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大月壮士──「日本人のエモーショナルな部分を表現してみたくなった」【THE ONES TO WATCH 2025 vol.8】

  • 2025.12.1

「自分のショーを改めて客観視したとき、昔やりたかったことと違っていたのかなって思うように」

若手デザイナーの支援・育成を目的にしたプロジェクト、「LVMHヤング ファッション デザイナー プライズ」で「ソウシオオツキ」が2025年度のグランプリを受賞した。「ダブレット」の井野将之、「セッチュウ」の桑田悟史に続く、日本人としては3人目の快挙だ。1990年生まれの大月は文化服装学院に通いながら、山縣良和が主宰する「ここのがっこう」で学び、キャリアをスタートした。「影響を受けてきたデザイナーは、ジョルジオ・アルマーニ、エディ・スリマンなど、挙げればきりがありませんが、20歳のときに『ここのがっこう』に入ったことで、憧れだけでは王道に勝てないことに気づきました。日本人ならではの独自性をどうクリエイションに昇華できるか、それが自分にとっての課題なんじゃないかと考えるようになりました」。大月が得意とするのはメンズウェアのフォーマルでありながらも少しの「たわみ」や「ゆがみ」を用いた和と洋の融合だ。

2023 - 24年秋冬では数珠や家紋、弔事など日本の習わしや伝統を思わせるモチーフが随所に見受けられた。そんななか、2025年春夏にリブランディングを図った。「それまでは外から見た伝統的な日本を表現してきたのですが、自分のショーを改めて客観視したとき、昔やりたかったことと違っていたのかなって思うように。日本のブランドはすでに西洋文化のなかでも重要なポジションだと捉えていたのですが、もっと内面に浸透する日本人のエモーショナルな部分を表現してみたくなりました。ファッションはダサいかダサくないかという視点で語られることも多いかと思うのですが、もしかすると今までナシだと思っていたことも、価値観の違いや時代の流れでかっこいいと思った瞬間、それがアリになる。ひとつの正解はないというか。メンズウェアもディテールをどうずらしたら面白く、だけどエレガントに見えるかを意識しつつ、理解されにくい日本人の精神性みたいなものをテクニックに落とし込みました」

「チーム作りを強化してブランドの規模をもっと大きくしていきたい」

2025 - 26年秋冬に続き、2026年春夏は日本の80年代後半から90年代初頭のバブル期がインスピレーション源だ。ジャケットは肩幅が広く、袖口のギリギリにボタンが配置され、シャツにはネクタイをねじ込んだようなドレープが施されている─バブル期の日本人男性が着ていたスーツスタイルを彷彿させるどこか不完全なバランスも、大月にとっては新鮮に映る。そして、感じたわずかな違和感を装飾やディテールへと昇華させていく。「80年代の日本にノスタルジーを感じるんです。経済的にも潤っていた時代で、今では信じられないようなエピソードもたくさん聞いてきました。発展していく日本に憧れを抱きつつも、どこかシニカルで滑稽な一面にも惹かれる。テイラーの内側に潜む日本人の抒情みたいなものが、海外の人にどこまで伝わっているかは正直わからないのですが、パターンメイキングの面白さと写真のムードで日本的だと感じてくれている人も多いです」

大月にとって飛躍の年となった2025年。今後、新たに挑戦してみたいことを聞いた。「まずは環境を整えることが最優先です。今はブランドの規模も小さいので、スタイリングも自分でやることが多かったのですが、チーム作りを強化してブランドの規模をもっと大きくしていきたいですね」。更なる飛躍への足がかりとして、2026年1月には、イタリア・フィレンツェでメンズプレタポルテ見本市「ピッティ・イマージネ・ウオモ」のゲストデザイナーとして、2026 - 27年秋冬メンズコレクションを披露する。

Profile

おおつき そうし

1990年生まれ、千葉県出身。2011年文化服装学院メンズウェアコースを卒業。同時期に山縣良和が主催する「ここのがっこう」で学ぶ。15年、メンズブランド「ソウシオオツキ」をスタート。16年「LVMHヤング ファッション デザイナー プライズ」に選出され、翌年パリで展示会を行う。25年「LVMHプライズ」でグランプリを受賞。ZARA/ SOSHIOTSUKI初のコラボレーションコレクション “A Sense of Togetherness”(ウィメンズ、メンズ、キッズで構成される) が12月4日から発売される。

Photo: Ton Zhang Text: Megumi Otake Editors : Yaka Matsumoto, Sakura Karugane

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