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家でも学校でも“物の位置のずれ”を整えないと落ち着かない…自閉症の11歳息子が教えてくれた「片付けの多様性」

  • 2025.12.27
棚の上を整えるのが好きな息子(べっこうあめアマミさん作)
棚の上を整えるのが好きな息子(べっこうあめアマミさん作)

ライターとして活動するべっこうあめアマミさんは、重度知的障害を伴う自閉症の11歳の息子と、きょうだい児である娘を育てながら、発達障害や障害児育児に関する記事を執筆しています。

年末に部屋の片付けに取り組む人は多いとは思いますが、物が散らかっていてなかなか作業が進まず、困った経験はありませんか。発達障害には、「落ち着きがない」「片付けられない」といったイメージをよく持たれがちですが、アマミさんの息子は几帳面で、物の位置が少しでもずれると落ち着かなくなるタイプだということです。

家でも学校でも、棚の上の物を整えたり、本棚に並ぶ本の背表紙をそろえたりと、自分なりの「秩序」を保とうとする息子の姿を見ているうちに、アマミさんは「片付け」の意味を考え直すようになったということです。

今回は、「整っていないと落ち着かない」という自閉症の息子との日々を通して見えてきた、片付けのもう一つの役割について、アマミさんが感じていることを紹介します。

棚の上の「ほんの数ミリのずれ」も気になる息子

私の息子には、いつも気になる「お決まりの場所」があります。それはリビングの棚の上です。

息子は学校から帰ると、そっとリビングの棚の上にある私のバッグを動かし、ほとんどズレていないように見えるのに、何度も何度も位置を確かめるように、棚の上のさまざまな物の位置の微調整を繰り返すのです。

それが毎日のように続く、息子の日課。わが家のいつもの光景でした。

特別支援学校の5年生の息子には、知的障害を伴う自閉症があります。そして、几帳面という言葉では足りないほどに、息子は秩序を大切にします。

息子は家では、暇さえあれば棚の上の物の位置を整えたり、本棚に並んだ絵本の背表紙をそろえたりしているのです。

私が何か物を取るなどして、ほんの数センチ棚の上の配置が変化しただけでも、息子は気付いて静かに元の位置へ戻すので、いつも棚の上の物の配置はきれいに決まっています。

息子が棚の上を整えるしぐさはとても丁寧で、まるで彼が思う「完璧な世界の形を取り戻している」かのように見えます。息子の中には、息子だけの「正しい世界の並び」があり、その秩序が保たれていることが安心につながっているのでしょう。

何が楽しいのかよく分からないですが、同じ年ごろの子どもが夢中になるようなゲームや動画には一切興味を示さない息子が、暇な時間にひたすらしている余暇活動が、この「物の位置を整えること」なのです。

自分の世界の秩序を守る息子と社会のルール

ある日、息子が通う特別支援学校で、個人面談がありました。

先生から家での様子を聞かれた私が、「いつも棚の上の物の位置を整えている」ことを話すと、先生は笑いながら言ったのです。

「学校でも、いつも棚や荷物を整えていますよ」

息子は、家だけではなく学校でも整えていたのでした。そして先生は、窓際の棚を指さして言いました。

「ここに置いてある、クラスのみんなの荷物のかごも、いつも直しに来ますよ」

なんと息子は、人様の荷物まで整えていたのでした。

息子は「しっくりくる」ことが好きなので、特に棚の端っこの角などは、隙間なくきっちり合わせていないと気になるようです。常に、角に少しでも隙間が空くと許せないので、誰かが動かしてズレると、サッと合わせに行くそうで、話を聞く限り、その習性はまったく家と同じでした。

息子は放課後、発達に不安がある小学生から高校生までの子どもを対象とした通所型の福祉サービス「放課後等デイサービス」に通っています。後に、放課後等デイサービスの面談でも、同じようなことを言われました。

「ごみ箱の位置にこだわりがあるようで、誰かが動かすとすぐに戻します。最近はごみ箱の横に仁王立ちしているので、『番人だね』とみんなで言っています」

先生から聞いたその様子が容易に想像できてしまい、思わず私は笑ってしまいました。誰かが動かした物を息子が黙って戻していく姿は、もはやどの場所においても日常の一部になっているようです。

ただ、その几帳面さが困りごとにつながることもあります。

家を出る前、息子は棚の上の物がわずかにズレていると気になってしまい、なかなか玄関へ向かえなくなってしまうことがあるのです。学校でも、授業の始まりや教室の移動などの切り替えがうまくできず、時間がかかってしまうことがあると聞きました。

息子にとって、整っていることは「安心」であり、彼にとっての「安全」でもあるのかもしれません。だからこそ、物がズレていたり位置が変わっていたりすると、心のバランスが崩れてしまうのだと思います。

しかし、私たちが生きる社会は、息子を中心に回っているわけではありません。共に生きる他の人たちも都合があって物を動かしますし、息子のこだわりに合わせて待てることばかりではありません。

そう考えると、息子にはもっと、整っていない状況でも「とりあえず進める」ことが求められるなと思いますし、息子の「秩序を守る行動」は、ときに「こだわり」として問題行動としても扱われかねないなと思います。

息子をいつも見ている私なら、息子の行動が単なる「こだわり」ではなく、「安心をつくるための行動」なのだと分かりますが、多くの人にとっては不可解で非効率な行動でしかないでしょう。

物の位置が自分の中でしっくりこないと落ち着かない。

その行動は、彼なりの世界の秩序の守り方なのだと思いますが、社会の中で暮らすための他の人のルールやスケジュールと、うまい具合に両立できないだろうかと、模索中です。

片付けのもう一つの意味

棚の上が気になりすぎて、次の行動に移れないことも…
棚の上が気になりすぎて、次の行動に移れないことも…

ある日、私は息子が棚の上を整えているときに、わざとバッグをほんの少し動かしてみました。息子はすぐに気付き、静かにそのバッグを元の位置に戻しました。

予想通りの一連の動きは、私にも不思議な安心感をもたらしてくれます。「整っていないと落ち着かない」という息子の頭の中には、きっと彼なりの世界の秩序があります。その秩序は、きっと、彼の心を安定させるための大切な仕組みなのでしょう。

以前の私は、整頓や片付けを「生活しやすくするため」や「きれいに見せるため」にやるものだと考えていました。

しかし、息子を見ているうちに、片付けには「心を落ち着かせる」というもう一つの意味があるのではないかと思うようになりました。

息子の世界は、静かで繊細で正確です。その世界の中で、彼は自分なりの秩序を通じて安心をつくり、日々を過ごしています。

「片付けとは、心を整えること」

言葉を持たない息子ですが、私はまるでその行動一つ一つが、彼の考えや気持ちを教えてくれているようだと思いました。

息子の几帳面さは、ときに不便を生むこともあります。しかし、そこに込められた意味を思うと、私は「整える」行為そのものを、以前よりもずっと優しく見つめられるようになったのです。

息子の几帳面さを見ていると、秩序とは「完璧さ」ではなく、「安心の形」なのだと思います。

これからも、息子の手で整えられていく小さな世界を、そっと見守っていきたいと思います。

ライター、イラストレーター べっこうあめアマミ

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