1. トップ
  2. 30年前、『日曜劇場』で響いた“嘘のない歌声” 寄り添った“大人のための滋養強壮ソング”

30年前、『日曜劇場』で響いた“嘘のない歌声” 寄り添った“大人のための滋養強壮ソング”

  • 2026.1.25

1996年1月。日曜日が終わる直前、外はもう暗く、明日の予定が頭をよぎる時間帯。そんな夜に放送されていたのは、刺激的な事件も、わかりやすい感動も用意されていないドラマだった。けれど、なぜかチャンネルを変えずに見続けてしまう。そんな不思議な吸引力を持つ作品があった。

萩原健一『泣けるわけがないだろう』(作詞:松井五郎・作曲:春畑道哉)――1996年1月31日発売

この曲が流れていたTBS系日曜劇場『冠婚葬祭部長』は、会社という場所で生きる大人の日常を、驚くほど淡々と描いていた。

転勤から始まる、少し居心地の悪い再スタート

ドラマ『冠婚葬祭部長』の物語は、地方での仕事を終え、東京の本社に戻ってくる会社員の異動から始まる。ただし、それは“元の場所に戻る”という安心感のある展開ではない。新たに命じられたのは、社内でも少し特殊な部署だった。

社員の結婚や葬儀といった、人生の節目を取り扱う業務。会社にとっては必要不可欠だが、表に出ることは少ない。慣れない仕事、変わった立場、微妙な上下関係。そこで待っていたのは、誰もが一度は経験したことのある、会社という小さな社会の空気だった。

undefined
萩原健一-1995年撮影(C)SANKEI

冠婚葬祭が浮かび上がらせる、仕事の矛盾

このドラマが静かに刺さる理由は、扱う題材にある。結婚や葬儀は、本来とても個人的で感情的な出来事だ。それを“業務”として進めなければならない現場には、必ずズレや戸惑いが生まれる。

形式を守るべきか、感情に寄り添うべきか。上司の判断と現場の感覚、立場の違いによるすれ違い。そうした小さな衝突が積み重なり、物語は進んでいく。

派手な対立や劇的な解決は描かれない。それでも、画面の向こうにあるのは、明日も会社へ向かう自分自身の姿だった。

主題歌が残した、さわやかな余白

主題歌の『泣けるわけがないだろう』は、ドラマの印象を決定づけていた。作曲を手がけたのは、TUBEの春畑道哉。彼らしい、風通しのいいサウンドは、重くなりがちなテーマを、どこか軽やかに受け止めてくれる。

萩原健一の歌声も、感情を強く押しつけるものではない。少し距離を保ちながら、現実を受け入れていくようなトーン。

「泣けるほどじゃないけれど、割り切れるほど簡単でもない」。そんな大人の感覚が、音楽として残されていた。

日曜劇場が映していた1996年の空気

バブル崩壊後、成功や成長よりも、調整や継続が求められるようになった時代。『冠婚葬祭部長』は、その空気を大げさな演出なしに映し出していた。見終わったあとに残るのは、感動というよりも、静かな納得感。

「明日もまた、会社でいろいろあるんだろうな」。そんな現実に、少しだけ背筋を伸ばさせる。30年経った今振り返ると、このドラマと主題歌は、日曜の夜に現実へ戻るための、ひとつのクッションのような存在だったのかもしれない。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。