「マザコン？母さんを大事にしてるだけ」と言う夫→新婚旅行に義母を連れてきて、離婚を決断【短編小説】

本記事はフィクションです。物語の登場人物、団体、名称、および事件はすべて架空のものであり、実在のものとは一切関係ありません。

結婚前から、彼との会話に頻出する「母さん」という言葉に違和感はありました。

「母さんがそこは混んでるって」

「母さんはこっちの色が良いって」。

一度「もしかしてマザコン？」と聞いたことがありますが、彼は不機嫌そうにこう返しました。

「マザコン？母さんを大事にしてるだけだろ。親孝行もできない男が、妻を大事にできると思うのか？」

そのもっともらしい言葉に、私はそれ以上踏み込めずにいました。

しかし、その「親孝行」の異常さを思い知ったのは、人生最高のイベントになるはずの新婚旅行当日でした。

ハワイへ向かう空港のロビー。待ち合わせ場所にいたのは、夫だけではありません。バカンス全開の格好をした義母が、当然のように隣に立っていたのです。

「あら、遅かったじゃない」

悪びれもせず微笑む義母。呆然とする私に、夫は平然と言い放ちました。

「母さん、海外初めてなんだよ。親孝行するいい機会だろ？部屋もコネクティングルームにしたから安心しろよ」

ハネムーンは、「義母接待旅行」へと変貌していたのです。

ハワイに着いても、悪夢のような時間は続きました。

夫は常に義母と腕を組み、私はただのカメラマン扱い。食事も「母さんは脂っこいのが苦手だから」と、私が予約したレストランを勝手にキャンセルし、義母好みの和食店へ変更されました。

決定的だったのは、滞在三日目の夜です。

「母さんが一人で寝るのは寂しいって言うから、今日は俺、向こうの部屋で寝るね。君は一人で広々使えていいだろ？」

夫のその言葉で、私の中で何かがプツンと切れました。

「そう。じゃあ、一生お母さんと寝てれば？」

私はその場で荷物をまとめ、驚く夫を尻目に別のホテルを即予約。残りの日程は一人でエステとショッピングを楽しみ尽くしました。夫からの大量の着信はすべて無視です。

帰国後、私は記入済みの離婚届を突きつけました。

「親孝行な息子さん、お母さんと末長くお幸せに」

そう告げて去る私を、彼はただ見送るだけ。あの時の決断は、間違いなく人生最高の「ファインプレー」でした。

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