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『言の葉の庭』から長編初監督作『花緑青が明ける日に』へ。四宮義俊が生み出す“四宮グリーン”と心を震わす作劇

  • 2026.2.14

日本画家の四宮義俊による長編アニメーション監督デビュー作にして、声優キャストに萩原利久&古川琴音、入野自由を迎えた『花緑青が明ける日に』(3月6日公開)。第76回ベルリン国際映画祭コンペティション部門にも選出されており、日本アニメーションとして、長編監督デビュー作がコンペ部門に選ばれるのは初の快挙となったことでも話題だ。

【写真を見る】色彩の海へ飛び込んだかのよう…『花緑青が明ける日に』四宮監督が誘う、唯一無二の“四宮グリーン”

物語の舞台は創業330年の花火工場、帯刀煙火店。その次男で、蒸発した父親に代わり幻の花火“シュハリ”を完成させようと花火づくりに情熱を注ぐ敬太郎(声:萩原利久)と、地元を離れて将来の道を模索する幼なじみのカオル(声:古川琴音)は、再開発による店の立ち退き期限が迫ったことをきっかけに、敬太郎の兄、千太郎(声:入野自由)の画策で、4年ぶりの再会を果たす。2人は残された2日という期限のなかで、運命を変える花火を打ち上げるために奮闘する。

本作を手掛けたのは、日本画家として活躍しながら、これまで新海誠や片渕須直といった日本を代表するアニメーション監督の作品に参加してきた四宮義俊監督。若者たちの青春と、水彩画のような美しい色彩で唯一無二の世界観を実現させた本作に至るまで、彼はどのように自身の世界を構築してきたのだろう。本稿ではその才能の真髄に迫るべく、アニメ評論家・藤津亮太が、四宮監督のこれまでをひも解いていく。

「淡いグリーンに彩られた唯一無二の世界」/藤津亮太

町の再開発による立ち退きの期限が迫るなか、若者たちの未来をめぐる物語『花緑青が明ける日に』 [c]2025 A NEW DAWN Film Partners
町の再開発による立ち退きの期限が迫るなか、若者たちの未来をめぐる物語『花緑青が明ける日に』 [c]2025 A NEW DAWN Film Partners

四宮義俊監督は、確固たる世界観を持った映像作家である。四宮が初めて手掛けた長編アニメーション『花緑青が明ける日に』は、ベルリン国際映画祭の今年のコンペティション部門に正式出品されている。同映画祭のコンペティション部門には、これまで『千と千尋の神隠し』(宮崎駿監督)、『すずめの戸締まり』(新海誠監督)が正式出品されていることもあり、同作は3月6日の公開を前に、大きな注目を集めている。

もともと四宮は、東京藝術大学大学院で日本画を修めた後、日本画家、アーティスト、イラストレーターなどの多岐にわたる活動を繰り広げてきたというユニークなキャリアの持ち主だ。この多彩な活動ゆえ、多くの人がその名前をそこまで意識をしないまま、クリエイティブに接してきた存在でもある。

例えば四宮は新海監督の『言の葉の庭』(13)にスタッフとして参加している。イメージボードや背景美術を担当し、さらに作品の顔といえるポスターイラストも手掛けた。メインのポスターに使われた、公園の緑に囲まれた東屋で、少年と女性が静かに向かい合っている美しいイラストを覚えている人も多いだろう。

また四宮は『劇場版ポケットモンスター キミにきめた!』(17)公開に合わせて制作された「ポケモン映画20周年記念ビジュアル」も手掛けている。森の中の大きな木の根元にいるピカチュウと、サトシが映り込んだモンスターボールが柔らかなタッチで描かれている。四宮は続いて『劇場版ポケットモンスター みんなの物語』(18)、『劇場版ポケットモンスター ココ』(20)の公開時にも、それぞれの作品世界を魅力的に切り取ったスペシャルアートを担当している。

そして四宮はアニメーション作家としての顔も持っている。

まず2012年には自主制作の短編アニメーション『水槽の虎(Fudge Factor)』を発表。こちらは四宮のYouTubeチャンネルで見ることができる。

森の中のトラの姿を描いた幻想的な短編は未完成ながら、主要な要素として「水」と「森」が登場しており、既にひとつの世界を確立していることがわかる。そのセンスと技術を生かして四宮は新海監督の『君の名は。』でも重要なパートの演出・作画・撮影を担当した。担当したのは「回想シーン」と呼ばれている、主人公の滝の意識が時空を超え、ヒロイン・三葉の誕生から現在に至るまでの様子を幻視するシーンである。映画の中でももっともドラマチックな部分で、多くの観客に強い印象を残した。

