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憧れの「ザ・リッツ・カールトン京都」で体験した、 贅沢の本質を映す“サステナ・ステイ”|エディターズOKINI

  • 2025.12.5
テラスからの景色。写真左に見える石垣は「ホテルフジタ京都」から受け継がれたもの。

京都の街を歩くと、自転車の多さに気づく。細い路地をすり抜け、鴨川沿いを颯爽と走る姿は、どこかこの街のリズムそのものだ。京都に住む人に話を聞いてみると「碁盤の目のように整った道は一方通行も多く、車よりも自転車のほうが暮らしに馴染む」とのこと。

「サステナビリティ」という横文字が語られるずっと前から、京都はすでに“サステナ”に生きてきた。そう言うと、この街の人たちには「いまさら何を」と叱責を受けるかもしれない。受け継がれた知恵が、静かな循環を生み出してきた。京都の“サステナ”は、理念ではなく生き方そのものだ。

そんな京都に、2011年まで営業し、市民に愛されていた「ホテルフジタ京都」があった。ご存知の方も多いと思うが、その跡地に建てられ2014年に開業したのが「ザ・リッツ・カールトン京都」。地下1階の日本料理「水暉」の大きな窓の外に見える石垣は、「ホテルフジタ京都」から受け継がれたもの。職人によってひとつひとつ洗浄され組み直されたという。過去を壊すのではなく、時間を敬い、そこに新しい命を吹き込む、それがこのホテルの精神だ。

ホテルは、日常を離れて休息するための場所。けれど「ザ・リッツ・カールトン京都」は、その先を見ている。ここでは、滞在そのものが“文化に出会う体験”になる。食、アート、工芸、建築、自然……そのすべてが京都の美意識と響き合い、ホテル自体がひとつの目的地として存在している。

井上勝人シェフが紡ぐ循環の料理

写真左から、「シェフズ・テーブル by Katsuhito Inoue」を率いる井上勝人ヘッドシェフ、柏木シェフ。 HIROTO NISHIKAWA
この日のディナーは、井上シェフが七十二候の「菊花開(きくのはなひらく)」に合わせて構成した特別メニュー。 Hearst Owned

京都の文化と共鳴するように、「ザ・リッツ・カールトン京都」の美食体験には、この街ならではの“循環の哲学”が息づいている。ホテルのダイニングの中でも象徴的な存在が、井上勝人ヘッドシェフが率いる「シェフズ・テーブルby Katsuhito Inoue」。

季節の移ろいを七十二候(72個の小さな季節名)で捉え、器や食材に自然の時間を丁寧にすくい上げる。そこにあるのは、京都で古くから育まれてきた「始末の心」を、現代ガストロノミーとして再構築しようとする姿勢。

井上シェフは「素材を余すことなく使い切るのは、料理人としての責任なんです」と語る。例えば、パン生地には、野菜の皮や種、通常なら廃材とされる部分を炭化させて練り込む。ただの“再利用”に留まらず、味わいに深みを与える技術へと昇華させているわけだ。

「使い切ればいい、ではないんです。大切なのは、美味しさという新しい価値を生み出せているかどうか」

その言葉には、サステナビリティを“努力”ではなく“美意識”として捉える料理人としてのプライドが表れている。さらに、「シェフズ・テーブル by Katsuhito Inoue」では料理だけでなく器もまた“文化の表現者”として存在感を放っている。

陶芸体験は、清水寺から徒歩約6分の<a href="https://www.kashogama.com/school/index.html" target="_blank" rel="nofollow">嘉祥窯・直営店内</a>でも体験できるほか、カフェ「ENSOU」とギャラリーを併設した窯元(<a href="https://www.kashogama.com/ensou/" target="_blank" rel="nofollow">滋賀県甲賀市</a>)でも参加が可能。。 Hearst Owned

今回提供された器の多くは、茶道具を中心に手がけてきた京焼の窯元・嘉祥窯(かしょうがま)の四代目当主・森岡嘉祥氏によるもの。嘉祥窯では、穴窯の中で大量に発生する灰が自然の釉(うわぐすり=陶磁器の表面に塗っておくもの)となり、器の表情を生み出す。火と土と灰が偶然に反応して生まれるその釉調は、まさに“自然がつくり出す美”。その哲学は、器づくり体験に触れるとより深く理解できる。

