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22年前、四国の風が運んだ“泥臭くも愛おしい”旋律 まっすぐな叫びが僕らの胸を貫いたワケ

  • 2026.2.2

2004年。世の中は急速にデジタル化が進み、音楽の聴き方も少しずつ形を変え始めていた。きらびやかなサウンドが街を彩る一方で、それとは対照的な、驚くほど生々しく、剥き出しの感情をぶつけてくるような歌声が四国の愛媛から全国へと響き渡った。

泥臭くて、不器用。けれど、そこにはどんな洗練された言葉よりも重い「真実」が宿っていた。

ジャパハリネット『哀愁交差点』(作詞・作曲:鹿島公行)――2004年1月21日発売

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Google Geminiにて作成(イメージ)

彼らの音楽が鳴り響いた瞬間、僕らの日常は少しだけ熱を帯びた。それは、どこにでもいる若者たちが、自分たちの立っている場所から精一杯に叫んだ魂の記録だったのかもしれない。

青春の焦燥を包み込む「四国の雄」の息づかい

ジャパハリネットというバンドを語るとき、避けて通れないのが「愛媛・松山」という土着の響きだ。1999年に結成され、地道なライブ活動を通じて地元から圧倒的な支持を集めてきた彼ら。

インディーズ時代からすでにその名は全国に届き始めていたが、満を持して世に放たれたメジャーデビューシングルが、この『哀愁交差点』だった。

フロントマンである城戸けんじろの、喉を震わせるようなハスキーでいて突き抜けるボーカル。そして、ベースの鹿島公行が生み出す、どこか懐かしく、胸の奥をギュッと締め付けるようなメロディ。

彼らは「パンク」という枠組みを超え、聴く者の人生に土足で踏み込んでくるような親密さを持っていた。

都会的なスマートさとは無縁の、汗と涙の匂いがするような音楽。だからこそ、当時の僕らは彼らの音楽を自分たちの「代弁者」として受け入れたのだ。

夕暮れ時の情景が胸を突く、言葉の温度

この楽曲の最大の魅力は、タイトルの通り「哀愁」という言葉が見事に音として具体化されている点にある。

冒頭のギターの音色から、一瞬にして夕暮れ時の誰もいない交差点や、部活帰りの自転車の音、あるいは漠然とした将来への不安に押し潰されそうになっていたあの頃の景色が鮮明に蘇る。

作詞・作曲を手がけた鹿島公行の筆致は、決して気取ったものではない。日常の何気ない風景や、誰しもが抱く「ここではないどこか」への憧れと、今いる場所を愛そうとする葛藤。

そうした心の揺れ動きが、飾らない言葉で綴られている。

その歌詞が城戸の泥臭い声に乗ったとき、それは単なる音楽ではなく、隣に座って肩を叩いてくれる友人の言葉のような温度を持ち始める。

「完璧じゃない自分でも、ここで生きていていいんだ」という全肯定のメッセージが、多くのリスナーの孤独に寄り添ったのだ。

装飾を削ぎ落とした「生」のバンドサウンド

音楽的な側面で見れば、『哀愁交差点』は非常にシンプルで質実剛健な構成をしている。

過度なエフェクトやデジタルな装飾を排し、ギター、ベース、ドラム、そして歌。その最小限のユニットから繰り出される音は、今の時代に聴き返しても驚くほど瑞々しく、そして力強い。

この「余白」があるからこそ、聴き手は自分自身の思い出をその旋律の間に投影することができる。

当時、音楽シーンはヒットチャートの常連たちがひしめき合っていたが、ジャパハリネットの音楽はどこか独立した輝きを放っていた。流行に左右されることなく、自分たちが信じる「メロディアスで熱いロック」を貫き通す姿勢。その純粋すぎるほどの音楽への向き合い方が、当時の若者たちの硬くなった心を解きほぐしていった。

派手なプロモーションやタイアップの力以上に、彼らの音楽そのものが持つ「浸透力」が、全国へとその熱を広げていったのだ。

時代が変わっても色褪せない、心の交差点

22年という月日が流れ、僕らを取り巻く環境は激変した。あの頃のように夢を無邪気に語ることは難しくなり、現実に追われる日々を過ごしている人も多いだろう。それでも、ふとした瞬間にこの曲が流れてくると、一瞬で「あの頃」に戻ることができる。

それは、ジャパハリネットが描いた世界が、特定の時代の流行ではなく、人間が普遍的に抱く「郷愁」や「情熱」の根源に触れていたからに他ならない。

『哀愁交差点』は、過去を懐かしむだけの曲ではない。立ち止まりそうになったとき、あるいは進むべき道を見失いそうになったとき、再び歩き出すための勇気をくれる「現在進行形」の楽曲なのだ。

四国の空の下で生まれたあの叫びは、今も変わらず、誰かの胸の中で熱く鳴り続けている。あの交差点で立ち止まった記憶がある限り、この曲はきっと、僕らの人生のサウンドトラックであり続けるはずだ。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。