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40年前、夜にまぎれて流れていた“穏やかな熱” 記憶の隙間に残った一曲

  • 2026.1.25

1986年1月。音楽シーンは相変わらず活気に満ち、テレビやラジオからは強いインパクトを持つ楽曲が次々と届いていた。そんな中で、決して派手ではないが、きちんと作られ、きちんと歌われていた一曲も、確かに存在していた。

耳を奪い合うようなタイプではない。それでも、流れてくると自然と最後まで聴いてしまう。そんな安定感を持った楽曲だった。

堀ちえみ『夢千秒』(作詞:売野雅勇・作曲:鈴木キサブロー)――1986年1月21日発売

この曲は、時代を象徴する代表作として語られることは多くない。しかし、当時の空気の中に確かに溶け込み、静かに受け止められていた作品だった。

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堀ちえみ-1982年撮影(C)SANKEI

丁寧につくられた、大人びた一歩

17枚目のシングルとなる『夢千秒』は、堀ちえみのキャリアの中でも、少し落ち着いた方向性を感じさせる楽曲だ。明るさや親しみやすさを前面に出した初期のイメージとは異なり、感情を整理しながら歌う表現が選ばれている。

売野雅勇による詞は、情景を積み重ねていく構成。鈴木キサブローのメロディは、なだらかな流れの中に、しっかりとした起伏を持たせている。

そして編曲を手がけた後藤次利によって、サウンドは厚みを備えている。太いベース音にリズムやシンセストリングスが、楽曲全体をきちんと支える役割を果たしている。

サビで見せる、はっきりした輪郭

AメロやBメロでは落ち着いたトーンを保ちながらも、サビではしっかりと声を張り、旋律の広がりを明確に打ち出している。

堀ちえみの歌唱も、淡々とした語り口に終始するわけではない。感情を抑え込みすぎず、必要なところではきちんと前に出る。そのバランスが、この曲を単なる地味な楽曲にしていない。

サウンドもまた、夜向きの落ち着きを持ちながら、輪郭ははっきりしている。耳を澄ませば、当時のスタジオワークの確かさが伝わってくる仕上がりだ。

『夢千秒』は、大きなエピソードや象徴的な数字で語られる作品ではない。だが、夜のラジオや、ふとした瞬間に思い出される一曲だ。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。