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24年前、冬の街にそっと灯った“白い静けさ” 強さを封じた歌姫が残した“まっすぐなバラード”

  • 2025.12.20

街にはまだ、冬が持つ高揚感が残っていた。イルミネーションが灯り、白い息が夜の空気に溶けていく季節。彼女の名前を聞くだけで、自然とテンポの速いメロディや突き抜けるサビを思い浮かべる人も多かったはずだ。そんなイメージの只中で、そっと差し出されたのが、この静かな1曲だった。

広瀬香美『Search-Light』(作詞・作曲:広瀬香美)――2001年1月24日発売

眩しさを脱いだ、その先に

『Search-Light』は、広瀬香美にとって20枚目のシングルとして発表された作品だ。冬を一気に駆け抜けるようなポップネスとは異なり、この曲では明確に“立ち止まる選択”がなされている。

タイアップは、彼女のキャリアと深く結びついてきた「アルペン」のCMソング。だが、ここで鳴らされているのは、耳を奪う勢いや瞬間的な高揚ではない。映像の余白にそっと寄り添い、雪景色の静けさを壊さずに支える、極めて抑制されたサウンドだ。

静かに届く声の輪郭

この楽曲の中心にあるのは、音数を抑えたアレンジと、余白を意識したメロディラインだ。大きな展開や劇的な転調に頼ることなく、一定のテンポと呼吸感を保ったまま、曲は最後まで進んでいく。

そこに重なる広瀬香美のボーカルも、力強さを前面に押し出すものではない。張り上げることなく、しかし曖昧にもならない。感情を誇示しないからこそ、声の質感や言葉の輪郭が際立つ歌い方が選ばれている。

この時期の彼女は、声量やレンジの広さといった“わかりやすい武器”をすでに十分に持っていた。その上であえて、それらを使い切らない表現に向かったことが、『Search-Light』の最大の特徴と言える。

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広瀬香美-2009年撮影(C)SANKEI

バラードとしての確かな重心

『Search-Light』は、明確にバラードとして設計された楽曲だ。ただし、湿度の高い情感や劇的な盛り上がりに依存するタイプのバラードではない。旋律は終始フラットで、過剰な装飾を排しながら進行していく。

そのため、この曲は聴き手に特定の感情を強要しない。悲しみでも、決意でもなく、ただ“静かな時間”として流れていく。聴く側の状況や心の状態によって、自然と受け取り方が変わる構造になっているのだ。

冬の夜、車の中で流れていても邪魔にならない。ひとりの時間に耳を傾けても、感情を乱さない。そうした距離感こそが、この曲を長く聴けるバラードにしている。

光を探す歌が残したもの

タイトルにある『Search-Light』という言葉は、強く照らす光というよりも、暗闇の中で進むための目印のような存在を思わせる。この曲が描いているのも、答えを断言する物語ではなく、探し続ける過程そのものだ。

ウインターソングの象徴として消費されることを拒み、季節を越えて聴かれることを選んだような佇まい。派手な印象は残らなくとも、ふとした瞬間に思い出される。その静かな強さが、『Search-Light』という楽曲の本質なのだろう。

賑やかな冬の音楽の中で、そっと灯り続ける小さな光。その存在に気づいたとき、この曲は、確かにこちらを照らしている。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。