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女性は「自分の犬」よりも「見知らぬ犬」に高い声で話しかける

  • 2026.3.31
女性は「自分の犬」よりも「見知らぬ犬」に高い声で話しかける
女性は「自分の犬」よりも「見知らぬ犬」に高い声で話しかける / Credit:Canva

ハンガリーの自然科学研究センターとエトヴェシュ・ロラーンド大学(ELTE)などの研究チームは、女性は「自分の犬」よりも「初対面の犬」に話しかけるときの方が声が高くなると発表しました。

人間の場合、親しい相手には声が少し高めになったり、表情が豊かになったりすることがある一方で、初めて会う人の前では声や表情が少し控えめになる傾向があります。

ところが、犬に対してはその逆で、見知らぬ犬に向けるときの方が「声が高く」なっていたのです。

これは一体なぜでしょうか。

「人間同士」と「人間と犬」の間では、異なるコミュニケーションの型が使われているのでしょうか?

研究内容の詳細は、2026年1月8日に科学誌『Animal Cognition』で発表されました。

目次

  • 「自分の犬」と「見知らぬ犬」で人間は声が変わるのか?
  • 女性は「見知らぬ犬」に話しかけるとき、より声が高くなる
  • 種族を超えたコミュニケーション能力は生まれつきなのか?

「自分の犬」と「見知らぬ犬」で人間は声が変わるのか?

女性は「自分の犬」よりも「見知らぬ犬」に高い声で話しかける
女性は「自分の犬」よりも「見知らぬ犬」に高い声で話しかける / Credit:Canva

犬に話しかけるとき、人の声は普段と少し違う響きを持ちます。

たとえば、公園や街角で犬に話しかける人の声をよく聞いてみてください。

きっと普通に人と話しているときとは、声の調子が少し違うことに気づくはずです。

それはちょっと高くて、やわらかくて、優しいトーンでしょう。

これまでの研究から、人が犬に対して赤ちゃん向けのような話し方をすることがあると分かっています。

犬好きの人は「確かにそうだ」とうなずきますが、犬が特別好きでなくても、犬に向かうと自然にこうした話し方になる人はいます。

では、なぜ人は犬に対してこのような特別な話し方をするのでしょうか。

最近の研究では、この「犬向けの話し方」を科学的に調べる動きが広がっています。

ここであえてSF的に言えば「対異種族における人類の無意識的音声コミュニケーション調整機構の分析」となるかもしれません。

科学者たちは、この犬に対する独特な話し方が単なる習慣やクセにとどまらず、実は「人と犬とのコミュニケーションにとって重要な役割」を果たしているかもしれないと考え始めているのです。

つまり、この特別な話し方を詳しく調べることは、人間が犬とどのように絆を深めているのかを理解する上で、とても大切な手がかりになる可能性があります。

しかしこの分野の研究にはまだ盲点がありました。

それは「自分の犬」と「見知らぬ犬」の比較です。

先に述べたように、人間どうしの場合を考えてみると、親しい友だちや家族と話すときは、自然と声が高く、明るく、表情も豊かに、逆に初対面の相手には、声や表情はやや控えめになることが普通です。

この人間同士のパターンは犬にも当てはまるのでしょうか?

女性は「見知らぬ犬」に話しかけるとき、より声が高くなる

女性は「自分の犬」よりも「見知らぬ犬」に高い声で話しかける
女性は「自分の犬」よりも「見知らぬ犬」に高い声で話しかける / Credit:川勝康弘

この疑問に答えるために、研究者たちはまず、女性の飼い主42人に協力してもらい、自分の犬と見知らぬ犬の両方に話しかけてもらいました。

ここで重要なのは、ただ犬に話しかけてもらうのではなく、「どんな場面で話すか」まで細かく分けている点です。

しかも、見知らぬ犬はただの別の犬ではなく、飼い犬と同じ犬種になるようにそろえ、話す人は犬と同じ目線になるよう床に座り、できるだけ条件を公平にそろえていました。

具体的には、犬の注意を引く場面、簡単な遊びのような課題を行う場面、そして童謡を語りかける場面という3つの状況が用意され、それぞれで声の特徴と顔の動きが記録されました。

