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21世紀初め、伝説バンドが“解散前”に放ったもう一つの“ラストシングル” 最後だけど明るいワケ

  • 2025.12.28

「24年前、この曲が突然街を明るくした瞬間を覚えてる?」

2001年の冬。新しい世紀を迎えた街には、まだ少しぎこちない期待と、不思議なざわめきが漂っていた。澄んだ冷気が頬に触れるたび、何かがゆっくり動き始めるような気配がする。そんな季節に、弾むように飛び込んできたのがこの曲だった。

JUDY AND MARY『ラッキープール』(作詞:Tack and Yukky・作曲:TAKUYA)――2001年1月24日発売

フジテレビ系ドラマ『2001年のおとこ運』の主題歌としてオンエアされ、テレビの向こう側からも、街のあちこちからも、軽やかな音が跳ねるように広がっていった。JUDY AND MARYの21枚目のシングルであり、オリジナルとしては事実上のラストシングル。奇しくも、解散発表後すぐのタイミングで届けられた1曲でもあった。

透明なスピード感が弾けた“終章の息づかい”

『ラッキープール』を聴くと真っ先に感じるのは、音の軽さと速さだ。ギターは風のように流れ、ドラムは跳ねるように前へ押し出し、ベースは曲全体をしっかりと支えていく。冬の空気を切り裂くようなその疾走感は、当時のバンドのテンションをそのまま封じ込めたようでもある。

2001年1月9日、JUDY AND MARYは新聞の全面広告で解散を発表した。ファンにとっては衝撃的な知らせだったが、同時に“これから最後の季節が始まる”という実感をもたらした。そのわずか半月後に届けられたのが『ラッキープール』だった。

明るいのに、どこか胸がきゅっとする。終わりが近いことを知りながら放たれた音の鮮度が、曲に独特の輝きを与えていた。

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2001年、東京ドームで開催されたJUDY AMD MARY解散コンサートより(C)SANKEI

TAKUYAサウンドの自由さが冬を鮮やかに照らした

作曲・編曲を手がけたTAKUYAのサウンドは、この曲でも圧倒的に自由だ。コードの跳ね方、展開のスピード、軽やかさの中にある芯の強さ。ロックでもポップでもなく、JUDY AND MARYだけの色彩を持った音が、鮮やかに飛び散る。

YUKIの声がそこに重なった瞬間、音楽は急に色を帯びる。透明で、細くて、なのに芯があって、わずか数秒で聴き手の感情を引き上げる。

“聴いた瞬間の気分の変わり方”こそ、この曲の最大の魔力だった。

“最後の季節”に置かれた一筋の軌跡

バンドはその後、2月にアルバム『WARP』をリリースし、3月7日と8日の東京ドーム2日間のライブをもって解散した。ちょうどその翌日の3月9日には、『WARP』収録曲『PEACE』にストリングスアレンジを施した『PEACE -strings version-』が限定生産シングルとして発売されている。

『PEACE -strings version-』が“本当のラストシングル”だが、解散前のシングルとして最後にリリースされたのは『ラッキープール』だった。

だからこそ、この曲に刻まれたスピードと色彩が、ファンにとっての“終章の象徴”として記憶され続けている。

音が跳ねるたび、記憶がそっと浮かび上がる

『ラッキープール』は、派手さや技巧を見せつけるための曲ではない。それでも、音が軽やかに跳ねるたび、当時の空気や街の色がふっと蘇る。

終わりが見えていたはずなのに、音は前へ進み続けた。明るくて、眩しくて、少し切ない。

その矛盾こそが、JUDY AND MARYというバンドの魅力であり、この曲が今もなお愛される理由なのだ。

『ラッキープール』は、2001年の冬の記憶とともに、そのまま時代に刻み込まれている。街の空気を揺らしたあの高揚感は、今もなお、再生ボタンひとつで鮮やかに跳ね返ってくる。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。