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ついに「バンドエイド」を抜いて首位…老舗ニチバン「はがれにくくはがしやすい」実現した粘着テープ会社の意地

  • 2026.1.17

あまりにも身近な日用品の商品名を知らないことがある。救急絆創膏もその1つだろう。現在、国内で売上数量トップのニチバン「ケアリーヴ」は、知名度より先に功績が勝った。長年業界を制覇していた「バンドエイド」をどのように抜いたのか。同社執行役員の富田英樹さんは「なにしろ競合相手がかなり強力だったので、こちらは消費者目線に徹底できた。競った、という感覚はない」という――。(前編/全2回)

救急絆創膏のことを何と呼ぶか

「バンドエイド、ありますか?」

ドラッグストアで救急絆創膏(以下、絆創膏)を探すとき、多くの人が無意識にそう言う。

だが実は、「バンドエイド」は商品名にすぎない。アメリカ発のブランド名だ。それが今や、絆創膏というモノ自体の名前として定着している。しかしその呼び名は日本のエリアごとに異なるらしい――こんな話題が、年に何度かSNSでバズるという。

たとえば北海道では「サビオ」、九州では「リバテープ」、北陸なら「キズバン」、関西や関東では「バンドエイド」、そして東北、中国地方と、なぜか埼玉では「カットバン」。「サビオ持ってない?」と北海道出身者に聞かれて、「え? 何それ」と反応してしまう東京人もいるそうだ。

そんな業界に、静かな地殻変動が起きていた。

2024年より、絆創膏市場の国内売上数量第1位の商品が、ニチバンの「ケアリーヴ」シリーズに取って代わっていた(*1)。同社ヘルスケア部門の売上高約152億円のうち、「ケアリーヴ」は前年同期比で+9.4%(2025年3月期)。まさに社の中核に成長しながら、市場も牽引している絆創膏なのだ。

「ケアリーヴ」の発売は1997年である。それから30年も満たずして、アメリカのヘルスケア企業ケンビュー(ジョンソン・エンド・ジョンソンから分社化)の「バンドエイド」から、トップの座を奪った日本の老舗ニチバン。はたして勝因は、何か。さっそく東京・麹町の本社を訪ねた。

*1 インテージSRI+「絆創膏市場シリーズ計2024年4月~2025年3月」販売数量

なぜ戦わずして勝てたのか

「いやぁ、いつの間にかトップになっていたんです」

迎えてくれたのは、富田英樹さん(53歳)。1994年に入社し営業として発売当初から「ケアリーヴ」に携わり、現在はブランド全体を率いるニチバンの執行役員。やわらかな笑顔のリーダーだ。

「最近よく売れているなぁと思ってつくづく調べてみたら、2024年に売上数量が1位になっていました」

老舗の貫禄にいささか拍子抜けもしたが、次の言葉に頷かされる。

「競合の『バンドエイド』と圧倒的な売り上げの差があった時代を知っていますから、まさか追いつき、しかも追い越す時代が来るとは想像もしておらず……。ついにここまで来たか、という感慨があります」

富田さんはさらに続けた。

「発売前から、高みを目指せたせいかもしれません。なにしろ競合相手がかなり強力だったので、こちらは消費者目線に徹底できた。作り手のわれわれが“使い手になりきった”ということです。競った、という感覚ではなく」

世界的“ガリバー”とは戦わなかった、と言う富田さん。では、どう戦わずして勝てたのだろう。話は30年前にさかのぼる。

「ケアリーヴ」の発売当初から営業として関わってきたニチバンの富田英樹さん
「ケアリーヴ」の発売当初から営業として関わってきたニチバンの富田英樹さん
発売前に社内で配られたカラー冊子

1994年の入社時、ニチバンの主力商品は「セロテープ」などの文具だった。富田さんの配属はテーピングテープなどを扱う薬品課。地味な部門だった。所属した名古屋オフィスの営業では、大企業向けに大きな数字を獲得する産業用材部門の隣で小さくなっていた。

