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“なれるわけない”から直木賞へ。一穂ミチさん「会社員」と「小説家」そのバランスが創作の基盤

  • 2026.3.31

小説家になるなんて、無理。夢のまた夢、と努力もせずに諦める人が多いなか、他の仕事を持ちながら、地道に書き続け、夢への切符を手にした同世代の女性たちがいます。彼女らの姿を見ていると、自分の夢だって頑張れば叶うのかも、と思えてくるのです。

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一穂ミチさん 48歳・大阪府在住

会社員としての私・小説家としての私そのバランスが創作活動の基盤

学時代に趣味で始めた二次創作小説がキャリアの原点という一穂さん。小説家になりたい願望が?

「なれたらいいけれど、なれるわけないと思っていました。就職氷河期世代で、大きな夢を抱くよりは趣味で好きなことを書いて満足していました。働きながら10年近く書き続けた頃、BL雑誌の編集さんから声がかかり、商業作品を。その後、文芸デビューへ」。

小説を書きながら会社勤めも!?

「27歳の時に転職して始めた仕事なのでもう20年。体力的には大変ですが、会社では小説家としてのプレッシャーから精神的に解放されます。誰も〆切ギリギリの私を責めない(笑)。加えて、社内で否応なく様々な人と関われるので、普段接点のない若い世代の流行や考え方に刺激をもらえます。会社員でなければ、人見知りですし、コンビニの人としか口を利かないなんてこともありそう…小説を書くにあたっては、私は人に触れている方がいいみたいです」。

集団や社会と密接に関わる会社という場と対極にあるように思える、個として小説を書く場。そこは一穂さんにとってはどのような場所なのでしょう?

「昔から、頭の中のことだけが、その人に許された本当の自由という気がしていました。私の中では魂の自由みたいなものを担保してくれる場所です」。

深夜から早朝にかけての勤務から2度の睡眠を挟んで創作活動をする一穂さん。「2回おやすみなさいを言えるって贅沢ですよね」。

どのようにして書かれていますか?

「小説は担当編集さんからお題をもらって書き始めることも多いのですが、冷蔵庫の中を漁るように、なんかないかな?って掘り起こして書いている感じです。キャラクターはあまり作り込まず自由に…思いがけないことを勝手に言い始める瞬間に、物語が転がってきたなと安心します。そのキャラクターにとって噓は絶対に書かないことも大切にしています」。

今の年齢、新しい何かには臆病になって足を踏み出せないことも…。

「私の場合、新しい仕事は一期一会のことが多いので、後先考えずやりたい! と。皆さん同世代…肉体的なことを考えると一歩踏み出す前の準備運動って必要。チャレンジしたいって思ったら情報収集して、何回か放置することも間に挟んだりしながら、それでもやりたいって思ったら踏み出すといいですよね。かくいう私も、新聞連載が始まり、毎日公開される切迫感にちょっと後悔する気持ちもあったり…チャレンジしている最中です」。

「直木賞をいただいた時には、喜び以上に、〝もう賞のことを考えなくていいんだ〟という安堵感も強かったように思います」。

不調のこともありますか?

「ホルモンバランスも乱れてきているし、好調の日なんて数える程度。落ち込んで書けないってこともあるけれど、いつか抜けるだろうくらいの気持ちでいます。低空飛行でもいい。落ちるとこまで落ちたら這い上がるだろうし、ダメな自分に飽きてくる。変に抗わないことが解消法なのかもしれません」。

<編集後記> 同世代で生きてきた身として、ただただ共感しかない

一穂さんの小説はBL作品も好きで、文芸も含め、緻密な表現や生き生きしたキャラクター、度肝を抜かれる展開はどのような方から生まれてくるのだろうと思っていましたが、納得の魅力溢れる作家さん! 同世代ということもあり、お話しされることに頷くばかり。3年ぶりに挑戦された長編小説『アフター・ユー』も素敵な作品です。(ライター 竹永久美子)

撮影/河内 彩 取材/竹永久美子 ※情報は2026年3月号掲載時のものです。

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