1. トップ
  2. 24年前、伝説バンドが放った“最後の新曲” 解散直前に“音”を削ぎ落としたワケ

24年前、伝説バンドが放った“最後の新曲” 解散直前に“音”を削ぎ落としたワケ

  • 2025.12.30

2001年の冬の終わり。街にはまだざらついた空気が残り、音楽もまた「次はどこへ向かうのか」を探しているように見えた。華やかなヒットや過剰な演出が溢れる一方で、どこかで“区切り”を予感させる作品が、静かに姿を現れることもある。その1つが、この曲だった。

THE YELLOW MONKEY『プライマル。』(作詞・作曲:吉井和哉)――2001年1月31日発売

派手な復活劇でもなければ、感傷を前面に出した別れの歌でもない。それでも、この曲には後から振り返って初めて気づく「終わりの匂い」が、確かに封じ込められていた。

音が鳴る前に、物語はすでに始まっていた

『プライマル。』がリリースされた時点で、THE YELLOW MONKEYはすでに活動休止中だった。1990年代を駆け抜け、日本のロックバンド像を一段引き上げた存在が、いったん歩みを止めたあとに世に出したシングル。それがこの曲である。

結果的に、バンドは2004年7月7日をもって正式な解散を発表する。そうした後年の事実を踏まえると、『プライマル。』は事実上、解散前最後のシングルとして位置づけられることになる。

ただし、この曲は「最後だから特別」という顔をしていない。むしろ驚くほど抑制的で、淡々としている。その距離感こそが、当時のTHE YELLOW MONKEYの現在地を雄弁に物語っていた。

削ぎ落とされたロックが放つ、生々しい輪郭

『プライマル。』のサウンドは、THE YELLOW MONKEYの代表曲に見られるような派手なグラム感や、分かりやすい高揚とは少し違う。テンションは決して低くないが、前に出すぎない。音数は多くないのに、密度は高い。

その背景には、プロデューサーとして迎えられたトニー・ヴィスコンティの存在がある。デヴィッド・ボウイやT・レックスなどを手がけてきた彼は、吉井和哉が公言してきた音楽的ルーツとも深く結びつく人物だ。

ヴィスコンティの手腕は、「足す」ことではなく「整える」ことに向けられている。過剰な装飾を排し、バンドの呼吸や音の隙間までをそのままパッケージングする。その結果、『プライマル。』はロックでありながら、どこか裸のような感触を持つ楽曲に仕上がった。

undefined
2001年、東京ドームで活動休止コンサートをおこなったTHE YELLOW MONKEY(C)SANKEI

語りすぎない歌が残した余白

この曲の魅力は、メッセージを強く押し出さない点にもある。何かを断言するでも、感情を爆発させるでもない。ただ、淡々と音が進み、声がそこに重なる。

だからこそ聴き手は、そこに自分の感情や記憶を重ねてしまう。「これは何についての曲なのか」と考える前に、「なぜか心に残る」という感覚が先に来る。その余白こそが、『プライマル。』という楽曲の核心だろう。

活動休止後のシングルでありながら、再出発の宣言でもない。別れを強調することもない。ただ、今の自分たちが鳴らせる音を、そのまま提示する。その潔さが、逆に重く響く。

終わりを告げずに、終わりを予感させた一曲

THE YELLOW MONKEYは、その後長い時間を経て再結成を果たす。しかし2001年当時の『プライマル。』には、そうした未来を前提とした明るさはない。

あるのは、ひとつの時代を駆け抜けたバンドが、立ち止まりながら鳴らした“現在形の音”。終わりを言葉にしないまま、終わりの気配だけを残したロックだった。

24年経った今も、この曲が「特別な1曲」として語られ続ける理由はそこにある。静かで、無骨で、誠実だったからこそ、『プライマル。』は今も色褪せない。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。