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20年前、5人→4人で紡いだ“甘くて苦い一曲” リリース日に隠された仕掛けとは

  • 2026.2.7

冷たい北風が街を吹き抜け、誰もが厚手のコートの襟を立てて歩いていた2006年の1月。街のスピーカーから流れてきたのは、それまでの彼らのイメージを鮮やかに、そして優しく裏切るような、どこか切なくて温かい響きだった。

RIP SLYME『Hot chocolate』(作詞:RYO-Z、ILMARI、PES、SU・作曲:PES)――2006年1月25日発売

それは、日本のヒップホップシーンを華やかに彩ってきたグループが、ふと見せた「素顔」のような一曲。賑やかなパーティーの喧騒が去った後の、静かな夜の空気感を閉じ込めたような作品である。

静寂の中で見つけた、4人だけの新しい呼吸

2000年代前半、彼らは飛ぶ鳥を落とす勢いでヒットチャートを駆け抜けていた。しかし、この楽曲がリリースされた時期、グループは一つの大きな転換点を迎えていた。屋台骨であるDJ FUMIYAが、病気の療養のために活動を休止していたのである。

前作『黄昏サラウンド』から約1年3ヶ月という、長い沈黙を経て届けられたのが、このシングルだった。グループとしてのピンチとも言える状況下で、残された4人のMCたちは模索を続けていた。作曲を担当したのはPES。それまでの煌びやかなサンプリングや重厚なビートとは一線を画す、アコースティックな手触りとメロウな浮遊感が漂うトラックが用意された。

「5人」が当たり前だった場所で、あえて「4人」で何ができるのか。 その切実な問いへの答えが、この『Hot chocolate』という楽曲には刻まれている。派手な演出を削ぎ落とし、それぞれの声の質感や温度感を丁寧に重ね合わせることで、彼らは新しい表現の扉を開いたのだ。

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2009年、J-WAVEの公開番組収録に登場したRIP SLYME。左からRYO-Z、SU、DJ FUMIYA、ILMARI、PES(C)SANKEI

冬の夜空に溶けていく、魔法のようなアンサンブル

楽曲の核となるのは、タイトル通り「ホットチョコレート」を思わせる、甘さと苦さが絶妙に混ざり合った世界観だ。冬の凛とした空気の中、カップから立ち上る湯気を眺めているような、穏やかで親密な時間が流れていく。

4人のラップは、競い合うのではなく、互いの体温を確かめ合うように交互に現れる。時に軽やかに、時に少しだけセンチメンタルに。その絶妙なコンビネーションは、彼らが共に歩んできた時間の長さを物語っていた。

人間の機微に触れるような響きが、聴く者の心にじんわりと染み渡っていく。DJ FUMIYAの不在という寂しさを抱えながらも、それを前向きな「変化」として受け入れようとする彼らの意志が、旋律の端々に宿っている。

激しさと静けさが交錯した、伝説的なリリース日

このシングルの特筆すべき点は、リリース日に隠されたもう一つの仕掛けにある。同日、ギタリストの布袋寅泰とコラボレーションした『BATTLE FUNKASTIC』が、“HOTEI vs RIP SLYME”名義で発売されたのである。

『Hot chocolate』のカップリングには、その別バージョンである『FUNKASTIC BATTLE』が収録されており、ファンにとっては非常に密度の濃い一日となった。鋭利なギターサウンドが炸裂する攻撃的なコラボ曲と、どこまでも穏やかで内省的な『Hot chocolate』。

この両極端な二曲を同時に世に放ったことは、彼らの音楽的体力の深さを証明するものとなった。現状に甘んじることなく、常に新しい刺激を求め、自分たちの限界を更新し続ける。その姿勢こそが、彼らを時代の寵児たらしめた理由に他ならない。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。