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32年前、ドラマティックなギャップを仕掛けた“CMソング” 盛り上げない“壮大なバラード”

  • 2026.1.24

1994年1月。年始の街には、まだ華やかさの名残がありながらも、どこか感情の置き場を探すような空気が漂っていた。強く振る舞うことにも、前向きでいることにも、少し疲れ始めていた頃。そんな時代の隙間に、ゆっくりと熱を帯びながら広がっていく一曲が届けられる。

MANISH『もう誰の目も気にしない』(作詞:小田佳奈子・作曲:西本麻里)――1994年1月10日発売

聴き進めるうちに、確実に温度を上げていく。静かな始まりから、気づけば胸の奥が満たされている。そんなタイプのバラードだった。

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Google Geminiにて作成(イメージ)

MANISHが描いた、感情を積み上げるという表現

MANISHにとって7枚目のシングルとなる『もう誰の目も気にしない』は、明治製菓「アメリカンチップス」のCMソングとして日常的に流れながらも、曲そのものは非常にドラマティックな構成を持っている。

序盤は抑制された旋律と落ち着いたトーンで始まり、サビに向かって少しずつ音数と感情の密度を増していく。その流れは、突発的な高揚ではなく、感情が内側から膨らんでいく過程そのものだ。

ピアノが主導する、段階的な高揚感

この楽曲の骨格を支えているのは、ピアノを中心としたサウンド設計だ。編曲を手がけた明石昌夫は、最初から壮大さを提示しない。音は控えめに置かれ、旋律の動きも抑えられている。

しかし曲が進むにつれ、ピアノは和声の厚みを増し、バンドサウンドも徐々にスケールを広げていく。気づいたときには、音の広がりが視界いっぱいに開いている。盛り上げるのではなく、連れて行く。そんなアレンジだ。

ボーカルも同様に、序盤では感情を抑え、中盤から後半にかけて徐々に熱を帯びていく。叫ばないまま、しかし確実に強くなる。その変化が、この曲を「壮大なバラード」として成立させている。

静かな宣言から確信へ

タイトルの言葉は、曲の中で一度に完成されるものではない。最初は自分に言い聞かせるように、少し不安を含んだ響きで置かれ、繰り返される中で、次第に確信へと変わっていく。

この楽曲が描くのは、反抗でも決別でもない。他人の視線に揺れながらも、自分の感情を手放さずにいようとする、その積み重ねだ。

弱さを抱えたままでもいい。迷いながらでも、前に進める。

そうした感覚が、音のスケールアップと完全に同期している。だからこの曲は、聴き終えたときに不思議なカタルシスを残す。

32年後に残る、“熱を帯びた余韻”

『もう誰の目も気にしない』は、優しいだけのバラードではない。時間をかけて感情を育て、最後には胸の奥をしっかりと満たす、構築的でスケールの大きな作品だ。

派手に語られることは少ないかもしれない。だが、聴くたびに感情の温度が上がっていく体験は、今も色褪せない。

静かに始まり、確かに燃え上がる。その過程ごと記憶に残るからこそ、この曲は32年経った今も、特別な一曲として聴き継がれている。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。