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糖尿病になってやめたものは「たった2つだけ」鳥羽シェフが病気を公表した理由、現在のリアルな生活も告白【鳥羽周作さんのターニングポイント#2】

  • 2025.12.12

糖尿病になってやめたものは「たった2つだけ」鳥羽シェフが病気を公表した理由、現在のリアルな生活も告白【鳥羽周作さんのターニングポイント#2】

前回は、糖尿病の発覚から現在の治療までについて鳥羽周作さんにうかがいました。第2回となる今回は、「なぜ病気を公表するのか」を深堀りしていきます。生活習慣病としての偏見、料理人としての葛藤、そしてそれをビジネスの可能性にまで変えてしまう思考回路——そこには、周囲を巻き込みながら前に進むための、鳥羽さんならではの覚悟がありました。

糖尿病は「だらしなさ」じゃない。だから言う

――ご病気のことを公表するのは、勇気がいる決断だったのでは?

鳥羽周作さん(以下、鳥羽シェフ):糖尿病って、生活習慣病の一種じゃないですか。世の中的には「暴飲暴食してる」「だらしない」「運動してない」っていうイメージで見られがちなんですよね。
だから、糖尿病になっても周りには言わない人が、実はかなり多いらしいんです。でも、僕はそういう感覚がまったくなくて。
むしろ「言っちゃったほうが楽」だと思ったんです。公表したほうが、周りも事情をわかってくれるし、応援もしてもらえる。性格的にも、隠すのはなんか合わなかった。
実際、言ったことでスタッフみんなが気を遣ってくれるようになりました。たとえば、まかないの量を少なくしてくれたり、鶏もも肉より鶏むね肉の割合を増やしてくれたり。運動に関しても一緒にスタッフと筋トレしたり、そんな感じで自然にサポートの輪に入ってくれて。
そういう意味では、公表したことで得られたものがすごく大きかったです。

「病気をビジネスに変える」という発想

――公表をビジネスのチャンスと捉えた、ともおっしゃっていましたね。

鳥羽シェフ:そうなんです。僕はちょっと特殊なのかもしれないけど、「これ、ビジネスになるな」と思ってしまった(笑)。
“ご飯の人”でもあって、しかも糖尿病。世の中には「糖尿病=食事が大変」というイメージがある。
だったら自分が病気をしっかりコントロールして、数値も改善させて、その間に食べてきたものやノウハウをまとめて発信できたら、ものすごく需要があるんじゃないか、と。
たとえば最近だと、小麦粉の入ったルウを使わない“野菜だけのカレー”を作ったりしているんです。カレーのスパイスは使うけれど、市販のルウを使わずに野菜のとろみだけで仕上げる。
あるいは、鶏むね肉をどうやったらおいしく食べられるか、糖尿病の人でも安心して楽しめる胸肉レシピを考えたり。
そういう「おいしい」と「血糖値にやさしい」を両立させた料理を、僕が提案できるのは意味があるなと。現役で、そこそこ知名度もあるシェフで、ちゃんとおいしい料理が作れて、しかも糖尿病の人にリーチできる人なんて、ライバルがいない。完全にブルーオーシャンなんですよ。

「頭で直す糖尿病」は、きっとバズる

――音楽家の方がお耳の病気を公表するように、鳥羽さんも“職業と直結する病”をあえて伝えたのかなと感じました。

鳥羽シェフ:そうですね。おそらく糖尿病のシェフや料理家の人は他にもいると思うんです。でも、公表してない人のほうが多いかもしれません。
僕は幸い、SNSでの発信も良くするし 、言語化も比較的得意なほう。大坂先生もSNSで情報発信している先生だったので、そこも相性が良かった。
「これは本にもなるし、講演会だってできるな」と、最初から思っていました。そしてこのコンセプトを「頭で直す糖尿病」ってネーミングも勝手につけて(笑)。すごくキャッチーだと思うんですよ。
先生の専門知識とエビデンス、自分の考え方、それに後半は実際の食事レシピ。さらに栄養士の先生と組んで、より実践的な内容にしていく。
そんなことができたら、かなりバズる未来が見えますよね。

「糖尿病になって良かった」と本気で思う

――公表したあとの反響はいかがでしたか?