「売り上げも小さく、やってもやっても数字にならない。苦労しました」

担当商品の1つに1975年に発売された絆創膏「オーキューバン」があったが、苦戦していた。圧倒的なシェアを占める競合品がある中、これといった差別化ができなかったのだ。こうなると、始まるのは価格競争。

「販売先との商談になると、『で、いくらにしてくれるの?』という話になるわけです。商品の質の良さを説明しても、なかなか耳を貸してもらえなかった」

そんな入社3年目のある日のことだった。A4サイズのカラー16ページの冊子が突然、営業担当者に配られた。新商品の内部資料である。

それまでは、社内向けに新商品が説明されても、せいぜいペラ1、2枚。必要最小限のことが記された、あくまでも仕様書だった。今回はフルカラーの冊子である。正直、驚いた。新商品「ケアリーヴ」について、その特長や開発過程を詳しく記したコンセプトブックだったのだ。

「新しい商品が出るらしい、すごい絆創膏らしい、と多少聞いていましたが、まずはカラーブックに驚きましたね。会社は本気だな、と。事前にこんなものをつくるわけですから」

女性モニター200人に聞いたホンネ

さらに、開発担当者による社内説明会も行われた。ぜひ実際に使ってほしい、とサンプルも各人に配られた。塩化ビニル製ではない、「高密度ウレタン不織布ふしょくふ」という文字が、太字で記されていた。

自分の指に貼ってみた。すると、「たしかに指にフィットする。従来品とも伸びの良さがかなり違う」と即、実感できた。

実は、富田さんが入社した前後から約3年にわたり、新しい絆創膏の開発が社内で進められていた。時は平成時代の立ち上がり。日本人初の女性宇宙飛行士、向井千秋さんの登場など、さまざまな業界への女性進出が脚光を浴びていた頃である。

そして「ケアリーヴ」のコンセプトブックも、女性モニターの声に2ページ分が割かれていた。首都圏在住の10~40代女性200人に聞いた、アンケート調査結果である。


「ぬれても、はがれないのがいい」57.9%
「つけていて目立たないのがいい」40.2%
「抜け落ちたり、はがれたりしないのが欲しい」35.9%
「ムレて肌が白くなるのはイヤ」34.4%
「フィット感と、貼りごこちが大切」30.1%

水仕事がどれほど大敵か。ムレることがどれだけ不快か。奇抜さはない。だが、使い手にとっていずれも不可欠なことだった。富田さんは振り返る。

「実際に毎日使っている人が、答えを持っている。絆創膏とは何か。現状への不満から、それを知ることができました」

ユーザーの“不満足”。言い替えればそれは、既存品への不満かもしれない。ならばそれに応えた絆創膏をつくればいい。開発の鉱脈はそこにあった。

国内絆創膏市場で売上数量トップのニチバン「ケアリーヴ」シリーズ
国内絆創膏市場で売上数量トップのニチバン「ケアリーヴ」シリーズ
「いまだ市場にない絆創膏をつくろう」

開発・設計を主導したのは3名の社員。そのうちリーダーは、のちに社長となる人物だ。彼らがまず挑んだのは、テープそのものの刷新だった。

当時は、塩化ビニル素材の救急絆創膏が主流で飽和状態だったという。「でも、いまだ市場にはないものをつくろう、まったく新しい絆創膏をつくろうと、素材そのものから見直したのです」

テープ素材に選ばれたのは、高密度ウレタン不織布。従来のウレタン不織布と比べ、約半分の細さの繊維だった。繊維の太さは約15ミクロン。極細化で密度を上げ、キメの細かさでやわらかさを生む。しかも全体にエンボス(凹凸)をほどこし、テープの触感を人の肌に近づけた。

