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20年前、声だけで勝負した“新人アーティスト” 圧倒的な存在感を放った“衝撃デビュー”

  • 2026.1.2

2006年の冬。街にはまだ冷たい空気が残り、朝の通勤電車や夜のリビングには、どこか張り詰めたような静けさが漂っていた。大きな事件やニュースがなくても、人それぞれの胸の内では「何かが始まりそうな予感」や「変わらなければならない焦り」を抱えていた、そんな時代だった。

そんな空気の中で、不意に流れてきた一曲があった。派手な演出も、強い言葉もない。ただ、まっすぐに前を見据える声だけが、静かに響いていた。

綾香『I believe』(作詞:絢香・作曲:絢香、西尾芳彦)――2006年2月1日発売

それは、誰かを励ますための歌である前に、自分自身へ向けた決意表明のようなデビュー曲だった。

声だけで空気を変えた、新人という存在感

『I believe』は、綾香のデビューシングルとして世に送り出された一曲だ。TBS系ドラマ『輪舞曲』の主題歌というタイアップはあったものの、この楽曲が強く印象に残った理由は、ドラマの力だけではない。

まず耳に残るのは、その圧倒的なボーカルの存在感だ。デビュー曲でありながら、声に迷いがない。過剰なビブラートや技巧に頼ることなく、芯のある発声で言葉を一つひとつ置いていく。その歌い口は、当時のJ-POPシーンにおいても際立っていた。

当時は、R&Bやロック、アイドルポップなど、多様なスタイルが混在する過渡期だった。その中で綾香は、ジャンルを主張するよりも先に、「声そのもの」で勝負するアーティストとして現れた。その姿勢が、このデビュー曲にははっきりと刻まれている。

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2005年、ドラマ『輪舞曲』制作発表で歌う絢香(C)SANKEI

派手さを排したメロディが残した強さ

『I believe』の楽曲構造は、決して複雑ではない。ピアノを軸にしたシンプルなアレンジが、楽曲全体を支えている。音数を抑えた構成だからこそ、メロディの起伏やボーカルの表情が、より鮮明に伝わってくる。

作曲には絢香自身と西尾芳彦が名を連ねており、デビュー時点から「自分の表現を自分で作る」という姿勢が明確だったことも、この曲の重要なポイントだ。与えられた楽曲を歌う新人ではなく、最初から“作り手としての視点”を持っていたことがうかがえる。

強く歌い上げているようで、実はとても繊細。前向きなのに、どこか不安も滲んでいる。

そのバランス感覚が、『I believe』を単なる応援歌ではなく、「現実を知った上で進もうとする歌」にしていた。

ドラマと共鳴した“静かな決意”

主題歌として起用されたドラマ『輪舞曲』は、運命や過去、複雑な人間関係を描いた作品だった。『I believe』は、物語を直接なぞることなく、登場人物たちが抱える「信じることの難しさ」や「それでも前を向く意志」と、自然に重なっていった。

ここで重要なのは、楽曲がドラマに寄り添いすぎていない点だ。あくまで一曲の独立した作品として成立しているからこそ、ドラマを知らないリスナーの心にも届いた。だからこの曲は、放送時間を離れても、ラジオや街角で“自分の歌”として受け取られていった。

結果的に、『I believe』はデビュー曲でありながら、綾香というアーティストの輪郭を明確に刻む役割を果たした。

はじまりの歌が、今も残している余韻

20年という時間が経った今、改めて『I believe』を聴くと、その完成度の高さに驚かされる。時代の音に寄せすぎていないからこそ、古びない。デビュー特有の初々しさと、すでに完成されていた表現力。その両方が、この一曲には同居している。

この曲が特別なのは、「夢を語る歌」ではなく、「迷いながらも進む歌」であることだ。だからこそ、当時のリスナーは年齢や立場を問わず、自分の状況を重ねることができた。

何かを信じたいけれど、確信は持てない。それでも一歩踏み出したい。

そんな感情を、声ひとつで受け止めてくれたデビュー曲。『I believe』は、20年前の“はじまり”であると同時に、今もなお、誰かの背中をそっと押し続けている。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。