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20年前、恋の駆け引きを描いた“エロかっこいい”旋律 熱狂の渦中で放たれた“芳醇な誘惑の一曲”

  • 2026.1.24

「20年前の冬、街を鮮やかに彩っていた“エロかっこいい”旋律を覚えてる?」

2006年という年は、音楽シーンにおいて一種の特異点だった。CDからデジタルへという時代の端境期にありながら、ある一人の歌姫が巻き起こしたムーブメントは、単なるヒット曲の量産を超え、社会現象としての熱を帯びていた。

その熱狂の象徴ともいえるのが、12週連続シングルリリースという前代未聞のプロジェクトだ。毎週、新しい表情を見せる彼女に日本中が釘付けになる中で、ちょうど折り返し地点を過ぎた頃、ひときわ異彩を放つ一曲が届けられた。

倖田來未『Candy feat.Mr. Blistah』(作詞:Kumi Koda・Mr. Blistah、作曲:Daisuke "D.I" Imai)――2006年1月18日発売

それは、これまでの彼女のパブリックイメージであった「パワフルなダンスチューン」とも「切ないバラード」とも違う。もっと密やかで、もっと大人の余裕を感じさせる、極上のR&Bサウンドだった。

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2006年、「a-nation'06」東京公演で歌う倖田來未(C)SANKEI

吐息さえも音の一部に変えてしまう魔法

この楽曲が持つ最大の魅力は、聴く者の耳元で囁くような、圧倒的な没入感にある。

今井大介(Daisuke "D.I" Imai)によるトラックは、重厚なベースラインと煌びやかなシンセサイザーが絡み合い、まるで真夜中のラウンジのような高級感を演出している。そこに重なる彼女の歌声は、力強さをあえて抑制し、ハスキーな成分を最大限に活かした表現へと進化していた。

サビで繰り返されるフレーズは、一度聴けば頭から離れない中毒性を孕んでいる。それは、強引に記憶へ刻み込むのではなく、じわじわと意識に溶け込んでいくような感覚に近い。

コラボで参加したMr. Blistahの低音ラップが、彼女の艶やかなボーカルをより一層際立たせ、楽曲全体に心地よい緊張感と奥行きを与えているのも見逃せない。

緻密に計算された“引き算”の美学

12週連続リリースの第7弾として発表されたこの曲は、プロジェクト全体の中でも重要な役割を担っていた。

当時は「エロかっこいい」という言葉が独り歩きし、彼女のビジュアルやパフォーマンスばかりが注目されがちだった。しかし、『Candy feat.Mr. Blistah』という作品は、彼女が単なるアイドル的なアイコンではなく、本物のR&Bを歌いこなす高い音楽的素養を持ったアーティストであることを改めて証明した

過剰な装飾を削ぎ落とし、リズムとメロディ、そして声の質感を信じる。この「引き算」の美学こそが、20年経った今でも古さを感じさせない理由だろう。

楽曲全体を包み込む、どこかオリエンタルでエキゾチックなムード。それは冬の寒さの中で、そこだけ体温が上がったかのような、不思議な高揚感をリスナーに与えてくれた。

時代を切り拓いた歌姫の“静かなる確信”

2006年の空気感は、まだどこか自由で、新しいことに挑戦するエネルギーに満ち溢れていた。

12枚のシングルそれぞれに世界各国の衣装をテーマにするという遊び心、そして毎週CDショップへ足を運ぶという体験。デジタル配信が主流になる直前の、パッケージとしての音楽を愛でる文化が、このプロジェクトを支えていた。

その中でも本作は、大人の恋の駆け引きを「キャンディ」という象徴的な言葉で描き出し、当時の若者たちの憧れを一身に集めた。

記憶の扉を開ける、甘く危険な香り

今、改めてこの曲に耳を傾けると、当時の街の喧騒や、少し背伸びをして聴いていたあの頃の自分を思い出す。

音楽は、聴いた瞬間にその時の温度や香りを連れてくるタイムマシンのようなものだ。『Candy feat.Mr. Blistah』が流れた瞬間、私たちは20年前のあの冬、誰もが彼女の魔法にかかっていたことを思い知らされる。

甘くて、少しだけほろ苦い。その絶妙なバランスが、今もなお私たちの心を掴んで離さない。

あの時、日本中が夢中になった“エロかっこいい”という旋律の奥底には、決して色褪せることのない普遍的な美しさが確かに存在していたのだ。季節が巡り、再び冷たい風が吹き始める頃、この曲はまたそっと、誰かの夜を彩り続けるだろう。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。