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大人気バンドが覚悟を決めた“人生の終点”テーマ ただのラブソングじゃないワケ

  • 2025.12.26

14年前、人生の「さいご」を想像したことはあっただろうか?

2011年1月。街はいつも通りに動き、日常は問題なく続いているように見えた。けれど心の奥では、何かが少しずつ揺らいでいた。永遠だと思っていたものが、実はとても脆いのではないか。そんな感覚が、言葉にならないまま漂っていた時代だった。

スキマスイッチ『さいごのひ』(作詞:スキマスイッチ・作曲:スキマスイッチ)――2011年1月26日発売

この曲は、恋愛の終わりを歌っているわけではない。もっと先、もっと深い場所まで視線を伸ばし、「人生を誰と、どう終えるのか」という問いを、静かだが極めて強い言葉で投げかけてくる。

ふたりが真正面から向き合った“人生の話”

『さいごのひ』は、スキマスイッチにとって14枚目のシングル。キャリアを重ね、ポップユニットとして成熟期に入った彼らが、この曲で扱ったテーマは、軽やかな日常ではなかった。

制作過程では、恋愛観や愛情観にとどまらず、生きることや死についてまで、ふたりで対話を重ねたという。その姿勢は、楽曲全体に流れる「覚悟」として、はっきりと刻まれている。

大橋卓弥の歌声は、えきれないほど大きな感情を、崩さないよう丁寧に手渡している。常田真太郎のピアノがそれを支えるように、起伏を誇張せず、人生の時間軸そのものをなぞるように進んでいく。

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2014年、映画『THE LAST−NARUTO THE MOVIE−』完成披露試写会舞台挨拶に登壇したスキマスイッチ(C)SANKEI

日常から終点へと向かう、確かな劇性

この曲には、確実に“展開”がある。ただしそれは、音量やテンポの変化による劇性ではない。

前半に描かれるのは、何気ない日常の延長線にある風景だ。だが曲が進むにつれ、視点は少しずつ遠くへ、深くへと移動していく。

気づけば歌は、未来や記憶を超え、「この世の終わり」という極端な地点にまで到達している。これは偶然ではない。『さいごのひ』は、恋のクライマックスではなく、人生の終点をゴールとして設定した、極めて珍しいラブソングなのだ。

だからこそ、この曲は感情的だ。切実で、逃げ場がない。優しいのに重く、静かなのに劇的。その矛盾を成立させている点に、この楽曲の本質がある。

時代と“つながってしまった”という事実

結果として、この曲はリリースから間もなく、時代の大きな出来事と隣り合うことになった。

もちろん、意図されたものではない。それでも、『さいごのひ』が内包していた「失われる日常」や「限られた命」というテーマは、多くの人にとって、あまりにも現実的なものになってしまった。

だからこの曲は、象徴として語られなかった。希望の歌としても、鎮魂歌としても、簡単に消費されることを拒んだ。その結果、語られにくい場所に置かれたまま、個人の記憶に沈んでいった

それは、この曲が背負ってしまった、非常に悲しい運命でもある。

ひとりで向き合うために残された一曲

『さいごのひ』は、誰かと共有するための歌ではない。人生のある瞬間、ひとりで聴き、ひとりで受け止めるための音楽だ。

派手な評価も、大きな物語化もされなかった。それでも、必要な人のもとには、確実に届き続けている。人生の終わりを想像してしまうほど、誰かを大切に思った経験があるなら、この曲は必ず胸に残る。14年が経った今も、『さいごのひ』は答えを与えない。

ただ、問いだけを残す。その問いと向き合う時間こそが、この曲の本当の価値なのだ。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。