「目指したのは、限りなく素肌に近づけることでした。人の肌に近い摩擦ができたので、貼った指で紙もめくりやすくなるんです。手を洗ったり、入浴後も早く乾きます。また、特殊製法の高密度ウレタン不織布を突き詰めていくことで、これまでにないフィット感を実現しました」

しかも色にも妥協しない。不織布はもともと白色だが、できるだけリアルな肌に近づけるため、200色の明度の異なるベージュ色から最も皮膚になじむものを厳選したという。「貼ったことを忘れるくらいに目立たない色。実際に、皮膚よりやや明るい色が選ばれました」

【図表】「ケアリーヴ」の色相
画像提供=ニチバン
はがれにくいのにはがしやすい

さらにそこへ、ニチバンの本業である粘着剤の技術が投入された。これぞ長年テープを手がけてきた老舗の真骨頂といえる。富田さんが笑った。

「“糊のり”はわが社の得意分野です。水に強く、はがれにくい。それでいて、はがすときは痛くない。素材と粘着剤の組み合わせを無数に試した結果、3年の月日が経ちました」

はがれにくいのに、はがしやすい。一見、矛盾するこの条件を、素材と粘着剤の微調整で成立させた。しかもムレにくさを実現するために、角質中の水分量の測定データを基に、最適なバランスを追求した。絆創膏を使う人が何にいらだち、何に満足するかを、徹底的に商品に落とし込んだのだ。

それだけではない。傷口に当たるパッドの素材と設計も変えた。

「血液をよく吸いとる吸水性の高いパッドです。はがすときに痛くないよう、ネット状の薄膜を重ねてあります。それが水仕事ではがれてしまったら元も子もないので、パッド上下の粘着部分をミリ単位で広げた。これで、ぐっとはがれにくくなりました」

ネーミングにはメッセージが込められた。「ケアリーヴ」、つまり「傷をやさしく守る(ケア)木の葉(リーフ)」である。商品のテーマカラーは「緑」に決まる。

「絆創膏にテーマカラーがあるなんて想像もしなかった」という当時20代の富田さんは、「これは売れる。いや、売れないはずがない」と武者震いがしたという。

値段で勝てないなら勝ち筋は1つ

しかし日を置かずして、営業の現場に激震が走る。Mサイズ30枚入りで、希望小売価格480円。競合商品に比べ、1箱当たり100円ほども値段が高かったのだ。しかも追い打ちがかかる。経営陣の号令は、「値引きは不可」だった。

「安売りはまかりならん、ということです。正直、のどがつまりました。絆創膏は価格競争でしたから、値引きができなければ薬局の棚が取れません。棚が取れなければ、お客さんの手には決して届きません」

値段が動かせない商品を、どうやって売れというのか。

交渉の切り札はない。まるで地図も持たされないまま、知らない街に放り出されたような心細さがこみ上げた。だが同時に、サンプルを指に巻いたときの、あの感触がよみがえる。

――ならば、勝ち筋は1つしかない。

「値段で勝てないなら、体験で勝つしかない、と。相手が『高い』と言う前に、指に貼らせてみようと」

「水に強く、はがれにくい。それでいて、はがすときは痛くないケアリーヴです」と語る
「水に強く、はがれにくい。それでいて、はがすときは痛くない『ケアリーヴ』です」と語る富田さん

その瞬間から「ケアリーヴ」の戦術は、“価格競争”ではなくなっていく。営業部員たちの覚悟が決まった。

上阪 徹(うえさか・とおる)
ブックライター
1966年、兵庫県生まれ。89年、早稲田大学商学部卒。アパレルメーカーのワールド、リクルート・グループを経て、94年よりフリーランス。広告、記事、広報物、書籍などを手がける。インタビュー集として、累計40万部を突破した『プロ論。』シリーズ(徳間書店)、『外資系トップの仕事力』シリーズ(ダイヤモンド社)などがある。2011年より宣伝会議「編集・ライター養成講座」講師。2013年、「上阪徹のブックライター塾」開講。日本文藝家協会会員。

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