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19年前、仙台発“混成バンド”が放った“脱力”デビュー 洋楽と邦楽の壁を消した1曲

  • 2025.12.19

19年前の冬、街にはまだCDショップの明かりが残り、洋楽と邦楽の境目は今よりずっとくっきりしていた。英語で歌うことは特別で、海外の空気をまとった音楽は「どこか遠いもの」でもあった。そんな感覚を、肩の力を抜いたまま、ふっと塗り替えていくようなバンドが現れる。その第一声が、この曲だった。

MONKEY MAJIK『fly』(作詞:Maynard、Blaisemtax・作曲:Maynard、Blaise)――2006年1月25日発売

派手な宣言も、強い主張もない。ただ、自然に鳴っている。それなのに、確実に新しかった。

国籍もジャンルも、最初から越えていた

MONKEY MAJIKは、カナダ人のMaynardとBlaiseの兄弟、日本人のTAXとDICKからなる4人組バンドだ。結成の地は仙台。インディーズ活動を経て、この『fly』でメジャーデビューを果たした。

彼らの特徴は、いわゆる「洋楽っぽさ」や「邦楽らしさ」を意識的に混ぜた点ではない。そもそも境界を意識していないことにあった。

英語と日本語が同じ温度で並び、ロック、ポップ、ファンク、オルタナティブといった要素が、無理なく同居する。どれかを強調するでもなく、削るでもなく、バンドの日常として鳴らしている。その自然さが、当時のリスナーにとっては驚きだった。

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2013年、「ジョンレノンスーパーライヴ」に登場したMONKEY MAJIK(C)SANKEI

「洋楽」でも「邦楽」でもない居場所

『fly』を聴いてまず印象に残るのは、肩肘張らないグルーヴだ。テンポ感、風通しの良いアレンジ、そして軽やかなボーカル。技巧を見せつけるタイプではないが、音の重なりに無理がない。

英語が前に出すぎず、日本語が説明的にもならない。そのバランス感覚こそが、MONKEY MAJIKというバンドの核だった。

当時、英語詞を取り入れるJ-POPは珍しくなかったが、MONKEY MAJIKは、生活の中で自然に使われる言語として英語を配置した。その結果、聴き手は意味を追いすぎることなく、音楽そのものに身を委ねることができた。

仙台発という文脈が生んだ距離感

東京ではなく仙台を拠点に活動していたことも、彼らのスタンスに影響を与えている。流行の中心から少し距離があるからこそ、シーンに過剰に迎合しない。

『fly』には、「デビュー作らしさ」特有の力みがほとんど感じられない。それは、バンドが自分たちの立ち位置を、すでに理解していたからだろう。

売れるために何かを足すのではなく、削るでもない。ただ、今鳴っている音を信じる。その姿勢が、後に数々のタイアップやヒットへとつながっていく土台になった。

静かに始まった、新しいスタンダード

MONKEY MAJIKは、このデビュー以降、「ミクスチャー」や「ハイブリッド」といった言葉で語られがちになる。だが本質はもっとシンプルだ。

違いを主張しないことで、違いを日常にしてしまったバンド。それがMONKEY MAJIKだった。

『fly』は、大きな革命の音ではない。けれど、確実に空気を変えた一曲だ。

19年経った今も、英語と日本語が並ぶことに違和感を覚えない私たちがいる。その「当たり前」の始まりに、この曲は静かに存在している。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。