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幼稚園で不適切保育のニュースは聞かない⁉なぜ不適切保育は起こるのか、幼稚園と保育園のちがい

  • 2025.12.16

こんにちは、保育士のはるです。先日、福岡県田川市の保育施設で起こった「不適切保育」が報道されました。不適切保育は2023年5月の「不適切保育防止ガイドライン」が公表され、2025年10月1日に義務化され、現在施行されています。不適切保育がどんな理由があっても許されない行動であることは、現場の保育士たちも重々理解しています。しかし、保育現場で働いているからこそ感じる根本的な構造の歪みがあります。よくSNSでも目にするのが「なぜ報道されるのは保育施設が多いのか」「幼稚園でも起こりうるはずなのに」という疑問。この記事では、保育士としての現場視点から、不適切保育が生まれてしまう背景や、保育園で問題が起きやすい理由をお話したいと思います。

預かり時間の長さが生む人の余裕のなさ

保育園の多くは朝7時頃から夜8時頃まで開園しており、最低でも11時間の開所が義務付けられています。 一方で、幼稚園はおおよそ9時〜14時(延長あり)が基本。保育士の勤務時間は交代制ですが、それでも長時間にわたる保育に対応するため、肉体的・精神的な負荷が大きくなりがちです。

勤務中は緊張感が続く

保育園は、家庭の就労を支える社会インフラとしての役割を担っており、開園時間は朝7時頃から夜8時頃までの長時間にわたるのが一般的です。もちろん保育士はシフト制で勤務しているものの、自分の業務を自分のタイミングで遂行できるかというとそういうわけでもありません。子どもたちを相手にする保育の現場では、常に子どもたちが最優先。子どもたちの安全を守るために、常に集中を保ち続けなければならないからです。・子どもの安全を守るために目を離せない・泣いたり、喧嘩したり、トイレに行ったりと次々に対応が求められる・発達や家庭環境に応じた個別対応も必要・職員同士の連携や判断も即座に求められるつまり「8時間の勤務=8時間ずっと全神経を使い続ける」というのが保育士の働き方です。勤務時間そのものよりも、「集中し続ける」ことの疲労感が大きく、心身の余裕を奪っていきます。また、最近ではクラスを離れて休憩がとれるという園も増えてきましたが、中にはまだ休憩時間が子どものいる空間だったり、職員室で園長先生に見張られながら……と気が休まらない園もあります。

遊ぶだけじゃない事務仕事と「紙文化」

保育士の仕事というと「子どもと一緒に遊ぶ」イメージを持たれがちですが、実際には保育以外の業務が多いのも現実です。保育計画の作成:年齢・個々の発達に応じた毎月・毎週・毎日の指導案を練る記録の記入:連絡帳、午睡チェック表、個人記録、発達記録などの書類仕事行事準備:運動会や生活発表会の練習・衣装作成・保護者対応など会議や研修参加:業務時間内に終わらないケースや、業務外で指示される場合も保護者とのやりとり:送迎時の対応・相談・クレーム処理など心理的負荷も大きいこれらの業務は「子どもが寝ている時間」や「保育終了後」に行うことも多く、勤務外の時間になってしまうことも。また、自治体によっては「個人月案と個人記録一緒で良くない?」というような重複する書類もあったりします。また、ICT化が進む一方で役所に提出する書類は「紙」と決まっているものもあります。せっかく週案や月案をパソコンで記入したのに、監査前にあわててプリントアウトする。5年前の卒園児の記録や連絡帳の控えが倉庫の奥に眠っているのを年度初めにひたすらシュレッダーにかける……といった、この仕事もなの!?というような業務があったりします。書類の業務の多さは幼稚園と保育園で大きな違いはないかもしれませんが、幼稚園の場合は子どもが帰った後に書類作業や会議を行うという「事務作業の時間」が設けやすいです。常に子どもがいる保育園では、こういった作業量に対しての時間をとることができないという現状が、不適切保育を引き起こす一因になっていると感じています。

