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30年前、“サウンド集団”として音を鳴らした2人 “夜向きソング”と形容されるワケ

  • 2026.1.20
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Google Geminiにて作成(イメージ)

1996年1月。ネオンの反射が濡れたアスファルトに滲み、雑踏のざわめきがいつもより遠くに聞こえる夜があった。派手に煽らないのに、耳元の温度だけは妙にリアル。そんな“夜のポップ”を、当たり前の顔で鳴らしていたのがICEだ。

ICE『BABY MAYBE』(作詞・作曲:宮内和之)――1996年1月17日発売

2人組に見えて、実は“サウンド集団”だった

ICEは音楽家・宮内和之とボーカル・国岡真由美を中心としたユニットだ。宮内が生み出すサウンドは、洗練されながらもエッジが立ち、70年代ソウルの質感をしっかりと内包している。そこへ国岡のクールで色気を帯びた歌声が重なり、J-POPのフィールドにありながら、どこにも属さない独自の輪郭を形づくっていた。

1993年4月に1stアルバム『ICE』をリリースして以降、彼らはコンスタントに作品を発表し、シングルとアルバムを重ねながら存在感を広げていく。そのスピード感の中でも、軸がぶれることはなかった。ソウルミュージックの体温と、都会的なクールネスの共存。それがICEの基本姿勢だった。

また、ICEは単なる男女デュオという枠に収まらない存在でもある。宮内和之自身が、ICEを「2人組」と限定的に捉える見方を避け、参加するミュージシャンやスタッフを含めた“サウンドの集合体”として意識していたことはよく知られている。名前はシンプルでも、鳴っている音は常にチームのもの。その意識が、作品ごとに異なる表情を与えていた。

“BABY MAYBE”が鳴らした、都会のグルーヴ

『BABY MAYBE』は6枚目のシングルにあたる作品だ。90年代半ばのICEが到達していた“夜の手触り”が、無理なく凝縮されている。ビートは軽やかに前へ進むが、前面に出てくるのは熱量よりも距離感。音数で押すのではなく、カッティングやリズムの隙間で色気を生むグルーヴが印象的だ。

この曲で際立つのは、国岡真由美のボーカルの存在感でもある。感情を過剰に乗せることなく、一定の温度を保ったままフレーズを置いていく。その抑制が、結果としてリスナーとの距離を縮める。近づきすぎないからこそ、余韻が残る。ICEの音楽が“夜向き”と形容される理由は、こうした細部にある。

1996年という時間の中で

1996年2月、ICEはアルバム『We’re in the Mood』をリリースする。シーンの中での立ち位置を誇示するような作品ではなく、“いまのICEはここにいる”と静かに示す一枚だった。流行の中心から一歩引いた場所で、しかし確かな完成度を保ち続ける。そのスタンスは、90年代半ばのJ-POPの中でも特異だったと言える。

宮内和之のプロデュースは、前に出すぎないが、常に全体を掌握している。ギタリストとしての感覚と、音像全体を設計する視点。その両立があったからこそ、ICEはソウルやファンクの要素を借りながらも、あくまで“東京のポップス”として成立していた。

30年後も、同じ夜に戻れる音

『BABY MAYBE』を聴いて浮かび上がるのは、当時の流行やファッションよりも、街の匂いだ。窓ガラス越しの光、タクシーのテールランプ、帰り道に流れるラジオ。思い出すのは出来事ではなく、空気そのもの

30年経っても色褪せない理由は、ICEが“流行をなぞるポップ”ではなく、“夜の実感”を音として定着させたからだろう。ふとした瞬間に再生ボタンを押せば、あの頃の自分が、同じ街角に静かに立ち上がってくる。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。