鳥羽シェフ:正直なところ、賛否いろいろありました。でも、糖尿病になって良かったって、本当に思ってるんですよ。
データでもあるらしいんですけど、糖尿病になると、自分の体の状態をマメにチェックするようになるじゃないですか。血糖値、体重、食事内容、運動量…。
つまり、自分のコンディションを常に気にするようになるから、逆に他の病気に気づきやすくなって、結果的に長生きする人もいるらしいんです。
もし糖尿病になっていなかったら、僕はきっと何も気にしないで、今もアイスばっかり食べて、暴飲暴食して、太ったまま、突っ走っていたと思う。
病気になったからこそ、身体のことをちゃんと知るようになった。そう考えると、僕にとっては“学び直しのチャンス”でしたね。

アイスもジュースもゼロ。でも「得るもの」のほうが大きい

――診断されたとき、落ち込んだりはしませんでしたか?

鳥羽シェフ:それが、まったく落ち込まなかったんです。
ジュースやアイスをやめるのも、ハードルが高そうに思われるかもしれませんが、全然大丈夫でした。
砂糖を摂っているときって、実は体がめちゃくちゃ重たいんですよ。やめてみて初めて、「あのだるさは砂糖だったんだ」とわかる。やめたら体調がすごく良くなって、禁断症状みたいなものも感じませんでした。周りでアイスを食べているのを見ても、とくに何とも思わないですね。
仕事仲間と旅行に行って、みんなが普通にアイスを食べていても、僕だけ食べない。でも平気。それよりも「やめることで得られるもの」のほうが大きいと理解しているからだと思います。
ジュースも本当に飲まなくなって、今はお茶か水だけです。

やめたのは「アイスとジュース」。筋トレで7kg減

――ご病気をきっかけに、やめたことは?

鳥羽シェフ:アイスとジュースの2つですね。
もともとお酒は飲まないし、タバコも吸わないので、そこは変わっていません。最初は、体重はそこまで落ちなかったんです。でも筋トレを始めたら一気に変わりました。今、結果的に7キロくらい減って、「またモテちゃうかもな」って思ってます(笑)。

「水も飲まない夜」——24時間のリアルな生活リズム

――現在の24時間の過ごし方を教えてください。

鳥羽シェフ:だいたい朝7時半〜8時に起きて、9時に薬を飲んでインスリンを打ちます。
10時前くらいに家を出て出勤して、ランチ営業。昼食時にも薬を飲みます。
13時頃にまかないを軽く食べて、17時から夜営業。ここでもまた薬を飲んで、夜の営業が終わるのはだいたい23時半くらい。
そこからご飯を食べに行くこともたまにありますが、基本的には家に帰ります。
以前は帰宅後にがっつり食べたり飲んだりしていましたが、今は家に着いたら水も飲まないし、何も食べない日のほうが多いです。そのまま朝まで飲み食いなしです。でも、まったく苦じゃないんですよね。“そういう気(飲食する気)にならない”という感覚です。

――かなりストイックに聞こえます。

鳥羽シェフ:そうかもしれないですね。でも、それで早く寝ればいいのに、そこからまた仕事して、筋トレして、やらなきゃいけないことを片づけて……。結局寝るのは2時半〜3時くらいです。
ただ、今は布団に入ってから朝まで、一度も起きません。
糖尿病と診断される直前は、夜中にトイレで3回くらい起きていたんですよ。それが今は5〜6時間は熟睡できている。だから、体調はむしろすごく良いです。

1日の食事量は「以前の3分の1」

――ある1日の“食べたもの”の例を教えてください。

鳥羽シェフ:朝はザバスのプロテイン。昼は営業中にちょろっとパスタをつまんで、15時くらいにまかない。みんなが食べている量の半分くらいです。たとえば、今日のまかないいは“まぜそば”です。
夜は営業中の料理を少しつまんで終わり。
そんなに食べていないですよ。休みの日や会食がある日はどうしても食べる量が増えてしまうので、その日は歩く量を増やしたり、翌日の量を控えたりしてバランスを取っています。

――ご病気になる前は、その倍くらいを召し上がっていた?

鳥羽シェフ:いや、3倍くらいですね(笑)。
昼もしっかり食べて、営業中は味見もたくさんして、夜の営業が終わったあとに叙々苑へ行く。叙々苑には週2〜3回行っていましたし、その合間にラーメンにも行っていましたから。

意識して増やした「野菜」と、ゆるい筋トレ習慣

――逆に、今はあえて摂るようにしているものは?

