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27年前、スクリーンの恐怖を“永遠の孤独”へ変えた旋律 1999年の闇を照らした“冷淡な美しさ”

  • 2026.1.24

1999年、世の中は「世紀末」という言葉にどことなく浮き足立っていた。新しい時代への漠然とした期待と、正体のわからない不安。その両方がマーブル模様のように混ざり合い、街の空気はいつもどこか落ち着かなかった。

今井美樹『氷のように微笑んで』(作詞・作曲:布袋寅泰)――1999年1月13日発売

派手な演出で飾るわけではなく、かといって過剰に悲劇を装うわけでもない。ただ、そこに置かれただけで空気をピリリと凍らせるような、不思議な手触りを持った楽曲だった。

16枚目のシングルに刻まれた「平熱」の凄み

『氷のように微笑んで』は、今井美樹にとって16枚目のシングルだ。もともとは前年に発表されたアルバム『未来』に収録されていた楽曲で、そこからリカットされた形になる。 当時の彼女は、アーティストとしての地位を完全に確立し、自身の表現をより深めていた時期だった。

この楽曲が多くの人の記憶に残っている理由のひとつに、映画『リング2』の主題歌であったことが挙げられる。日本中に「呪いのビデオ」の恐怖を植え付けたシリーズの続編。そのエンディングに流れたこの曲は、映画が残した不穏な余韻を、優しく包むのではなく、あえてそのまま「静止」させた。

歌うことで何かを強く訴えかけるのではなく、声の置き方や、聴き手との絶妙な距離感そのものが表現になっている。そんな「引き算の美学」が、この時期の彼女の歌声には満ちていた。

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今井美樹-1999年撮影(C)SANKEI

特別ではない関係性の中で研ぎ澄まされた一曲

プロデュースは布袋寅泰。楽曲の軸を支えるのは、どこか異国情緒を漂わせるムーディなサンバ調。しかし、それは決して陽気なものではない。一定のテンポで刻まれ続けるリズムは、感情を高揚させることも、沈ませることもしない。まるで冷たい水面を一定の速度で進んでいくような、逃げ場のない心地よさを演出している。

その独特のリズムの上に乗るメロディには、まさに布袋寅泰にしか描けない旋律の美学がある。一度聴けば耳に残るキャッチーな輪郭を持ちながら、その奥には常にかげりを感じさせる。 強く主張するわけではないのに、気づけば心の深い場所に沈殿しているような、不思議な引力を持ったメロディラインだ。

そして、その旋律に命を吹き込む今井美樹のボーカル。彼女はこの曲において、決して感情を説明しようとしない。声はどこまでも柔らかく透明だが、決して聴き手に寄り添いすぎないのだ。 語尾に余計な感情を滲ませることもなく、正確に、そして丁寧に言葉を旋律の上に置いていく。

彼女の声が持つこの独特の質感が、聴き手に対して無限の解釈を委ねる。 何を感じ、何を読み取るかは、聴く側の心境に委ねられている。その構造こそが、この楽曲が持つ最大の魅力であり、同時に時代を超えて色褪せない強さでもある。

時代の隙間に灯った「冷たい情熱」

『氷のように微笑んで』は、時代の隙間に、凛とした姿で咲いた花のような一曲だった。派手なミリオンヒットとして語り継がれるタイプではないかもしれない。しかし、ふとした冬の夜や、一人で静かに自分と向き合いたいとき、この曲は今も変わらずそこにあり、私たちの耳元で囁きかける。

当時の、そして今の私たちの心象風景を映し出す鏡。 『氷のように微笑んで』は、時代がふと見せた「冷たい素顔」を、完璧な形で封じ込めた稀有な主題歌だったのだ。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。