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映画『国宝』で魅せた“若き名優”…圧倒的な存在感で“異彩を放った”至高映画に「間違いなく天才」

  • 2025.12.27

映画の中には、観終わった後もしばらく席を立てなくなるほど、心に深い爪痕を残す作品があります。今回は、そんな中から"絶賛の声が相次ぐ名作"を5本セレクトしました。

本記事ではその第5弾として、映画『アフター・ザ・クエイク』(ビターズ・エンド)をご紹介します。世界的な文学の巨匠・村上春樹の原作を、日本映画界のトップランナーたちが30年という壮大なスケールで再構築。不確かな時代を生きる私たちの心に、静かな希望を灯す物語の真髄に迫ります。

※本記事は、筆者個人の感想をもとに作品選定・制作された記事です
※一部、ストーリーや役柄に関するネタバレを含みます

あらすじ

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新人賞を受賞しあいさつする黒川想矢(C)SANKEI
  • 作品名(配給):映画『アフター・ザ・クエイク』(ビターズ・エンド)
  • 上映日:2025年10月3日
  • 出演:岡田将生 (小村 役)

本作は作家・村上春樹さんの傑作短編群を原作としたNHKドラマと物語を共有しつつ、1995年の震災から現代へ至る30年間を4つのエピソードで再構築した、喪失と再生の物語です。

1995年、阪神・淡路大震災のニュース映像を見続けていた妻が姿を消し、茫然自失の小村(岡田将生)は、同僚から託された中身のわからない小さな荷物を届けるために訪れた釧路で、UFOにまつわる不思議な物語を耳にします。

時は流れ、2011年。家出少女・順子(鳴海唯)は、流木を集めては焚き火を燃やす関西弁の男・三宅(堤真一)との、炎を囲んだ静かな交流を通じて、自らの中にある孤独と向き合うことに――。

さらに2020年、パンデミックに覆われた世界で、信仰深い母のもと「神の子ども」として育てられた善也(渡辺大知)は、不在である父親の存在に疑問を抱き始めました。

そして2025年。警備員として働きながら、漫画喫茶で暮らし、東京の街でゴミ拾いを続ける片桐(佐藤浩市)の日常は、ある奇妙な再会によって動き出します。

人々の悲しみや不幸を糧とする巨大な“みみずくん”が再び地中で蠢き出したとき、人類を絶望から救うため、あの“かえるくん”(CV:のん)が帰ってくるのでした――。

村上春樹 ×『ドライブ・マイ・カー』のチームが集結した話題作

本作『アフター・ザ・クエイク』は、世界的な作家・村上春樹さんの短編集『神の子どもたちはみな踊る』を原作とした、野心的なプロジェクトです。

最大の注目点は、1995年の震災直後を描いた原作をベースにしながらも、舞台設定を大胆に変更し、現代に至る“30年間の日本の物語”として再構築した点にあります。 原作にある短編それぞれの時代を、“1995年(阪神・淡路大震災)”“2011年(東日本大震災)”“2020年(コロナ禍)”、そして“2025年(現在)”へと置き換えることで、断片的なエピソードを壮大な年代記へと昇華させました。

本作は、2025年4月に放送されたNHK土曜ドラマ『地震のあとで』と物語を共有するという、極めてユニークな制作形態をとっています。しかし、映画版は単なるドラマの再編集ではありません。 ドラマ版が各話をオムニバス形式で描いたのに対し、映画版は独自の追加シーンや編集、音楽によって、バラバラに見えた物語がひとつづきの“円環”のように繋がる、全く新しい長編映画となっています。 

この大胆な構成を支えたのは、まさに世界レベルのクリエイター陣。 プロデューサーの山本晃久さんと脚本家の大江崇允さんは、映画『ドライブ・マイ・カー』で米アカデミー賞を受賞した黄金コンビ。 そこに、連続テレビ小説『あまちゃん』の演出で知られる井上剛監督が参加しています。

キャスト陣も豪華な顔ぶれが勢ぞろいしました。 本作は30年にわたる物語を描くため、4人の俳優がそれぞれの時代の主人公を演じる“4人主演”という構成をとっています。 1995年の岡田将生さん、2011年の鳴海唯さん、2020年の渡辺大知さん、そして2025年の佐藤浩市さんがそれぞれの時代を担い、重層的な物語を紡ぎ出しています。 共演には橋本愛さん、堤真一さん、井川遥さん、錦戸亮さん、唐田えりかさん、吹越満さんといった実力派が集結。

なかでも、ひときわ強い印象を残したのが、渡辺大知さん演じる善也の少年時代を演じた黒川想矢さんです。「間違いなく天才」と称される名演を見せた黒川さんは、映画『怪物』での鮮烈なデビュー以来、天才子役として注目を集めてきました。

本作と同年の映画『国宝』では吉沢亮さん演じる主人公立花喜久雄の少年時代をつとめ、その高い演技力で第17回TAMA映画賞で最優秀新進男優賞に輝くなど、今まさに異彩を放っている若手俳優です。本作においても、宗教二世として葛藤する少年の揺らぎを、15歳とは思えない力強い眼差しと繊細な演技で表現。

さらに物語の鍵を握る“かえるくん”の声を、女優・アーティストののんさんが担当し、作品に唯一無二の彩りを添えました。

本作の完成度は高く評価されており、第27回上海国際映画祭 Asia Now部門へ正式出品が決定しています。

喪失の先にある「再生」と“村上ワールド”

本作『アフター・ザ・クエイク』を貫くテーマは“喪失と再生”です。1995年の震災を起点に、大切なものを失った人々が、再び歩み始める姿が描き出されています 。劇中で象徴的に使われる“地下”というモチーフは、物理的な場所であると同時に、登場人物たちの深層心理や過去への入り口をも暗示。彼らが地下へと降りていく旅路は、観る者にも内省を促します。

また、村上春樹作品特有の“明確な答えを提示しない”スタイルを踏襲し、物語の解釈を観客に委ねているのも大きな特徴です。安易な解決に逃げない誠実な物語づくりが、多くの映画ファンから支持されました。

阪神・淡路大震災からコロナ禍を経て現代へ――社会の大きな揺れの中で孤独を抱える人々の姿は、まさに不確かな時代を生きる私たちの鏡のようです。

一部には「内容が難解」「結末がはっきりしない」という戸惑いの声もありましたが、それ以上に「映像と音楽の融合が素晴らしい」「村上春樹の世界観にハマれる」「観終わった後の余韻が凄まじい」といった絶賛の声が後を絶ちません。

世界基準のチームが文学の金字塔に真正面から挑み、最高峰の俳優陣が魂を削る演技で応えた本作。映画『アフター・ザ・クエイク』は、まさに“絶賛の声が相次ぐ名作”と呼ぶにふさわしい、日本映画史に残る至高の一作です。


※記事は執筆時点の情報です