鳥羽シェフ:野菜と、切り干し大根のような、いかにも健康に良さそうな食物繊維ですね。そういうものをあえて多めに摂るようにしています。

――筋トレはどんなメニューですか?

鳥羽シェフ:めちゃくちゃ普通ですよ。腕立てと腹筋とスクワットくらい。難しいことは何もしていません。だいたいNetflixを観ながら、空いている時間にサクッとやっている程度です。

週1の定休日も「家で仕事と家事」

――お休みの日はどう過ごしているんですか?

鳥羽シェフ:お店の定休日は週1回あります。でも僕は店に立たない日は、基本的に家にいます。
1週間分たまっている家のことや、店に立つ以外の仕事がたくさんあるので、そういうのをまとめて片づける感じですね。

――ご友人とどこかに出かけたり、サッカーを観に行ったりは?

鳥羽シェフ:いや〜、ないですね(笑)。家で人と会うことはあるけど、基本は家のことをやっています。
1週間トータルで見ると、仕事で人と会っている時間がとんでもなく多くて、とにかく「1人の時間が少なすぎる」と感じているんです。
車を運転するのも、ある意味では1人になれる時間を作りたいから、というのもありますね。

今年の「完全オフ」は3日。それでも息苦しくない

――YouTubeやnoteも再開されて、お店以外の仕事もかなり多い印象です。今年に入って“何もしない完全オフの日”はどれくらいありましたか?

鳥羽シェフ:うーん、3日くらいですかね。でも、すべて「呼吸をするように」やっているので、あまり“仕事をしている”という感覚がないんです。
「さあメニュー考えよう!」みたいなスイッチを入れる瞬間もほとんどない。自然に考えて、自然に動いているので、変なストレスはあまりないですね。

病気も「楽しんで向き合う」

――糖尿病の対応も含めて、「やらなきゃ…」という義務感はありませんか?

鳥羽シェフ:ないですね。病気に対しても、かなり楽しんでやっています。今は気持ち的にいろんなことに余裕があるんだと思います。
仕事の面でも、お客さんの入りが悪くても「ちゃんとやっていれば大丈夫」と思えるようになった。焦りがあまりないんです。若いスタッフにもほとんど怒らないです。溜め込んでいるわけじゃなく、本当に怒る必要を感じないんですよね。
仕事でイライラして、皿をバーンと投げたり、「ふざけんなよ!」って怒鳴ったり、そういうのは本当にないです。(取材現場でも、若手スタッフが「本当に怒らないですよ」と証言してくれました・笑)

怒るのではなく「淡々と言う」。プロとしてのスタンス

――とはいえ、言わなければいけない場面もありますよね?

鳥羽シェフ:もちろん、伝えるべきことは言います。でも怒鳴ったりはしません。
たとえば昨日も、「準備の時間」について話しました。
営業開始の15分前に、もう営業に入れる状態にしておきたい。でも15分前の段階でまだ準備が終わってないのは、僕は好きじゃない、と。だからスタッフには、「15分前に終わらせようと言われたら、30分前には終わらせてほしい」と伝えました。なぜなら、その15分のバッファが、何かトラブルがあったときの対応時間になるから。それがプロとして自然なことだと思うからです。「15分前ぴったりに終わればいい」と考えるのは、プロとしてかっこよくないよ、と。
ミーティングのときに淡々とそういう話をして、そこで終わり。ぐちぐち言い続けたり、ディスるようなことは絶対にしません。威圧するのは無駄だと思っていますし。さらにきちんとやってくれるぶん、みんなにはきちんとした給料も払っています(笑)。

――ご病気のことを聞いてから、スタッフの方々の接し方は変わりましたか?

鳥羽シェフ:めちゃくちゃ協力してくれています。
朝出勤すると、スタッフが先回りしてプロテインを用意してくれていたり、まかないの量を少なめにしてくれたり。
いただきもののスイーツやジュースなんかも、「これは鳥羽さん禁止!」とスタッフに止められて、僕だけもらえない(笑)。でも、それくらい一緒に向き合ってくれているのがうれしいです。

【鳥羽シェフのターニングポイント②】
病気を公表したことで、賛否はいろいろありました。でも、糖尿病になって良かったって、本当に思ってるんですよ。病気になったからこそ、身体のことをちゃんと知るようになった。そう考えると、僕にとっては“学び直しのチャンス”でしたね。

撮影/三角茉由

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