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30年前、永遠のポップスターが放った“昼ドラポップス” 軽やかだけど揺るがない“歌声”

  • 2026.1.24

1996年2月。街にはまだ華やかさが残りつつも、人と人との距離感は少しずつ変わり始めていた。常に一緒にいることよりも、離れている時間をどう受け止めるか。そんな感覚が、日常の中に静かに入り込んでいた時代だ。その空気感を軽やかなテンポと安定した歌声で描いた一曲がある。

郷ひろみ『どんなに君がはなれていたって』(作詞:松井五郎・作曲:都志見隆)――1996年2月1日発売

ポップスターとしての説得力

デビューから20年以上を経た1996年、郷ひろみはもはや変化を急ぐ必要のない立場にいた。若さを誇示するでもなく、無理に大人ぶるでもない。自然体のまま、今の自分に似合う表現を選べる段階に入っていた時期だ。

TBS系昼ドラ『ママは大ピンチ!!』の主題歌として制作された本作も、いわゆる感情過多な主題歌とは一線を画している。物語を強く引っ張るのではなく、登場人物たちの心情のそばに、一定の距離を保って寄り添う。その立ち位置は、まさにこの時期の郷ひろみのスタンスと重なる。

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1996年、東京・中野サンプラザでおこなわれた郷ひろみコンサートより(C)SANKEI

軽やかさの中に残る、確かな芯

『どんなに君がはなれていたって』は、ミディアムテンポのポップスだ。バラードのように感情を引き延ばすこともなく、アップテンポで突き抜けるわけでもない。その中庸なテンポ感が、この曲の最大の特徴と言える。

作曲を手がけた都志見隆によるメロディは、流れがよく、耳に引っかかりやすい。それでいて、過剰な盛り上がりを意図的に避けている。

そこに山本健司の編曲が加わることで、サウンドは整然としたポップスとして成立し、歌が前に出すぎることも、伴奏が主張しすぎることもない。

その結果、「軽やかに聴けるのに、内容は軽くない」という独特のバランスが生まれている。

郷ひろみの歌声が示す関係性

この曲での郷ひろみのボーカルは、力で押すタイプではない。声を張り上げる場面は抑えられ、全体を通して一定のトーンが保たれている。それは技術的な抑制というより、表現としての選択だ。

郷ひろみは、余計な装飾を削ぎ落とし、言葉とメロディをまっすぐに届けている。だからこそこの曲には、切なさよりも安心感が残る。

「離れている=不安」という短絡的な構図ではなく、距離があっても揺らがない関係性を、ごく自然な形で提示しているのだ。

1996年は、音楽シーンにおいても多様化が進み、強い個性や派手なサウンドが目立ち始めた時代だった。

その中で、この曲はトレンドを追いかけることなく、あくまで“郷ひろみのポップス”として存在していた。派手な仕掛けはない。しかし、長いキャリアを持つアーティストだからこそ表現できる、落ち着いた距離感と安定感がある。

それは、聴き手に強い印象を押し付けるタイプの曲ではないが、生活の中でふと流れたときに、きちんと心に残るタイプの楽曲だ。

距離を肯定する、穏やかな強さ

30年が経った今、連絡手段や人との距離感は大きく変わった。それでも、この曲が持つ感覚は、決して古びていない。軽やかなテンポの中に、確かな意志を宿した一曲。それが、1996年の郷ひろみが選んだ“愛のかたち”だった。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。