その結果、まず最初に見えてきたのは、非常にシンプルでありながら印象的な違いでした。

女性たちは、自分の犬に話しかけるときよりも、見知らぬ犬に話しかけるときのほうが、平均すると約9ヘルツほど高い声を使っていました。

ここでいう「声が高い」というのは、一瞬だけ上がるという意味ではなく、話しているあいだ全体の平均的な高さが上にずれているということを指します。

つまり人は、知らない犬に向かうと、無意識のうちに“声のベースライン”そのものを引き上げているようなのです。

一方で興味深いことに、顔の表情については、この「知っているかどうか」の違いはほとんど影響しませんでした。

つまり、声の使い方は変わるのに、表情はあまり変わらないという、少しアンバランスにも見える結果が出ています。

さらに、もうひとつ見逃せないのが「場面の違い」の影響です。

犬の注意を物に向けさせるような場面では、声の高さはむしろ控えめになり、あまり高くなりすぎない傾向がありました。

研究チームは、声が高すぎると犬の注意が人の顔に向いてしまい、物に集中しにくくなる可能性があると考えています。

一方で、簡単なゲームのような場面では、声の上下の動きが大きくなり、まるでメロディのように変化する話し方が多く見られました。

さらに童謡を語る場面では、とくに顔の動きがいちばん活発になり、笑顔に近い表情が強く現れました。

そしてもうひとつ、読んでいて思わずうなずいてしまう結果もあります。

それは、小さな犬に対しては、声の上下の幅がより大きくなり、表情もより豊かになる傾向があったという点です。

いわば、人は小さな犬を前にすると、より“かわいいものに向けたモード”に入りやすいように見えるのです。

論文では、この中でも特に「少し高い声」が重要な役割を持っている可能性が指摘されています。

見知らぬ相手に対して、敵意がないことや友好的であることを伝えるために、種を超えて通じやすいサインとして使われているのではないか、という考えです。

一方で、顔の表情があまり変わらなかった点については、人間にとっては笑顔でも、犬にとっては別の意味に受け取られる可能性があるため、無意識に抑えられているのかもしれないと解釈されています。

しかし人間はこのような器用な使い分けをどうやって身に着けたのでしょうか?

種族を超えたコミュニケーション能力は生まれつきなのか?

女性は「自分の犬」よりも「見知らぬ犬」に高い声で話しかける
女性は「自分の犬」よりも「見知らぬ犬」に高い声で話しかける / Credit:Canva

今回の研究から見えてきたのは、人が犬に話しかけるときのふるまいが、私たちが思っているよりずっと細やかに調整されているという事実です。

ただ「犬が好きだから優しい声になる」という単純な話ではなく、相手との関係や状況に応じて、無意識のうちに声や表情の使い方を変えている可能性が示されました。

さらに興味深いのは、人がどの情報を使って気持ちを伝えているかという点です。

人間同士であれば、笑顔や目の動きなど、顔の表情が重要な役割を果たしますが、犬に対しては、どうやら声のほうがより重要な手がかりになっている可能性があります。

つまり私たちは、相手が犬であることを無意識に考慮しながら、「伝わりやすい方法」を選び直しているのかもしれません。

研究者たちはその理由として「高くて明瞭な声は、友好的な接近や注意喚起に使われる古い進化的プロセスと関係しているかもしれない」と述べています。

この予測が正しければ、人類は動物と基礎的な意思疎通をするための、何らかの基盤を生まれながらに持っている可能性がでてくるでしょう。

(※もっとも、今回の参加者は女性の飼い主に限られており、男性でも同じような結果になるかは不明です。)

それでも、この研究が私たちに与えてくれる価値は決して小さくありません。

なぜなら、犬と人のコミュニケーションを考えるとき、私たちが普段無意識に行っている「最初の一言」や「声の微妙な調子」に注目することで、新しい視点が見えてくる可能性があるからです。

たとえば、保護犬や新しく家庭に迎える犬との最初の出会いで、どういった話し方が犬を安心させやすいのかを考える手がかりになるかもしれません。

さらに動物病院での診察や、犬のしつけ教室のような場面でも、今後の検証が進めば、科学的な根拠に基づいた話しかけ方を考える参考になるでしょう。

もしかしたら未来のドッグトレーナーは、場面に応じて最適なコミュニケーションをとるための声の高さの調整が必須技能になっているかもしれません。

元論文

The effect of familiarity and dog’s body size on female owners’ dog-directed communication
https://doi.org/10.1007/s10071-025-02041-1

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

ナゾロジー 編集部

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