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「心の底からオススメできる」「NHK様ありがとう」制作陣の“本気”が滲む“並外れた完成度”…12年経ても語られる名ドラマ

  • 2026.2.12

ドラマや映画の中には、放送をきっかけに大きな話題を呼び、記憶に刻まれる作品があります。今回は、そんな中から「快挙を遂げたNHKドラマ」を5本セレクトしました。本記事ではその第2弾として、NHKドラマ『足尾から来た女』(NHK総合)をご紹介します。明治末期の足尾銅山鉱毒事件を背景に、時代に翻弄されながらも歩み出す一人の女性を描いた本作。放送当時、多くの視聴者の心をつかんだ理由とは――?

※本記事は、筆者個人の感想をもとに作品選定・制作された記事です
※一部、ストーリーや役柄に関するネタバレを含みます

あらすじ

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NHK連続テレビ小説制作班が放送文化基金50周年記念賞を受賞し、朝ドラヒロインを代表して贈呈式に出席した尾野真千子(C)SANKEI
  • 作品名(放送局):NHKドラマ『足尾から来た女』(NHK総合)
  • 放送日:2014年1月18日・25日(全2回)
  • 出演:尾野真千子(新田サチ 役)/ 柄本明(田中正造 役)ほか

舞台は明治末期。足尾銅山の鉱毒被害に苦しむ谷中村で暮らす新田サチ(尾野真千子)は、田中正造(柄本明)に頼まれ、東京にいる支援者・福田英子(鈴木保奈美)のもとで家政婦として働くことになります。そこに警察官僚の日下部(松重豊)が現れ、福田家の内情を警察に知らせるよう命じられるのでした。

類いまれな美貌を持つ英子、元教育者の母・楳子(故・藤村志保さん)、そして英子の年下の愛人で、情熱的な社会主義者・石川三四郎(北村有起哉)。さまざまな立場や思想を持つ人々が集う福田家で、サチの新たな日々が始まるのでした――。

公害の原点に挑んだNHKの本気

東日本大震災を経て、“故郷を失う”という現実があらためて突きつけられた2014年。本作は、日本公害の原点ともいわれる足尾銅山鉱毒事件に正面から向き合い、世に送り出されました。脚本を手がけたのは重厚な人間ドラマの名手・池端俊策さん。演出には、長年この事件と政治家・田中正造の研究に心血を注いできた田中正さんが名を連ねています。二人の強い想いが重なり合い、明治末期の激動の時代を驚くべき解像度で現代に蘇らせました。

舞台となるのは、銅山から流れ出た毒により田畑が汚され、強制廃村の危機に追い込まれていた栃木県谷中村。この村を守るため、国を相手に孤独な闘いを続けたのが、実在の政治家・田中正造です。本作は、その正造の仲立ちによって、故郷を追われた一人の無名の女性・新田サチが東京へ向かうところから始まります。

主演の尾野真千子さん演じるサチが身を寄せることになったのは、“東洋のジャンヌ・ダルク”と呼ばれた女性解放運動家・福田英子の家。
読み書きもままならなかったサチが、東京で社会運動家や若き石川啄木らと出会い、言葉を覚え、自分の考えを持つようになっていく――その成長の姿が描かれています。

物語をより確かなものにしているのが、実力派キャストの存在です。日本のドラマ・映画界を支える俳優たちが顔をそろえ、それぞれの役に深みを与えています。

NHK連続テレビ小説『カーネーション』で主演をつとめた尾野真千子さんをはじめ、苦悩を抱えながら闘い続ける田中正造を演じた柄本明さん、女性解放運動家・福田英子に扮した鈴木保奈美さん、英子の恋人で社会主義者の石川三四郎役の北村有起哉さん、サチを監視する警察官を演じた松重豊さん、そして時の権力者・原敬役の國村隼さんなど、重厚な顔ぶれがそろい、物語に骨太なリアリティをもたらしました。

その完成度は高く評価され、“東京ドラマアウォード2014”で単発ドラマ部門優秀賞を受賞する快挙を成し遂げました。全2回という短さにもかかわらず、映画数本分にも匹敵する濃密さと、強い社会的メッセージを宿した本作は、当時のテレビドラマにおける一つの到達点といえるでしょう。

実力派女優・尾野真千子が演じた名もなき女性

本作が描き出すのは、時代という大きな波にのみ込まれながらも、名もなき一人の女性が、自らの足で立ち上がっていくまでの軌跡です。

故郷を奪われた当初のサチは、ただ翻弄される存在にすぎませんでした。けれど知識人たちと出会い、学び、文字を知ることで、権力のからくりに気づき、搾取される側から、自ら考え行動する人間へと変わっていく――その過程は、まさに“魂の教育”そのもの。情報があふれる現代において、“知ること”が自分を守る力になる――そんなメッセージをまっすぐに投げかけます。

そして、この難役を圧倒的な説得力で演じきったのが尾野真千子さんです。

尾野さんは河瀨直美監督の『萌の朱雀』で主演デビューし、世界にその名を知らしめました。NHKドラマにおいても、主演作『火の魚』がイタリア賞(第62回単発ドラマ部門最優秀賞)やモンテカルロ国際テレビ祭(第50回テレビ映画部門ゴールドニンフ賞)を受賞するなど、その実力は国際的にも高く評価されています。

泥にまみれ、無骨に生きてきた明治の女性が、学びを通じて瞳の奥に知性の光を宿していくグラデーションは圧巻の一言。感情を押し殺しながらも爆発寸前の熱量を孕んだその演技は、観る者を魅了します。

尾野さんの演技は、近年のNHK連続テレビ小説『虎に翼』での語りにおいても、「朝ドラにぴったりの声」「ナレーションが素晴らしい」と絶賛されました。また、2024年のドラマ『ライオンの隠れ家』や、再放送された『カーネーション』を観た視聴者からは、「心の機微がダイレクトに伝わってくる」「尾野真千子はやっぱりすごい」「国宝級の女優さん」と改めてその凄みに注目が集まっています。

言葉少ないサチが内面に秘めた、爆発寸前の熱量を孕んだ“声”と“表情”は、こうした近年の名演にも通じる、彼女の真骨頂といえるでしょう。

震災後の時代と向き合って――10年以上経っても色褪せない名作

本作が高い評価を受け、記憶に残る作品となった背景には、放送された2014年という時代背景が大きく関わっています。東日本大震災から3年。多くの人々が故郷を失う悲しみや、抗えない力に対する無力感と向き合っていた時期でした。

制作陣は、理不尽な状況で土地を追われる人々に少しでも力を届けたいという思いで、この物語を形にしたといいます。そのため、歴史的に知られる直訴や激しい闘争を前面に出すのではなく、日々の暮らしや人と人との関わりに光を当てました。

社会的な事件を扱いながらも、声高に訴える構成にはしない。故郷を追われた名もなき女性が学び、自らの足で立とうとする過程を丁寧に追いかけたことに、本作の価値があります。

それは公共放送として、困難な時代を生きる人々に寄り添おうとした、制作者たちの決意と矜持の表れとも言えるでしょう。

放送から10年以上が経った今も「強烈に面白い」「全力で推したい」「心の底からオススメできる」「何度も観返したくなる名ドラマ」「歴史ドラマの傑作」「NHK様ありがとう」と語り継がれている本作は、まさに「快挙を遂げたNHKドラマ」と呼ぶにふさわしい一作です。


※記事は執筆時点の情報です