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地球誕生の鍵は「超新星の放つ宇宙線」だった

  • 2025.12.26
Credit:Generated by OpenAI’s DALL·E,ナゾロジー編集部

私たちが暮らす地球は、どのような条件がそろって誕生したのでしょうか。

その答えの一端が、はるか昔に起きた「超新星爆発」から放たれた宇宙線にあった可能性が示されました。

京都大学・東京大学らの最新研究によって、地球型惑星の誕生に欠かせない放射性元素が、超新星の“副産物”として生み出されていたという、これまでにないシナリオが浮かび上がってきたのです。

研究の詳細は2025年12月10日付で科学雑誌『Science Advances』に掲載されています。

目次

  • 地球を形づくった「放射性元素」の正体
  • 「宇宙線浴」が太陽系を包み込んだ

地球を形づくった「放射性元素」の正体

地球のような岩石惑星が形成されるには、惑星の材料となる微惑星が内部から加熱され、水や揮発性物質を失う必要があったと考えられています。

その加熱源として重要な役割を果たしたのが、アルミニウム26に代表される「短寿命放射性核種」です。

これらの放射性核種は半減期が短く、現在の太陽系には残っていません。

しかし隕石の中には、かつて存在していた証拠がはっきりと刻まれています。

長年有力とされてきたのは、太陽系が形成されつつあった時期に、近くで起きた超新星爆発がこれらの放射性元素を直接運び込んだという「注入モデル」でした。

ところがこの説には大きな問題がありました。

十分な量の放射性核種を供給するには、超新星があまりに近くで爆発する必要があり、その距離では原始惑星系円盤そのものが破壊されてしまうからです。

さらに、隕石から見つかる複数の放射性核種の比率を、1つのシナリオで同時に説明できないという矛盾も抱えていました。

「宇宙線浴」が太陽系を包み込んだ

この行き詰まりを打破する新しい理論が、「宇宙線浴(Immersion)」メカニズムです。

この研究は、東京大学と京都大学などの研究者によって提案されました。

研究チームが注目したのは、超新星爆発が放射性元素そのものを放出するだけでなく、膨大なエネルギーをもつ宇宙線を生み出す点です。

超新星の衝撃波の内部には、高エネルギーの宇宙線が一時的に閉じ込められます。

もし太陽系の原始惑星系円盤がこの衝撃波に包み込まれたなら、円盤全体が「宇宙線の風呂」に浸かる状態になります。

「宇宙線浴(Immersion)」メカニズムの概念図/ credit: 京都大学(2025)

このとき、宇宙線が円盤内のガスや塵と核反応を起こし、アルミニウム26やベリリウム10などの短寿命放射性核種が、その場で合成されると考えられます。

計算モデルの結果、太陽系を破壊しない安全な距離、約1パーセク(約3.3光年)で起きた超新星であっても、隕石に記録された主要な短寿命放射性核種の量を一貫して再現できることが示されました。

さらに、太陽のような星が生まれる星団環境では、1パーセク以内で超新星に遭遇する確率が10〜50%に達することも分かりました。

これは、太陽系が経験した「宇宙線浴」が特別な幸運ではなく、宇宙では決して珍しくない出来事だった可能性を示しています。

この研究が示すのは、地球の誕生が一度きりの奇跡ではなく、星団の中では比較的ありふれた物理過程の結果だったかもしれないという視点です。

超新星の放つ宇宙線が、静かに原始惑星系円盤を包み込み、惑星誕生の材料を内部から作り変えていたとすれば、地球型惑星は宇宙のあちこちで生まれている可能性があります。

夜空で輝く星の最期が、私たちの足元の大地を形づくった。

そう考えると、地球と宇宙のつながりは、これまで思われていた以上に深いのかもしれません。

参考文献

過去の超新星が放った宇宙線が地球誕生のカギだった―「宇宙線浴」メカニズムで太陽系の放射性元素の起源に迫る―
https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research-news/2025-12-11

元論文

Cosmic-ray bath in a past supernova gives birth to Earth-like planets
https://www.science.org/doi/10.1126/sciadv.adx7892

ライター

千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。

編集者

ナゾロジー 編集部

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