さらに『君の名は。』と同年公開の『この世界の片隅に』(片渕須直監督)にも参加。こちらは主人公・すずが少女時代に描いた水彩画が動き出すシーンを手掛けている。

このほかインドネシアで放送・配信されたポカリスエットのCMや、眉村ちあきの『冒険隊 ~森の勇者~』のMVなども手掛けており、今回長編を初監督することになったのも、至極必然的な流れであったことがわかる。

『水槽の虎(Fudge Factor)』がそうであったように、四宮の作品には「水」と「森」がしばしば登場し、「淡い緑の光」が世界に満ちている。この“四宮グリーン”ともいうべきルックこそ、四宮作品の刻印といえる。タイトルに「緑」の文字が含まれる『花緑青が明ける日に』ももちろん、“四宮グリーン”に満ちた世界である。

【写真を見る】色彩の海へ飛び込んだかのよう…『花緑青が明ける日に』四宮監督が誘う、唯一無二の“四宮グリーン” [c]2025 A NEW DAWN Film Partners
【写真を見る】色彩の海へ飛び込んだかのよう…『花緑青が明ける日に』四宮監督が誘う、唯一無二の“四宮グリーン” [c]2025 A NEW DAWN Film Partners

果たして『花緑青が明ける日に』はどのような作品なのか。そこを想像する上で特にポイントになると思われるアニメーション作品がある。それが2018年に発表された短編『トキノ交差』だ。四宮は監督・絵コンテ・演出・キャラクターデザイン・作画監督・美術監督をひとりで担当。また同時に、アニメーション作家としては個人制作がメインだった四宮が、監督として商業アニメのスタッフと本格的にタッグを組んだ作品でもある。

『トキノ交差』が上映されたのは、渋谷のスクランブル交差点。交差点に面した4つの大型ビジョンを連動させ「アニメ屏風」を展開するという企画として制作されたものだ。「トキノ交差」は現在、YouTubeで、YouTube ver.を見ることができる。

上映時間はわずか1分強。しかし、そこには四宮の作家としての魅力が凝縮されて詰め込まれている。四宮は渋谷の交差点という舞台に載せる物語として、「人間の功罪を含めた遠大な歴史と生物的な衝動」(※)を「俯瞰して見続けてきた土地の表情そのもの」(※)こそがふさわしいと考えた。そこから、ひとりの女性が宙返りをする一瞬の間に、その土地の持つ1万年の歴史を圧縮して描き出すという発想で作品を作り上げた。

淡いグリーンのパーカーを着た女性。彼女が宙返りを始めると、そこに太古の森が現れ、そこから一気に長い時間が流れ始め、現在へと近づいていく。そこには太平洋戦争も、東日本大震災の後の計画停電の様子も、象徴的に描き出されている。そして最後は、落ちていくブーツが水の中へと沈んでいくイメージが現れ、カメラは現在の現実へと帰還する。「森」と「水」という四宮作品に欠かせないモチーフに加え、やはり淡い緑の光が基調をなしている作品だ。

緊迫感漂う車のシーン [c]2025 A NEW DAWN Film Partners
緊迫感漂う車のシーン [c]2025 A NEW DAWN Film Partners

また本作に投影された自身の個性について、四宮は次のように語っている。「たとえば花鳥風月、動植物といった季節感みたいなものに自分の特色が現れているのかなと。特に緑の表現は、記号化された森にはならないようにしました。樹皮や、植物の種類が同定できるぐらいの気持ちで描いているつもりです。昔からアニメーションに対して、木や草は、もう少し幅が出せるんじゃないかという思いはあったんです。まあ、日本画家というよりは、自分の画作りの問題だと思うのですが、キャラクターも含めて『触れそうな質感』みたいなものが割と好きかな、と」(※)

『トキノ交差』に見られた様々な要素は、『花緑青が明ける日に』にそのまま受け継がれている。そして新たな要素としてそこに、「子供時代」という繭から羽化しようとする、若者たちの物語が加わっている。3月の公開時には、“四宮グリーン”に包まれた美しい世界と、瑞々しいドラマを是非楽しんでいただきたい。

 『花緑青が明ける日に』は3月6日(金)公開 [c]2025 A NEW DAWN Film Partners
『花緑青が明ける日に』は3月6日(金)公開 [c]2025 A NEW DAWN Film Partners

※四宮監督の言葉は『トキノ交差』の原画展に併せて制作された冊子「NOTE -SHIBUYA VARNACULAR- OFIICIAL GUIDE BOOK」に掲載されたもの。

文/藤津亮太 構成/編集部

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