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24年前、“言葉にできない気持ち”を抱えた冬 静かに咲いた“等身大ロック”が残した余韻

  • 2025.12.20

24年前の冬、街は少しだけ息を潜めていた。世紀が変わる高揚感と、その先に何が待っているのか分からない不安。その両方が、冷たい空気の中に溶け込んでいた頃だ。華やかなヒット曲が溢れる一方で、「気持ちをうまく言葉にできない」感覚を抱えた人たちも、確実に増えていた。

そんな空気の中で、ひっそりと、しかし確かな存在感を放ちながらリリースされた一曲がある。

くるり『ばらの花』(作詞・作曲:岸田繁)――2001年1月24日発売

それは派手なサウンドでも、分かりやすいメッセージでもなかった。けれど、この曲は、あの時代を生きていた人の心の奥に、静かに根を下ろしていった。

バンドの歩みと、この曲が置かれた場所

『ばらの花』は、くるりにとって7枚目のシングルにあたる。1996年に京都で結成されたくるりは、オルタナティブロックを軸にしながらも、フォークやポップスの要素を自然に取り込み、日本のバンドシーンに独自の立ち位置を築き始めていた。

音楽性の幅広さと完成度の高さで評価を高めていた時期。そんな流れの中で届けられた『ばらの花』は、彼らのキャリアにおいても、ひとつの節目となる楽曲だった。

作詞・作曲を手がけたのは、フロントマンの岸田繁。彼の書く楽曲は、日常の風景や感情を大仰に飾り立てることなく、淡々とした視線で切り取ることで知られている。この曲もまた、その作風が色濃く表れている。

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2009年、GAP創立40周年記念イベント「40周年記念ホリデーキャンペーン」 に登場したくるり・岸田繁(C)SANKEI

声と音が生んだ、静かな説得力

『ばらの花』の最大の魅力は、音数を抑えたアレンジと、岸田繁の淡々とした歌声が生み出す“距離感”にある。感情をぶつけるのではなく、あくまで一定の温度を保ったまま、リスナーに語りかけてくる。

ギターやリズムは前に出すぎず、旋律も過剰な起伏を持たない。それでも、曲全体には確かな緊張感が漂っている。強く主張しないからこそ、聴き手は自分の感情を重ねる余白を与えられるのだ。

この曲を聴いていると、何か大きな出来事が起きるわけではない。それでも、心の中で静かに何かが動いていく。その感覚こそが、『ばらの花』が多くの人の記憶に残り続ける理由だろう。

時代と共鳴した“等身大”という価値

2001年という時代は、音楽シーンにおいても転換期だった。派手なサウンドや分かりやすいヒット構造が主流である一方で、内省的で個人的な表現に価値を見出すリスナーも増え始めていた。

『ばらの花』は、まさにその流れと静かに共鳴した楽曲だった。ランキング上位を賑わせるタイプの曲ではなかったが、口コミやライブを通じて、じわじわと支持を広げていった。

25年後も変わらない、花のような存在感

リリースから24年が経った今でも、『ばらの花』はくるりの代表曲のひとつとして語られている。この曲は、時代を象徴する大きな事件や物語を背負っているわけではない。けれど、日常の中でふと立ち止まる瞬間に寄り添ってくれる、そんな普遍性を持っている。

大きく咲き誇るわけではないが、確実にそこにある花。その姿は、25年経った今も、変わらず私たちの心のどこかで静かに揺れている。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。