1. トップ
  2. 家電製品ほぼゼロ、ガス契約もしない【60歳女性ひとり暮らし】“お金がなくても幸せ”なライフスタイルとは?

家電製品ほぼゼロ、ガス契約もしない【60歳女性ひとり暮らし】“お金がなくても幸せ”なライフスタイルとは?

  • 2025.12.18

家電製品ほぼゼロ、ガス契約もしない【60歳女性ひとり暮らし】“お金がなくても幸せ”なライフスタイルとは?

家電を手放し、ガス契約もしない。1日の家事はたったの30分。稲垣えみ子さんが実践する「お金がなくても幸せになれるライフスタイル」とは、果たしてどんなものでしょう。

稲垣えみ子さん フリーランサー

いながき・えみこ●1965年愛知県生まれ。
元朝日新聞記者。2016年に退社し、都内で「夫なし・子なし・冷蔵庫なし・ガス契約なし」のフリーランス生活を送る。
著書に『家事か地獄か』『老後とピアノ』など多数。

猛暑の夏もエアコンなし。夜は意外に涼しかった

2025年の夏は記録的な猛暑で、稲垣さんは会う人みんなに心配された。「エアコンがなくて大丈夫ですか?」と。しかし本人は平然としている。

「私は行きつけの喫茶店で仕事をするので、日中は他人さまのエアコンで涼んでいます。家にいるのは夜から朝までだから、この時間帯が過ごせれば問題ないんです。ちなみにこの夏は、夜になると風が吹いて意外に過ごしやすかったんですよ。そんなこと、多分私しか知らないでしょうけど(笑)」

稲垣さんは築50年のワンルームに家電製品ほぼゼロで暮らしている。ガス契約はせず、カセットコンロで作る食事は一汁一菜。究極の節約生活!?と思われがちだが、違う。毎日喫茶店でコーヒーを飲み、夜は銭湯でゆったり。ケチくさくない。

「お金を貯めようなんて思っていないのに、お金がかからないのでけっこう余ってます(笑)。お金って、執着しない人には近づいてくるみたいなんです」

そんな稲垣さんだが、もともとお金への執着がなかったわけではない。何しろ50歳まで朝日新聞社の記者だったのだ。高額&安定の給与、高級マンションでの一人暮らし、ブランド服も高級レストランも堪能した。しかし新聞記者はあまりにハードワーク。やりがいはあるが心身の消耗も激しかった。

「40歳のときに『定年までの残り20年、このストレスにさらされ続けるのは無理だ』と気づき、50歳で会社を辞めることが目標になりました」

なくちゃムリ! なものを手放した稲垣さんの暮らし

冷蔵庫がない!

料理が趣味の稲垣さんだが、手の込んだ料理はしなくなった。野菜は干すかぬか漬けにして数日で食べきる。ご飯はおひつで保存するが、夏場は悪くなるので主食は麺類が中心。

エアコンがない!

熱帯夜でも眠るための作戦は、夕方に銭湯で盛大に汗をかくこと、特に暑い夜は床で寝ることの2つ。「風の気持ちよさに敏感になりました」。猛暑日は寝具など大物を手洗いするのが楽しみ。

居心地がよくて常連になった喫茶店の、この場所が「仕事場」。「日中は他人さまのエアコンを借用しています」

洗濯機がない!

前日着た洋服を毎朝タライで手洗いして干すのが日課。たたんでしまい込むスペースがないので、下着の予備も最低限に。調理で使ったふきんや銭湯用のタオルはその場で洗って即干す。

お金で幸せを買う習慣をやめれば貯蓄は不要!?

それから退社までの10年は、お金のことばかり考えていたと稲垣さんは振り返る。

「大学生までは親からお金をもらい、卒業後は会社からお金をもらう。自動的にお金が入ることが当たり前だったので、無収入になることが不安すぎて、貯められるだけ貯めてから辞めようと思ったんです。でも、いくら貯めたって会社員時代と同じ生活はできません。『昔はコレもアレも買えたのに』って不満だらけになることは目に見えています。だったら大事なことは貯金ではなく、お金がなくても幸せになれるライフスタイルをつくることだと気づきました」

ヒントは38歳で赴任した香川県での体験にあった。

「香川で山歩きを始めたのが大きかったですね。お金がほとんどかからないのに楽しいんです。あとは野菜の直売所。新鮮な野菜が並んでいて、それがものすごく安いの。でも季節のものしかないので、寒くなって大根や白菜が並び始めると『大根キター!』ってテンションが上がる(笑)。そうやって、少しずつお金を使って得る以外の喜びを積み重ねていったんです」

そんな稲垣さんに、もう一つ大きな転機が訪れた。2011年の東日本大震災による福島県の原発事故である。

「自分にも何かできることはないかと、節電を始めました。目標は電気代の半減。でも、こまめにコンセントを抜くくらいじゃ大した効果はないんです。それで家電を手放すことに手を染め始めたんです……って、悪事じゃないんですけど(笑)」

【後編に続く】

撮影/柴田和宣(主婦の友社)
取材・文/神 素子

※この記事は「ゆうゆう」2026年1月号(主婦の友社)の記事を、WEB掲載のために再編集したものです。

元記事で読む
の記事をもっとみる