まだ話せない乳児の対応の大変さ

0~2歳児の保育は「寝る・食べる・排泄」の生活援助がメイン。食事の介助(個別の対応)排泄のお世話(オムツ替え含む)睡眠チェック(呼吸確認)発語前の感情読み取りケガ・誤飲など安全配慮など、常に全身全霊で命と向き合っている感覚があります。この年齢層は自己表現も未熟なため、泣いたり、かんしゃくを起こしたりといった場面も多く、保育士側の忍耐と観察力が問われます。特に複数名を同時に担当する場合、「もう無理…」と感じる瞬間があることも。こういった入所児童の年齢も幼稚園と保育園で異なる点の一つです。

保護者対応の「内容」と「密度」の違い

保育園で働いていると、子どもだけではなく保護者との関わりの深さにも大きなエネルギーを費やしていることを実感します。「おはようございます」「今日も元気ですね」といった日常の声かけから、ちょっとした相談ごと、育児の悩み、時にはクレーム対応まで——。もちろん、保護者と協力して子どもの育ちを支えるのは保育園の大きな役割のひとつですし、信頼関係が築けたときの喜びは計り知れません。ですがその一方で、「1日で何人と話したっけ?」と数えきれなくなるほどの対話の積み重ねが、見えない疲労感やストレスを生むことがあるのも事実です。さらに近年では、保護者のニーズが多様化し、支援が必要なご家庭も増えています。それに伴い、保育士に求められる「対応の質」も格段に高くなってきていると現場では強く感じています。

幼稚園と保育園では「会える頻度」が違う

幼稚園と保育園の大きな違いのひとつに、保護者との接触頻度があります。 幼稚園ではバス通園を利用されている方も多く、連絡帳や電話、行事などを通じた節目のやり取りが中心になる場合もあります。一方、保育園ではほとんどの家庭が毎日送迎をされるため、朝夕に直接お会いしてお話しする機会が多くなります。この日々のコミュニケーションは、お子さまの様子を共有できる大切な時間である一方で、保育士側の対応業務としても大きな比重を占めています。・朝の登園でその日の体調や様子を聞く・夕方の降園で一日の出来事やトラブルの報告を行う・家庭での様子や育児の悩み相談にも応じるもちろん保護者とのやり取りから子どもの様子を知ることができたり、信頼関係を築きやすいというメリットもあります。ただ、こうした密度の高いやりとりは関係性を築ける一方で、精神的な消耗が激しいことも。丁寧にお伝えしたつもりでも、父母間で情報が共有されず誤解が生じてしまったり、保育の方針についてご理解いただくまでに時間がかかったりすることもあります。保護者の皆さまも忙しい中で送迎をされているため、限られた時間での意思疎通には双方に難しさがあり、こうしたコミュニケーションの調整に多くのエネルギーを使うこともあるのが実情です。

求められる「対応の質」は年々上がっている

現代の保育現場では、育児の専門家としてのアドバイスや支援を求められる場面が増えています。「発達が気になるのですが、どうしたらいいですか?」「家で○○という行動が増えて困っています」「どの習い事が合うと思いますか?」「偏食がすごくて…アドバイスください」こうした相談は、保護者の皆さまが安心して子育てできるように寄り添う大切な機会であり、私たちにとってもやりがいを感じる瞬間です。一方で、お一人おひとりのご相談に専門的かつ丁寧にお応えするには、十分な時間と体制が必要となります。さらに最近では、保護者の皆さまが育児情報に積極的にアクセスされ、お子さまにとってより良い保育を求めて様々なご質問やご要望をいただく機会が増えました。これは保護者の方々の子育てへの真摯な姿勢の表れであり、私たち保育士にとっても専門性を高める機会となる一方で、日々の保育だけでなく「言葉選び」「説明力」「メンタルケア能力」も同時に問われる場面が多く、対応に疲弊してしまう職員も少なくありません。

