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ローマ闘技場の「女性」猛獣戦士の”初の姿”が報告される

  • 2026.3.30
ヒョウと戦う女性「猛獣戦士」の見た目が明らかに。※イメージ / Credit:Generated by OpenAI’s DALL·E,ナゾロジー編集部

古代ローマでは闘技場で人間や動物による剣闘士試合が行われていました。

剣闘士同士が戦う場面がよく知られていますが、人間がヒョウやクマなどの猛獣と向き合う見世物も人気を集めていました。

今回、アメリカ・カリフォルニア大学バークレー校(UCB)の研究者により、こうした猛獣戦を描いたモザイクの写しが再検討され、女性の猛獣戦士を示す初の視覚資料である可能性が示されました。

研究は2026年3月22日付で『The International Journal of the History of Sport』に掲載されています。

目次

  • モザイクの写しから、「ヒョウに立ち向かう女性戦士」の姿が浮かび上がる
  • 女性の猛獣戦士は「予想よりも長く」存在していたかもしれない

モザイクの写しから、「ヒョウに立ち向かう女性戦士」の姿が浮かび上がる

今回の研究の出発点になったのは、フランスで1860年に見つかった大型モザイク(小さな石やガラス片を敷き詰めて絵や模様を表現した装飾)です。

このモザイクは3世紀のものとされ、剣闘士や猛獣、闘技場の場面を描いた35のメダリオン(円形や菱形などの枠で区切られた装飾的な絵の区画)で構成されていました。

ところが、この貴重なモザイクは1917年、第一次世界大戦中の爆撃でほとんど失われてしまいます。

現在残っているのは一部の断片だけで、全体像は発見者の考古学者ジャン・シャルル・ロリケが1862年に残した写しによってしか知ることができません。(実際の画像はこちら※論文

この失われたモザイクの中に、ヒョウと向き合う一人の人物が描かれていました。

右手には鞭を持ち、猛獣に対して身構えているように見える場面です。

これまでこの人物は男性だとみなされることが多く、動物を煽る係のような存在ではないか、あるいは鞭を持つ道化的な闘技場の人物ではないかと考えられてきました。

ですが、UCBの研究者はこうした従来の解釈を見直しました。

論文では、そもそも「動物を煽る係」という役割はローマ闘技場の実在の役職として確認できず、また道化的な人物なら必要な棒や腕当てが描かれていないため、この人物には当てはまりにくいと論じています。

また、現存するモザイク断片と19世紀の写しがきちんと一致しているかを確かめたうえで、問題の人物の胸の描写、手に持つ鞭、左手に見える物体、そして隣のヒョウや周囲の人物との位置関係を詳しく検討しました。

特に重要だったのは、この人物の体つきです。

写しでは胸が目立つ形で表現されており、論文では他の男性人物の平坦な胸と比べて、女性であることを示すための意図的な描写だと解釈されています。

さらに、この人物はただ猛獣のそばに立っているだけではありません。

右手には鞭があり、左手には短剣の柄頭のようにも見えるものがあります。

少なくとも「武器を持って猛獣に立ち向かう側の人物」なのです。

ローマには罪人を猛獣に襲わせる刑罰がありましたが、その場合、罪人は武器を持たされず、縛られたり、ほとんど無防備な状態で獣の前に出されるのが普通でした。

今回の人物はそうした処刑される側ではなく、猛獣戦に参加する側だった可能性が高いと考えられます。

こうした点から論文は、この人物を女性の猛獣戦士、いわゆる「ヴェナトリクス(venatrix)」として解釈します。

さらに詳しく言えば、彼女は単に猛獣と戦うだけでなく、ヒョウを別の戦士の方へ追い込む補助役を担っていた可能性があるとされています。

では、今回の発見にはどんな意義があるのでしょうか。

女性の猛獣戦士は「予想よりも長く」存在していたかもしれない

この研究の大きな意義は、古代ローマで女性が猛獣と戦っていたことを、初めて視覚資料から論じた点にあります。

これまで女性が猛獣戦に参加していたこと自体は文献から知られていましたが、実際にその姿を示す具体的なイメージは確認されていませんでした。

今回の研究は、失われたモザイクの記録をもとに、その空白を埋める可能性を示したのです。

しかも、このモザイクは3世紀のものです。

これまで女性剣闘士は西暦200年までに姿を消し、女性の猛獣戦士もそれ以前の時代の存在だと考えられていました。

もし今回の解釈が正しければ、女性の猛獣戦士はそれまで考えられていたよりも長く、少なくともさらに約1世紀はローマの闘技場に存在していたことになります。

これは、女性が闘技場に立つ文化の歴史を考え直す材料になります。

この人物が上半身を露出しているように描かれている点も重要です。

研究者によると、これは女性であることを観客に分かりやすく示すための表現であると同時に、観客に性的な興奮を与える意図もあった可能性が高いとされています。

ただし、下半身の部分は失われているため、全体としてどのような服装だったのかまでは分かりません。

つまり、「女性だと分かるように描かれている」という点は強く示唆されるものの、細部まで完全に再現できるわけではないのです。

もちろん、この研究には慎重に見るべき点もあります。

最大の弱点は、モザイクの現物がほぼ失われていて、19世紀の写しに頼らざるを得ないことです。

写しがどこまで正確なのかという疑問は当然残ります。

ただ、論文では、生き残った断片とロリケの写しがよく一致していることも示されており、写しが大きく事実を歪めている可能性は高くないと考えられています。

だからこそ今回の報告は、「非常に有力な再解釈」として受け止めることができます。

古代ローマには、私たちが予想していた以上の期間にわたって、過酷な戦いを行った女性戦士たちが存在していたのかもれません。

参考文献

The Lost Huntress: Uncovering the First Image of a Female Beast Fighter in Ancient Rome
https://www.zmescience.com/science/news-science/the-lost-huntress-uncovering-the-first-image-of-a-female-beast-fighter-in-ancient-rome/

Roman mosaic shows topless woman battling leopard in arena, study finds
https://www.livescience.com/archaeology/romans/roman-mosaic-shows-topless-woman-battling-leopard-in-arena-study-finds

元論文

New Evidence of Women Fighting Beasts in the Roman Arena: The Woman in the Mosaic from Reims
https://doi.org/10.1080/09523367.2026.2632176

ライター

矢黒尚人: ロボットやドローンといった未来技術に強い関心あり。材料工学の観点から新しい可能性を探ることが好きです。趣味は筋トレで、日々のトレーニングを通じて心身のバランスを整えています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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