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祇園〈両足院〉副住職・伊藤東凌の法話。無心になれる、京の古刹

  • 2026.2.19
黄檗宗大本山の寺院〈萬福寺〉、京都〈詩仙堂丈山寺〉庭園

「余」を手放すことで、余白が見えてくるのです

「余白とは、その字の通り“余っているもの”。私たちは、余っている時間や空間を効率的に埋めようとしすぎて、本当はすでに持っているはずの“余っているもの”が、見えづらくなっているのではないでしょうか」座禅体験や歩く瞑想など、さまざまなアプローチで禅の思想を伝えている〈両足院〉の副住職、伊藤東凌さんがそう話す。

「自分にとって本当に必要なものを見極めれば、余白を覆い隠してしまっている“余分”に気づくはず。その余分を手放したり交換したりすることで、余白は見えてくるのです」

京都〈両足院〉本堂
池泉回遊式庭園に臨む本堂の縁側で座禅をする伊藤東凌さん。
京都〈伊藤東凌〉大書院
アート展示などを行う大書院。その都度“がらんどう”に戻す。日本建築における余白の極み。
京都〈両足院〉寺院の窓
窓から方丈前庭園を見る。

Information

両足院

1358年開創。京都最古の禅寺〈建仁寺〉の塔頭(たっちゅう)寺院の一つで、「五山文学」という禅特有の文学や美術の発展に貢献してきた。通常非公開だが特別拝観や予約制坐禅体験、楽事(喫茶)体験も行っている。年に数回は現代アートや文化財の展示を行い、期間中は一般拝観可能。

りょうそくいん
住所:京都市東山区大和大路通四条下ル4丁目小松町591|地図
TEL:075-561-3216
HP:ryosokuin.com

例えば座禅は、自分への執着を手放し、誰かが作った「よい人生」探しのゲームから離れる時間。心の中にある余白に気づけば、何者でもない本来の自分に再接続できる。

「座禅でよく話すのは、スピークからリッスンに切り替えること。言葉を発するよりもまず聴く姿勢でいることで、気持ちに余白が生まれます。仏教には、仏の声を聞くことが悟ること、という教え“声聞乗(しょうもんじょう)”がありますが、その意味で私が好きなのは〈詩仙堂丈山寺〉。

近景、中景、遠景が織り成す庭に向かって耳を澄ますと、木霊のようなざわめきや鳥の声が聞こえてくる。庭にも、こちらの話を聞いてくれる気配があり、心の声で静かに語り合うような時間を過ごせるのです」

京都〈詩仙堂丈山寺〉書院
書院の縁側越しに前庭を眺める。青紅葉やサツキの緑と白砂の対比が美しい。秋には奥の紅葉が真っ赤に染まる。
京都〈詩仙堂丈山寺〉庭園
一乗寺の〈詩仙堂丈山寺〉は、江戸時代の武士で文人でもあった石川丈山の草庵跡。白砂の砂紋が美しい庭は、庭作りの名手・丈山が手がけた。光が穏やかな朝の時間に訪れたい。
京都〈詩仙堂丈山寺〉書院の窓
書院の窓。

Information

詩仙堂丈山寺

「建物も庭も控えめなところに惹かれます」と伊藤さん。1641年建立(こんりゅう)。武士で文人の石川丈山の草庵跡。庭は唐様。この庭にもある添水(そうず)(ししおどし)は丈山の考案だと言われる。江戸時代の絵師、狩野探幽(かのうたんゆう)による中国の詩人36人の肖像画を掲げた〈詩仙の間〉も。

しせんどうじょうざんじ
住所:京都市左京区一乗寺門口町27|地図
TEL:075-781-2954
営:9時~17時(15分前受け付け終了)
休:無休
拝観料:700円
HP:kyoto-shisendo.net/

お寺の回廊や神社の鳥居が持つ連続性も、ある種の余白に導いてくれる、と伊藤さん。

「〈伏見稲荷大社〉の鳥居が立ち並ぶ光景は、極めて瞑想的。連続する鳥居の中を歩くことで、自分というものがいったん埋没し、思考がクリアになる気がします。あるいは宗教建築の特徴でもある回廊。宇治の〈萬福寺〉の、伽藍(がらん)をぐるりとつなぐ大回廊は格別です。両足院でも“歩く瞑想”を行いますが、回廊を歩き続けるループの中に身を置くと、自意識が消え去って無の心になれるんです」

京都〈伏見稲荷大社〉千本鳥居
本殿背後から奥社奉拝所にかけて朱塗りの鳥居が連なる「千本鳥居」。

Information

伏見稲荷大社

全国に約3万社あるといわれる「お稲荷さん」の総本宮。創建は奈良時代、711年。稲荷山の参道全体に1万基以上の美しい鳥居が立ち並ぶ。

ふしみいなりたいしゃ
住所:京都市伏見区深草薮之内町68|地図
TEL:075-641-7331
休:無休。24時間参拝可能
拝観料:無料
HP:inari.jp/

黄檗宗大本山の寺院〈萬福寺〉
宇治市にある黄檗宗(おうばくしゅう)大本山の寺院〈萬福寺(まんぷくじ)〉。国宝の本堂や法堂(はっとう)など、境内の伽藍(がらん)すべてが屋根付きの回廊で結ばれている。その回廊をぐるぐる歩き回ることで、自意識を忘れ去る。大雄宝殿と法堂を結ぶ回廊。
京都〈萬福寺〉外観
奥は国宝の大雄宝殿(だいおうほうでん)。「卍崩し」を取り入れた手前の勾欄は国宝の法堂(はっとう)。

Information

萬福寺

「連続する回廊を歩き続けることは、瞑想にも近い」と伊藤さん。1661年に中国僧の隠元隆琦(いんげんりゅうき)禅師が開創。中国明朝様式を取り入れた伽藍配置が特徴で、卍崩しの勾欄(こうらん)(欄干)やアーチ形の黄檗(おうばく)天井など、建築的な見どころもたっぷり。

まんぷくじ
住所:宇治市五ケ庄三番割34|地図
TEL:0774-32-3900
営:9時~17時(30分前受け付け終了)
休:無休
拝観料:500円
HP:www.obakusan.or.jp/

一方、予定を決めずに町を散策することで味わえる余白も、京都ならでは。

「鴨川の河川敷を歩けば、この川が町と自然を分けてきた“境界”であることを感じるでしょう。お寺の縁側には、建築と庭を曖昧につなぐ“間”が存在します。そういう、どちらにも属さない中間領域に触れると、心がふわりと解放されるんです。また、京都では通りの名に町の記憶が宿っています。

京都御所の西にある衣棚通(ころもんだなどおり)や釜座通(かまんざどおり)は、御所の暮らしを支えた呉服屋や釜屋が並んでいたことの証し。その意味を知り、古(いにしえ)に思いを馳せる心の内にも、温かな余白が生まれているはずです」

profile

伊藤東凌(両足院副住職)

いとう・とうりょう/1980年京都府生まれ。2007年副住職となる。国内外で延べ20万人以上に座禅指導を行ってきた。現代美術にも造詣が深く2023年には『Newsweek』の「世界が尊敬する日本人100人」に選出。

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