また、多くの韓国人が「幼い王を守れなかった歴史」に強い感情を抱いているという中で、「悲しい歴史という認識しかなかったけれど、人の情や温かさを感じた」「たとえ短い時間でも、端宗にこんな束の間の幸せがあったのなら、救われる気がする」といった声も聞かれた。

史実の空白を想像力で補い、人物の感情に焦点を当てながら、時にユーモアや温かさを加えたチャン・ハンジュン監督の演出も高く評価されている。悲劇として知られる歴史を、人の情やわずかな希望を見いだした新たな視点と歴史解釈から描いた点が、多くの観客の心を動かした要因といえそうだ。

悲劇の王を語り尽くす、パク・ジフンの“目”の演技

作品の中心にいるのは、端宗を演じたパク・ジフンだ。セリフは多くないが、観客の印象に残るのは「目の演技」である。幼さを残す前半から、王としての覚悟を取り戻していく後半までの変化を、眼差しで表現した。

王位を奪われた直後の虚ろな視線には、絶望が宿る。陰謀や処刑の影に怯える場面では、少年の恐怖がそのまま現れ、村人たちと過ごす時間の中では、わずかな安堵と人間らしい温もりが目の奥に戻り、笑顔とともに生き生きとした光が宿り始める。そして終盤、運命を受け入れる瞬間には、王としての静かな覚悟がにじむ。

役作りのため、流刑の王の姿を表現しようと2カ月間、ほぼりんご1個だけの食事で15キロ減量したという。共演したユ・ヘジンも、そのプロ意識と眼差しの演技を高く評価している。

パク・ジフンは、サバイバルオーディション番組『PRODUCE 101 シーズン2』で視聴者投票2位となり、Wanna Oneのメンバーとしてアイドルデビュー。韓国MBCドラマ『朱蒙』(2006)で子役デビューして以来、演技経験も多く、アイドルにとどまらない俳優としての実力を、今回改めて示した。

言葉より雄弁な“目”が残した余韻

本作では、残酷な拷問シーンも登場する。妥協のないリアリティの追求とはいえ、ここまで描くのかと思うほどの強い暴力描写も含まれており、観る側にもある程度の覚悟が求められる作品だ。

それでも観終わった後に印象に残るのは、暴力よりも端宗を演じたパク・ジフンの目だ。ポスターの虚ろな眼差しだけでも胸が締めつけられるが、劇中で少しずつ光を取り戻していく変化が見事で、その眼差しをもう一度見たいと、何度も劇場に足を運ぶ観客が多いというのも納得できる。

日本での公開はまだ決まっていないが、韓国史を知らない日本人が見ても十分に感情移入できる内容で、日本でも話題になる可能性は高い。

(文=田名部 知子/Xで気ままなソウルの日常を発信中:@t7joshi)

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