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35年前、ビデオアニメの終わりに響いた“声の記憶” 王朝家系シンガーのデビュー曲

  • 2026.1.24

1991年。ビデオデッキの再生ボタンが、今よりもずっと重たい意味を持っていた時代。テレビでも映画館でもない場所で、静かに物語を受け取る夜があった。

部屋の灯りを少し落として、画面に集中する。その空気の中で流れてきた、エンディングの旋律を覚えているだろうか。派手な主題歌ではない。物語を締めくくるためだけに用意された、控えめで、それでいて忘れがたい声。

映像が終わったあとも、胸の奥に残り続ける感触を持った一曲が、1991年に世に送り出されている。

本間かおり『つかまえていて』(作詞:田口俊・作曲:あみ啓三)――1990年発売

名前の奥に宿っていた、静かな始まり

『つかまえていて』は、本間かおりのデビューシングル。オリジナルビデオアニメ『鎧伝サムライトルーパー MESSAGE』のエンディングテーマとして制作された楽曲だ。

当時のOVA(オリジナルビデオアニメ)作品は、テレビシリーズとは異なり、より内省的で、感情の余白を重視する作りが多かった。その流れの中で、この曲もまた、物語を派手に彩る役割ではなく、視聴者の心をそっと現実へ戻す“出口”として機能していた。

作詞を手がけたのは田口俊。繊細な距離感を保ちながら、感情を過度に言い切らない言葉選びで知られる作家だ。作曲のあみ啓三、編曲の矢野立美によるサウンドは、主張しすぎないメロディと整った構造で、ボーカルの存在感を静かに引き立てている。

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普天間かおり(本間かおり)-2001年撮影(C)SANKEI

映像の終わりに残された、声だけの温度

『つかまえていて』の魅力は、音楽単体の強さというよりも、映像と結びついたときに発揮される“役割の正確さ”にある。エンディングテーマとして流れるこの曲は、戦いや葛藤を描いた物語のあとに、感情を一度、静かに整えるための時間を与えてくれる。

テンポは穏やかで、旋律は大きく跳ねない。しかし、決して平坦ではなく、細やかな抑揚が声の中にきちんと刻まれている。

この頃の本間かおりのボーカルは、感情を前に押し出すタイプではない。息遣いを丁寧にコントロールしながら、旋律に身を預けるように歌われている。

その姿勢が、視聴者に「聴こう」と身構えさせるのではなく、「気づいたら聴いていた」という状態を生み出す。物語が終わったあとの、言葉にできない感情を、そのまま預けられる声。この楽曲は、まさにその一点に照準を合わせて作られている。

やがて“普天間かおり”へと続く道

本間かおりは、その後、本名である「普天間かおり」として活動の場を移していく。

沖縄県中城村出身。琉球王朝の流れをくむ家系に生まれ、シンガーソングライターとして、自身の言葉と音楽を紡ぐ表現へと向かっていった。

『つかまえていて』というタイトルは、強い命令でも、切実な叫びでもない。どこか控えめで、相手の意思を尊重するような響きを持っている。

それは、この曲全体の佇まいとも重なる。感情を振りかざすのではなく、そばに置いておく。失わないために、強く掴むのではなく、そっと手を添える。

35年という時間を経てなお、この楽曲が色褪せないのは、そうした距離感が、今の私たちにも必要なものだからかもしれない。静かに寄り添うことの強さを、改めて思い出させてくれる一曲だ。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。