井上シェフは「器も料理も、自然の恵みを映し出すための大切な要素なんです。職人さんとの対話から、新しい表現が生まれます」と話す。それらすべてが料理の一部として息づいているからこそ、このダイニングで味わう一皿は“体験”として記憶に残る。

京都の生産者との交流も、井上シェフにとって欠かせない。「自分と違う視点を持つ人と話すことで、料理の発想が広がるんです」。400年続く農家の知恵に触れ、伝統野菜の個性を理解し、そこから新しい料理の可能性を引き出す。それは、料理をつくるという行為を超えて、“文化をつなぐ仕事”に近いのではないだろうか。

さらに印象的だったのは、井上シェフが営業前に毎朝行うという“水を汲む”作業。近隣の水源に自ら足を運び、京都の水で出汁を引く。

「京都で召し上がっていただくなら、京都の水で料理を作りたい。それが、自分なりの“もてなし”なんです」

サステナビリティを声高に語ることもなく、ただ日々の積み重ねを大切にする姿勢。その佇まいこそが京都らしく、そして最も“未来的”だと感じさせる。井上シェフは最後にこう話してくれた。「料理は突然“ボン”とできるものではありません。経験と知識、土地の恵みが積み重なって、やっと形になるんです」。その言葉は、“サステナブルな美食”を単なるトレンドではなく、未来への文化的責任として捉えているように思える。

アートが息づく、“文化を生み出すホテル”

「タニハタ」の組子細工。 Hearst Owned
宴会場やホワイエの天井を飾る、「Maruni(丸二)」が手がけた京唐紙の型。 Hearst Owned

「ザ・リッツ・カールトン京都」の魅力を語るとき、食でも建築でもなく、まず“アート”からこのホテルの精神に触れる人は少なくない。

ロビー、廊下、客室、レストラン……どこに目を向けても、京都の自然や精神性を映し取ったアートがある。これらはただ空間を飾るための作品ではなく、文化を未来へつなぐために、この場所に“置かれるべくして置かれている”作品であり、選ばれているのは京都ゆかりのアーティストや職人、企業ばかり。

例えば、「タニハタ」の組子細工は、細やかな木組みを通して光をほどよく拡散させ、空間に柔らかな明るさをつくり出しており、「Maruni(丸二)」が手がけた京唐紙の型は、宴会場やホワイエの天井に生まれ変わっている。

和傘の技法を応用した「HIYOSHIYA(日吉屋)」の照明。 Hearst Owned
明治41年に建てられた藤田財閥の創始者・藤田伝三郎氏の京都別邸だった「夷川邸」をレストランフロア内に移築した空間。 Hearst Owned

「HIYOSHIYA(日吉屋)」の照明は、和傘の技法を応用し、京都らしい光を室内に取り入れている。また、明治期に建てられた藤田家の別邸「夷川邸」をレストランフロア内に移築し保存していることも、ホテルの文化を受け継ぐ姿勢を象徴している。歴史建築を単に展示物として置くのではなく、空間として再び生かすことで、京都の文化を未来へつなぐ役割を果たしているのだ。

さらに、同ホテルではスタッフが館内のアートを案内する“アートツアー”を実施しており、宿泊者からの申し出も多い人気アクティビティになっている。アートの背景や作家の意図、工芸技法の物語を聞きながら巡ることで、作品の見え方が大きく変わり、ホテル全体を“ひとつの文化空間”として味わうことができる。

館内に点在する409点ものアートコレクションは、京都の伝統工芸・現代アート・自然観と響き合い、このホテルならではの“文化の循環”をつくり上げている。作品を眺めるたびに、客室で過ごすたびに、私たちゲストは気づかぬうちに“京都という文化の一部”を体験している。それは単なる鑑賞ではなく、文化が生まれ、更新されていく現場に立ち会う体験なのだと思う。

だからこそ、ただ泊まるだけではなく、京都の“文化継承というサステナビリティ”を感じ、未来へつなぐ時間を過ごせる。「ザ・リッツ・カールトン京都」は、そんな“文化を生み出す場所”へとなっているのだ。

ザ・リッツ・カールトン京都
京都府京都市中京区鴨川二条大橋畔
Tel.075-746-5555
1泊1室¥150,000~(税・サ込み)
※シーズンにより価格が変動いたします

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