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“次なるドリスを紡ぐ”──ジュリアン・クラウスナーが語る、新章のはじまり

  • 2025.12.2

“手仕事”が導く、ドリス ヴァン ノッテンの新時代

ジャカードの上に施された装飾が手仕事の記憶を静かに語る。ジャケット ¥585,200 スカート ¥183,700 イヤリング ¥82,500
ジャカードの上に施された装飾が手仕事の記憶を静かに語る。ジャケット ¥585,200 スカート ¥183,700 イヤリング ¥82,500

一本の糸が紡がれるように、静かな手仕事のリズムの中から、ドリス ヴァン ノッテンDRIES VAN NOTEN)の新たなチャプターがスタートした。メゾンの新クリエイティブ・ディレクターに就任したジュリアン・クロスナーに託されたのは、メゾンの美学の継承と未来への創造だ。これまで同メゾンで7年間、ドリス・ヴァン・ノッテンとともに働いてきた彼は言う。「ドリスから学んだのは、流れを受け入れ、そして間違いを恐れないことです。コレクションを作る過程では、毎日無数の決断が求められます。すべてが計画通りに進むわけではありません。だからこそ即興性や柔軟さが必要であり、チームの声を聞くこと、オープンでいることを大切にしています」

何十年とメゾンに在籍するスタッフが多く、彼らの中に宿るドリスの精神。その空気を受け継ぎながらも、クロスナーは新風を吹き込む。「立場は変わりましたが、同じ仲間と同じオフィスで働いているので、どこかこれまでと変わらない日常の延長にも感じます。それが心地よくもあります」デビューを飾った2025-26年秋冬コレクションでは、ホイップステッチやビーズ刺繍など、手のぬくもりを感じさせるディテールが印象的だった。彼にとって「クラフト」とは、人の手の痕跡を服の中に残す行為だという。「刺繍や特殊な技法を通して、誰かの手が布に触れたという気配を感じられることが魅力です。私はその人間的な温度にずっと惹かれ続けているのです」

立体的なジャカードで表現したブルーの花柄モチーフ。シャツ ¥245,300
立体的なジャカードで表現したブルーの花柄モチーフ。シャツ ¥245,300

手仕事への愛情は、幼少期の原体験につながっている。「母と一緒に美容室へ行くのが大好きでした。ほんの少しの変化で、その人の雰囲気や立ち振る舞いまでもが変わる。その“変身の力“に魅了されていました」。その感覚は今も生きており、彼はフィッティングの時間を最も大切にしている。「服を着たときに人がどう変わるのか。その瞬間を間近で見ることが、私のクリエイションの原点です」。布を切り貼りして遊んでいた少年時代から、クロスナーは常に手で触って確かめるタイプだった。「子どもの頃のように、素材に触れ、並べて、感覚的に組み合わせてみる。その本能的なアプローチを今でも大切にしています」。そんな彼の初コレクションの舞台は、パリ・オペラ座。重層的な歴史と物語が漂う空間からインスピレーションを得て、「未知の問いに答えを探す女性たち」をテーマに創造を行った。「バックステージ的な空間でのショーでしたが、その見えない世界にこそエネルギーを感じました」

好奇心が導く次のステージ

糸の一本一本が生む揺らぎにクラフツマンシップの温度が宿る。コート ¥343,200 シャツ 参考商品 シューズ ヒール9cm ¥156,200
糸の一本一本が生む揺らぎにクラフツマンシップの温度が宿る。コート ¥343,200 シャツ 参考商品 シューズ ヒール9cm ¥156,200

クロスナーに与えられた使命は、メゾンの美学を受け継ぎつつ、自身のシグネチャーを見出すこと。「ドリスは常に進化をし、問い続けて止まない人でした。だから私も、彼の精神を引き継ぎながらメゾンを生きた存在として進化させていきたいと思っています。毎シーズン新しい発見があり、あるテーマは一度で完結することもあれば、何度も掘り下げて続いていくこともある。私らしさは、少しずつ積み重ねていく中で形になっていくもの。時間が答えを教えてくれることでしょう」。心に残っているアイデアは、いつか必ず形にするのがドリス ヴァン ノッテン流。「チームでよく、痒いと思うところは、いつか必ず掻くことになるだろうという話をしています。ただ、それを形にするまでには何シーズンもかかることもあるんです。アイデアというのは、そうやって熟成するもの。一方で、意外性や偶然から生まれる瞬間も大切にしています。計画通りにいかないことを楽しむのも、創作の一部です」

花を愛する創業者ドリスのときからコラボレーションを続けてきた、フラワーアーティスト東信によるアレンジメント。クロスナーのデビューコレクションが色彩の着想源に。
花を愛する創業者ドリスのときからコラボレーションを続けてきた、フラワーアーティスト東信によるアレンジメント。クロスナーのデビューコレクションが色彩の着想源に。

そして今、彼の好奇心の矛先は東京にある。今回が初来日となったが、「日本の方々は環境やものに対して深い敬意と美意識を持っている」と語る。「街を歩いていても、人々の服の組み合わせが本当に個性的で、ブランドが大切にしている『服を自分らしく取り入れる自由』が、ここでは自然に根づいていると感じます」。短い滞在の中で感じた東京の空気は、きっといつかのコレクションに影響を与えるだろう。「日本の職人技には強い関心があります。いつか彼らのアトリエを訪れ、実際にその手仕事を見てみたい」クロスナーに、メゾンの未来を象徴する言葉を尋ねると、即座に「好奇心」という答えが返ってきた。「ドリス自身も常に好奇心にあふれ、ひとつのやり方にとらわれることを望みませんでした。私も同じように、常に目と心を開き、進化を続けていきたい」。ドリス ヴァン ノッテンの新章は、受け継がれたクラフツマンシップの情熱と、未知への好奇心によって、確かに未来へと動き始めている。

問い合わせ先/ドリス ヴァン ノッテン 03-6778-7975

Photos: Kenta Cobayashi Text: Rieko Shibasaki

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