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不老薬みたいなのを飲んだハエ、寿命が伸びる代わりに弱体化していた

  • 2026.1.14
不老薬みたいなのを飲んだハエ、寿命が伸びる代わりに弱体化していた
不老薬みたいなのを飲んだハエ、寿命が伸びる代わりに弱体化していた / Credit:Canva

ドイツの家畜生物学研究所(FBN)で行われた研究によって、「不老薬を飲んだら、長生きはできるが足腰が立たなくなる」という、まるで冗談やホラーのようなこの現象がショウジョウバエの実験で報告されました。

研究では古くから高血圧の薬として使われてきたレセルピンという化合物をエサに混ぜて与えると、ハエの最大寿命が68日から81日へと大幅に伸びた一方で、運動能力が大きく低下し、高温にも弱くなってしまったのです。

見かけ上は「不老薬みたいな薬」は、実は毎日の力を薄く削って寿命に付け足すような「細く長く化」させるデバフ効果もセットだったわけです。

もし人間にもこうした「寿命と引き換えに弱くなる薬」があったとしたら、私たちはそれでも飲みたいと思うでしょうか。

研究内容の詳細は2026年1月12日に『npj Aging』にて発表されました。

目次

  • 寿命と健康は両立できるのか?
  • 長寿の代償は大幅な弱体化だった

寿命と健康は両立できるのか?

寿命と健康は両立できるのか?
寿命と健康は両立できるのか? / Credit:Canva

もし本当に「飲めば長生きできる薬」があったらどうでしょうか。

きっと多くの人が一度は夢見たことがあると思います。

なぜなら私たちはなんとなく、「長生きできるようになれば、元気で強い体にもなるはずだ」と思いがちだからです。

健康番組や広告でも、「寿命も健康もまとめて底上げ」といったイメージがよく語られます。

ゲームで言えば、「レベルが上がればHPも攻撃力も防御力も全部上がる」と期待してしまう感じです。

実際、これまでの長寿研究でも、カロリー制限(食事を減らす方法)や一部の遺伝子操作では、「寿命が伸びると同時に、熱や酸化ストレスにも強くなる」という“いいとこ取り”の例が報告されたことも多くありました。

ですから、「長寿=タフになる」というイメージが定着していても無理はありません。

「何かを削れば何かが伸びる」というイメージで一石二鳥が達成された状態と言えるでしょう。

そこで今回研究者たちは「体を全体的に静かに回す物質」にも、長寿効果があると考えました。

白羽の矢が立ったのはもともと高血圧などで使われてきたレセルピンと呼ばれる古い薬です。

レセルピンは脳内のノルアドレナリンやドーパミンなどのモノアミンを減らして体を落ち着かせる作用があります。

こうした仕組みから、レセルピンが生物の寿命に影響を与えるかどうかは以前から興味を持たれていました。

実際、過去の研究では線虫(センチュウ:1mmほどの小さなミミズの仲間)の実験において、レセルピンの投与で寿命や暑さへの耐性が向上したとの報告もあります。

この結果だけ見るとレセルピンには老化を防ぐ良い効果がありそうです。

長寿の代償は大幅な弱体化だった

長寿の代償は大幅な弱体化だった
長寿の代償は大幅な弱体化だった / Credit:Canva

レセルピンは種を超えた長寿薬になるのか?

答えを得るため研究者たちはショウジョウバエにレセルピン入りのエサを与えてみました。

結果、まず寿命については予想通り大幅な延長が観察されました。

レセルピンを投与されたハエは投与なしのハエよりも長生きし、特に高用量(1500 µM)では最大寿命が68から81日に約20%も伸びました。

平均寿命もおよそ53日程度から55~57日程度と10%弱の増加を見せました。

この結果は、レセルピンには確かにハエの寿命を延ばす効果があることを示しています。

ところが、寿命と引き換えに運動能力(体力)が明らかに低下してしまったのです。

投与開始からわずか2週間後に行った登り運動試験ではレセルピンを与えたハエは高い位置までほとんど登れなくなっていました。

(※数値で言えば、ハエの登坂指数(壁をどれだけ登れるかを示す指標)は対照群では平均3.78でしたが、レセルピン投与群では1.5前後と半分以下に激減していました。)

加えて、高温ストレスへの耐性も著しく低下しました。

通常、ショウジョウバエは摂氏31℃という過酷な環境下でも中央値で約7日ほど生き延びることができます。

しかしレセルピンを摂取したハエは暑さに弱くなり、生存期間の中央値は1000µM投与群で5日、1500µM群ではわずか4.5日程度と、対照群よりおよそ3割短くなってしまいました。

要するに、レセルピンはハエの基礎能力を弱体化させてしまっていたのです。

では、体の中では何が起きているのでしょうか。

研究チームは、レセルピンを与えた老齢のハエと、そうでないハエの全遺伝子の働き方を比べました。

その結果、エネルギー代謝や免疫に関わる遺伝子の活動レベルが低下していたことが判明しました。

つまりエネルギー消費や免疫の防御力を下げることである種の節約を行い、その結果として寿命を延ばしていた可能性があるのです。

この結果は「長生き=元気」という公式が成り立たない場合があることを示しています。

レセルピンは線虫とハエという進化的にも離れた種の両方に長寿効果をもたらしましたが、ハエでは弱体化という好ましくない効果もついてきてしまったのです。

これは、同じ薬でも「得るもの」と「失うもの」のバランスが種によって変わることを示す例にもなります。

シミュレーションゲームの武将ユニットでたとえるなら、レセルピンを与えると「寿命」というステータスは上がるものの、攻撃力も防御力も低下するという残念な結果になってしまうでしょう。

これは、今後の“若返り薬”の議論にとって非常に重要なメッセージです。

もしかしたら未来の薬局に並ぶ長寿薬には「上がる部分」と「下がる部分」の両方の並記が義務付けられているかもしれません。

元論文

Reserpine prolongs lifespan but compromises locomotion and heat-stress resilience in Drosophila melanogaster
https://doi.org/10.1038/s41514-026-00329-1

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

ナゾロジー 編集部

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