配慮が必要な家庭が増えているという現実

また、保育園は自治体が入所を決定するため、様々な背景を持つご家庭のお子さまをお預かりするという特徴があります。・ひとり親家庭で、保育園を頼りにされているご家庭 ・外国にルーツがあり、言語や文化の違いに配慮が必要なご家庭 ・発達特性や障害のあるごきょうだいを育てながら、懸命に子育てをされているご家庭 ・経済的な事情で支援が必要なご家庭 ・心身の健康面で不安を抱えながら子育てをされているご家庭これらは決して特別なことではなく、現代社会において多くの家庭が直面しうる状況です。保育園は、こうした多様なご家庭を社会全体で支える役割も担っています。こうしたケースでは、子どもの発達支援だけでなく、家庭へのサポートや福祉機関との連携も求められるようになります。たとえば、虐待リスクを察知した場合は、躊躇なく地域の相談機関と連携する必要がありますが、その見極めや初期対応に保育士は強いストレスを感じます。それでも子どもの安全と健やかな育ちのために、「心をすり減らしながらでも寄り添う」ことが求められているのが今の保育現場です。しかし、こうした負荷に見合う体制や人員が整っていない施設も多く、常に張りつめた緊張感の中で働いている保育士がいるという実態は、もっと広く知られてよいのではないかと感じています。

「現場が大変だから」は、子どもを傷つけていい理由にはならない

ここまで、不適切保育が起こる背景として、長時間保育や保護者対応の密度、保育士不足など、構造的な課題をお伝えしてきました。しかし、どんなに大変な状況であっても・大声で怒鳴る・子どもを無視する・押さえつけたり威圧するような関わりをするこうした行動が正当化されることは、決してありません。保育士は、子どもの健やかな育ちを支える専門職です。だからこそ、社会的に大きな責任を担っているということを、忘れてはならないのです。不適切保育は、単に「しんどかったから」と片づけられる問題ではなく、子どもの心に深い傷を残す重大な行為。

子どもの声をどこまで信じていい?

保育園から帰ってきて、子どもがなんだかいつもと様子が違う。・「保育園いきたくない」って毎日言う・「先生が怖い」ということが増えた・「給食を全然食べていない」みたい……これらはすべて、子どもの小さなSOSや違和感のサインかもしれません。ただ、保育園で何かして怒られたのかもしれないし、たまたま嫌いな給食だったのかもしれない。保護者の中でも「こんな些細な事で聞いてモンペと思われないかな?」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。まず大切なのは、事実かどうかをジャッジしようとしすぎないことです。子どもは、自分の気持ちをうまく言葉にできなかったり、その時の感情の大きさで伝え方が変わったりすることがあります。これは成長過程において自然なことで、決して嘘をついているわけではなく、子どもなりの精一杯の表現方法なのです。お忙しい中で送迎をされ、お疲れのときには、つい「そんなこと言わないの!」と言いたくなることもあるかもしれません。 でも、まずは「そう感じたんだね」「今日はどんなことがあったの?」と、お子さんの気持ちに寄り添う姿勢を持っていただけると、お子さんも安心して話せるようになります。そして、「こんなことで聞いていいのかな?」と思わず、気になった時点で軽く相談してみるのがおすすめ。「最近、家で行きたくないとよく言うのですが、園ではどうですか?」「お友だちとの関わりに不安があるような話をしていて……様子はどうでしょう?」というふうに、確認というスタンスで伝えると、先生も受け取りやすいです。ポイントは、責めるトーンにならないこと。「家ではこう感じている」ことを伝えたうえで、園での様子を聞く、という順番を意識すると、先生との信頼関係も保ちやすくなります。

子どもを守るために、現場と社会ができること

不適切保育は、どんな理由があっても許されない。これはすべての保育関係者が共通して持つべき前提です。そのうえで、なぜ起こってしまうのかという構造的な背景に目を向けることも、社会全体の責任だと思います。長時間の保育体制支援が必要な保護者の増加保育士不足圧倒的な業務量これらを「仕方ない」で終わらせず、声を上げ、改善していくことが、子どもたちを守る未来につながるのではないでしょうか。現場で真摯に保育と向き合っている保育士の多くは、日々苦悩しながらも、子どもにまっすぐなまなざしを向けています。だからこそ、「あってはならないことが起きないようにするために、社会が支える」という発想を、今こそ私たち一人ひとりが持たなければなりません。未来を担う子どもたちの育ちが、健やかで安心できるものとなるように。そのために、保育の現場と社会が、今できる一歩を共に進めていくことが大切ではないかと感じています。

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Blog:保育士ママのリアルな毎日

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